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19 May

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23 October

何れそんな日が訪れるかもしれない

花崎とちょっとだけ井上と、… が出てくるお話。
たぶん花崎が30歳を超えているくらいな感じで。
あれ……成長が足りない!?




花崎が家業を継ぐために、明智探偵事務所を離れて10年。
宿泊予定のホテルの前で、仕事明けの井上と偶然再会した。
ホテルに泊まれる部屋用意するからという、強引な花崎の誘いで井上はホテルのバーに行くことを了承した。
正直なところ、今日の夜までかかった仕事を纏めてたった今まで報告していたので、運転して帰る気力もあまりなかったので泊まれるのは井上としても助かるものだった。
それに、井上にも久しぶりに会った花崎と話したいという想いもあった。
さらにその日は、花崎にもう一つ再会があった。

互いの近況や、昔の思い出を話して盛り上がりはしたものの、疲れ切っていた井上は3杯目を煽った辺りで意識を失った。
眠った井上は、まあ後で自分が背負えばいいかとブランケットを借りて井上にかけて、花崎は残っているつまみを口にしていた。
「明智探偵事務所は随分盛況なようで」
その声と同時に、花崎とは反対側の井上の隣の椅子が引かれた。
相手を見て、花崎の目が一度揺れる。
「まあね。井上先生頑張ってるから昔以上の信頼と知名度だよ」
が、拗ねたように逸らして言いながら、マスターに酒のお代わりを注文した。
ついでに座った相手にもビールを注文してやる。
「お、悪いな」
出されたビールに嬉しそうな声をあげて、一気に呷った。
それを横目で見ながら、ピクルスにピックを刺す。
「で、俺の隣に座らなかったのは殴られるの警戒して?」
「さあな。でも花崎グループの跡取りがバーで酒を飲んで人を殴ったってのは外聞が悪いじゃねーの?」
「そうだね。でも、隣にいたら偶然肘が鳩尾辺りに当たちゃったってこともあるかもよ」
「ならこの席の選択は正しかったってことだ」
にやり、と口元がゆがむ。
「井上起こそうかなー。起きたら絶対あんたの事締め上げてくれるだろうし」
「おいおい、高級ホテルのバーで流血沙汰とか御免だぞ」
慌てた言い分に、花崎はやや呆れる。
「そこまでされるくらいのことはしたって自覚あるんだ?」
「………まーな」
少し黙った後、肩を竦めて頷いた。
「まあ、やめてあげる。井上には悪いけど、老体には流石に可哀想だし」
老体、と敢えて言ったのだが、やはり気に障ったようで目を見開いて袖を捲った。
「俺はまだまだ現役よ? 弛んだ部分なんてないし筋肉だってほらこの通り」
腕を曲げて力こぶを見せられて、やや冷えた視線を向けた後、井上にずらす。
「ならやっぱり起こそうか?」
「やめてください」
素直に言ったので、許してやることにした。
こんな状態で起こしても井上が可哀想だというのもある。
「で、今俺の前に現れたってことは、帰る決心がついたの?」
「どうだろうなあ」
苦笑して残りのビールを煽る。
酒を切らすとふらりと立ち去ってしまいそうな気がして、花崎はすぐにゆっくり飲めそうな酒を追加注文する。
「井上も野呂もまあ間違いなく怒るだろうけど、たぶん仕事にあぶれたいい歳したオッサンの一人くらいは雑用係で雇ってくれると思うよ」
「雑用係なのか?」
微妙そうに眉を寄せるが、それでも優しい対応だろうと花崎は思う。
「一番下っ端だろうね。掃除係とかにもなるかも。掃除の仕方覚えた方が良いんじゃない?」
「うへー」
嫌そうに呻いて、新しく来た酒に口をつける。
「ちなみに小林は怒ってない。てか気にもしてないかも」
「それはそれで寂しいな」
呟いて、それから花崎に視線が向けられる。
「お前は?」
「俺?」
「お前ならどうする?」
真面目な声で問われて、花崎は少し考える。
「俺はもう明智探偵事務所辞めちゃったしなあ。でもそうだな。俺は一発足に撃ち込んでやったし他の奴らよりは怒ってないかな」
それから、苦笑してそう言った。
「そうか。てか一発撃ち込むってのも相当だよな? 当たりどころ悪けりゃ歩けなくなるぞ」
「歩けてるから悪くなかったってことだね。知らなかった? 俺、ワイヤーでもブーメランでも銃でも狙ったところに当てんの上手いんだよ?」
「知ってたよ」
花崎が笑って言えば、苦笑して頷かれた。
そしてグラスを煽って酒を空にすると、花崎が追加をする前に立ち上がる。
「じゃあ酒もなくなったし、井上先生が起きる前に今日はトンズラさせてもらおうかね」
「探偵前に逃げ出すって、怪盗にでも職業替え?」
「いいね、怪人とでも名乗ってやろうか」
その言葉に、奔放に動き回る彼は後から動く探偵より向いているかも知れないと思ってしまった。
「いいんじゃない? それ探偵が凄く追いかけたい気持ちになるだろうし」
だがその言葉に、一気にやる気を削がれたらしい。
「やめとくわ。お前たちの能力は俺が一番分かってるからな。今ここにいた痕跡を残した以上速攻で追い詰められる気しかしねーわ」
肩を落として、踵を返した。
「あ、待った」
それを慌てて花崎が止める。
「なんだよ」
「見逃してあげるから、井上部屋まで運んで」
と、隣でいまだに目を覚まさない井上を示す。
「老体を労わろうって気持ちはねーの?」
