忍者ブログ
07 May

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

07 January

七草粥

1月7日なので新年一発目の文章はイチャイチャシリーズで季節ものです!



「ほい小林」
「なんだこれ?」
事務所の給湯室でなにかしていた花崎が、持ってきた器を小林に差し出した。
正確には目の前の机に置いた。
「七草粥」
「ななくさがゆ?」
疑問に思いながら小林が器を覗き込めば、確かに粥が入っていた。
ところどころ緑のものが見える。
「春の七草が入ってんの」
「春の七草ってなんだ?」
「春に生えてくる草?」
「なんでわざわざ草なんて食うんだよ」
花崎の言葉で、緑のものの正体を理解した小林は首をかしげる。
小林は雑草も食べたことがある。
中にはそこそこ食べられるものもあったが、基本的にはえぐみや苦味があって不味いものが多かった。
あまり良い思い出はない。
それを敢えて食べようとする花崎の行動が理解できない。
「正月で食いまくった胃腸を休めるのと、無病息災を祈るためにあんだって。小林、正月もち食いまくってたじゃん」
「別に僕の腹は問題ないぞ」
正月は事務所が休みのため、花崎の家で世話になった小林は確かによく食べたし、事務所に戻ってからもレンジやオーブンを使えば小林でも食べられるそれをなくなるまできっちり食べきった。
他のメンバーが呆れた顔をしていたのは覚えている。
とはいえ、別に休めなければならないような腹の調子ではない。
「いいからいいから。気持ちみたいなもんだし」
しかし、花崎は粥をすすめてくる。
「小林に元気でいてもらいてーし」
「……こんなの食わなくても別に僕はビョーキになんかならねー」
元気でいてもらいたい、と花崎に言われていらないとは口にできないながらも、やはり草を食べたいとは思わない。
「食ってくんねーの?」
しかし小林のどちらかというと拒否の姿勢に、花崎がいつになくがっかりしたように眉を下げて未だ小林の手に取られない器に視線を向けた。
「別に……食わねーとは言ってねーだろ」
そんなに落ち込まれると思っていなかった小林は、思わず慌てたように器を手にとった。
「よかったー!」
途端、花崎が嬉しそうに顔を輝かせた。
「なんでそんなことで喜んでんだよ」
粥の一つで一喜一憂する花崎の態度に、やはり小林は何が何だか分からない。
分からないが、とりあえず食べたら花崎が喜ぶだろうという事だけは理解したので、添えられたスプーンで粥を掬った。
「いやさ、粥くらいなら俺でも作れるかなーって思って、材料もあったしうちで作り方聞いて初めて作ったからさ」
「アチッ」
聞いたタイミングと口に含んだタイミングが重なった小林は舌に熱さと痛みを感じて声を上げた。
「え、小林火傷した!? っいて……」
心配から慌てて伸ばされた花崎の手ははじかれてしまったが、花崎はいつものことなので気にせず手を振りながら笑みを浮かべる。
「ちゃんとフーフーして冷まして食わねーと」
「それより手は大丈夫だろうな?」
「うん。なんかいつもより弱かったし、擦り傷すら出来てねーから」
「ならいい。気をつけろ……」
花崎の無事を確認して、それから改めて器に視線を向ける。
「これ、お前が作ったのか?」
「え? ……うん」
頷いた花崎は、美味しいかとは聞かない。
味はほんのり塩味がするだけの、シンプルなもので正直味気はない。
試食したのだから花崎も知っている。
ピザやハンバーガーを好む小林にはおそらく味付けが薄すぎるだろうともわかっている。
けれど不味いわけではない。
見ていてくれた料理人が美味しくなる今風の味付けを教えてくれるとも言っていたのだが、粥とは言え花崎がまともに、しかも一人で料理をしたのはこれが初めてである。
自分で食べるなら色々試したであろうが、小林に食べさせたかったのと自分ひとりで完成まで持って行きたかったのもあって、たとえプロが近くで見ていようと何が起こるかわからない以上、下手な手を加える気にはなれなかったのだ。
小林が喜ぶ美味しいものは世の中に沢山ある。
それこそ自分が作る必要なんてないくらいに。
それでもなんとなく、気が向いてしまったのだ。
気が向いたら試したくなったのだ。
大して美味しくもなく、小林が言ったようにわざわざ草と言われるものを食べさせる必要もないのもわかっている。
下手したら小林にとっては嫌がらせに近いかも知れないとも思った。
でも、「小林に元気でいてもらいたい」という想いを、小林の身になる食べ物で食べてもらいたいとも思ってしまったのだ。
触れ合えない恋人関係は、互いに想いをどうにか伝えようと必死になる。
世の恋人が簡単にできることができないから。
信じていても、信じられていても、それでも、いや、だからこそ。
信じてもらえる想いを届けたいのだ。
それに何より、自分の思いが大切な人に届くのが嬉しくてたまらない。
しかし、自分が作ったのだと舞い上がっていた花崎はここに来て現実に肩を落とす。
いくら思いを込めようと、小林に美味しくもないものを食べさせてしまった。
「まあ、ご利益祈願の気持ち的なもんだから全部食う必要はねーからな」
一口でも食べてくれただけで十分だ、と思う事にして花崎はそんなことを言った。
「はあ? 全部食うに決まってんだろ」
その言葉に小林は言われた理由が全く分からず目を瞬かせる。
花崎が小林のために作ったものを残すなんて、小林としてはとんでもないことだ。
「でも草だし……」
花崎としては、美味しいものを食べて輝いた小林の顔の方が好きである。
「ちょっとしょっぱくて慣れると美味い」
「え? 美味いの!?」
小林が食に関してお世辞を言わないと花崎は信じているので、まさかの言葉に目を瞬かせる。
「これまだあんのか?」
「粥? うん。あと1杯か2杯あるよ」
余っててもキッチンが困るだろうからと、残りは自分で処分しようとスープジャーいっぱいに詰めてきたのだ。
「全部食っていいか?」
この問は、花崎が食べる分を残す必要があるかという問いである。
「え、いいけど……俺飯食ってきたから今腹も減ってねーし」
粥3杯なら小林ならあっという間に食べるだろうと想像がつくので、無理をして、とはやはり花崎も思わないが、もっと食べたいと思うほど気に入るとは完全に予想外である。
「小林、割と薄味好きなの?」
「別にそうでもねーけど……なんかこれは薄くても美味い」
一口一口、噛み締めるようにしっかりと味わいながら小林は匙を進める。
その様子は確かに美味しいものを喜んで食べているように見える。
「なんかわかんねーけど、小林が美味いって思うなら良かった!」
奇跡的に小林が七草粥の味が好みだったのかもしれない、と花崎は思うことにした。
もちろん奇跡でもなんでもなく、普通に食べられるものに『愛情』と『好きな人の作ったもの』というスパイスを足した結果である。



*******あとがき******

どうも、花崎の面倒を見たい小林を心のどこかに住まわせているらしく
実は花崎が小林の為に料理を手作りするという話を書いたのは初めてです。
色々食べさせたいけど、買い与えるイメージの方が大きかったのかもしれません。
花崎は自分の分なら面白おかしく色々試してみたがるけど、
食べさせるために作るとなると真面目に作るような気がします。
味見もちゃんとする。
でも闇鍋とかやったら食べられるけど変なものを入れそうな気もします。
花崎さんちは落ちたものは食べないけど、
食材を無駄にするような教育はしてないと思うので変だけど食べられるもの。
つまり遊ぶときとそうでない時を使い分けるってことですかね。
何言ってんだかわからなくなってきましたのでここまでにしておきます。
こんなところまでお付き合いありがとうございました。

拍手

PR