「なら今すぐ起こして自力で歩いてもらうか―」
わざとらしく花崎が呟けば、降参とばかりに手をあげた。
「ったく…。わーったよ。わかりました」
そして言われた通り、井上を抱え上げる。
「重っ!!」
「そりゃ、井上鍛えてるもん。服で気づかないけど脱いだら結構すごいよ」
花崎が知るのは10年前だがその時以上に体がしっかりしているので間違えてはいないだろうと思っている。
「いや、分かるけど……」
現在その体を抱えている本人にも同意されたので、確かだろう。
探偵は体が資本だ。
車椅子生活だった頃に鍛えられた上半身と、義足を使いこなせるようになって以前のように走り回るようになった井上は、全身無駄なものなどないと言えるくらいしっかりと鍛え抜かれていた。
背負うのも一苦労なので、肩を貸す形で運ぶのを横目に、花崎はさっさとエレベーターに向かい、呼んでおく。
辿り着いたタイミングで丁度よくエレベーターが開いたので二人とお荷物一人で乗り込んだ。
「ここ。井上用に取った部屋」
「さっすが花崎家。お友達のお部屋も立派なの用意するねえ」
「まあ、このフロアは年間契約で借り切ってるからね」
花崎グループへの急な来客にも対応できるように、常に部屋を押さえておく必要がある。
何時何室必要になるか分からない上にセキュリティの面から考えてもワンフロア借り切った方が色々と都合がいいのだ。
カードキーで井上に借りた部屋を開錠する。
「これでいいか?」
何とか部屋まで運び入れた井上をベッドに横にして、腰に来たと伸びをすしながら問われて、花崎は頷いた。
「サンキュ」
礼を言って、花崎は井上の靴を脱がせて布団をかけてやる。
「井上起きないかなーって期待してたんだけど、起きなかったから仕方ないか」
「おーい、見逃すとか言っておいてその企みはヒデーんじゃねーの?」
しかし一応、その企みには気づいていたのだろう。
軽い口調で言ってくる。
もし本当に起きていたらどうしたのか花崎は若干気になった。
目を覚ましても逃げられる自信があったのか、井上が起きてしまったら諦めるつもりだったのか。
まあ、井上が目を覚まさなかった以上、無駄な憶測だ。
オートロックなので鍵を残し、花崎達は部屋を出る。
「あ、今は見逃してあげるけど、話さないとは言ってないから」
出たところで言えば、顔を顰められた。
「酷くねえ? 俺明日から生きた心地しないじゃねーか」
「だろうね。野呂も井上も他の皆も、昔とは比べ物にならないから本当にあっさり追い詰められちゃうかもね」
まだ、明智探偵事務所が本当の意味で明智探偵事務所だったころから優秀だった彼らの成長ぶりを考えたのだろう。
若干遠い目をしている。
「嫌なら諦めて帰ってくればいいんだよ」
「そうだなー。それもまあ、考えてみなくはねーけどな」
花崎に姿を見られる証拠を残したということは、それもまた一つの選択肢として存在していると思ったのだが、まだ、そのつもりはないようだ。
「往生際が悪いね」
「簡単に往生するつもりもねーからな」
悪戯っぽい笑いを浮かべて帰ってきた答えに、花崎も笑みを返した。
「じゃあ、また、ね。せ・ん・せ・い」
けれど、まだ、ということは何れがあるということだとも花崎は考えた。
「先生なんてダサい呼び方すんなって、昔散々言っただろ」
「だからだよ。ダサく捕まっちまえ」
「あ、ひでーなあ!」
言いながら、大きな手が花崎の頭をかき混ぜるように撫でる。
花崎も大きくなったつもりだが、残念ながら井上にも勝田にも、恩師にも身長で追いつくことはできなかった。
「俺は探偵でも警察でもないから、逃走犯は捕まえないけど、捕まったら大人しくお縄についてね。次に会ったら就職祝いでまたお酒奢ってあげるよ」
少し上からのそれが少しくすぐったくて、しかし花崎もそれなりの歳なのに振り払う気になれないのが少し悔しくて、唇を尖らせて憎まれ口を言ってみる。
「それ俺が捕まるの前提だよな?」
撫でていた手が押さえつけるように力を籠めてきたので、そこで漸く花崎はその手を振りほどいた。
「明智探偵事務所は明智小五郎がいた時ほど甘くないから」
喧嘩を売るように笑って見せれば、同じような笑みが返される。
「ふーん、じゃあまあ、人の金で酒が飲みたくなるまでは逃げ回って、どれほど進化したのか試験してやろうじゃねーの」
「就職適用試験に利用されないように精々頑張ってね」
「ああ。そうするわ。じゃあ花崎……また、な」
後ろ手に手を振って、歩き去っていった。
その姿を見送って、乱された髪を直すように撫でる。
「やっぱ一発くらい殴っておけばよかったかな」
呟くが、すぐに首を振る。
だって、〝また〟機会はあるのだから。
「明日、井上に説明するとき怒られない言い訳考えないと……」
これだけカメラに残るような行動をしたなら、井上達ならその気になれば捕まえられるだろうと、何となく見逃してしまったが、それとこれとは話が違うと下手したら野呂と二人がかりで怒られかねない。
「よし、フロントに手紙を預けて明日会わないように帰ろう!!」
顔を合わせなければ流石に怒りようがないだろうと、花崎は思いついて自分用の部屋に戻った。

数日後、行方不明の明智探偵事務所所長を探し出すより簡単に調べられる、花崎グループ重役の予定の隙間を的確に突いて、事務所に呼び出されることとなる。

 

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