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19 May

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27 April

First experience 後編

続きものです。文字数の関係で分割されてしまいました。
前編からご覧ください。
前編へ戻る





「へ?」
疑問に思う間もなく花崎はベッドに押し倒され、再び小林の下敷きにされる。
握っていたティッシュが手から転がり落ちて散らばった。
あーあ、と思いながら、続き…と、小林の言葉の意味を考える。
直ぐに思い至り、まさか、と血の気が引くのを感じた。
「小林! ない! それはない!!」
慌てて逃げようとするが、流石に上に乗り上がられていては簡単にはいかない。
「セックスするって言っただろ」
何で今更抵抗すんだと、不思議そうに花崎を見る小林。
「いや、でも!」
花崎は小林のそれが自慰の延長だと思っていた。
一時的な熱の高ぶりに浮かされているだけだと思っていた。
だから一度出してしまえば落ち着くだろうと考えたのだ。
そこからして間違えていた。
小林は最初から花崎との繋がりを求めていたのだから、それで止まるはずがない。
下の孔に指が触れる。
「ヤダって小林!!」
またしても嫌だと言い始めた花崎に首を傾げるが、先日大友が言っていたことを思い出した。
馬鹿笑いするし馬鹿な行動もする花崎だが、下品なことは苦手だと。
不潔とされる場所を触られるのにも抵抗があるのだろうと思う。
「っ…ひぐっ……!」
けれど小林は止めてやる気はなかった。
小林の指が花崎の内に潜り込む。
本当に嫌なら突き飛ばして逃げればいいのだ。
花崎にならそれが可能だ。
それがないと言うことは、小林を受け入れているということだと考えた。
実際のところ、穴に触れたあたりからは本気で抵抗されているのだ。
しかし花崎は誰にも触れられたことがない場所に指を突っ込まれ、慣れない感覚に対する恐怖と痛みに体が竦んでしまっている為、逃げるに至れないのだ。
けれど小林にそれが分かるはずもない。
「い、いてー…って!」
涙を浮かべながら花崎が訴えれば、痛いのは良くないと小林も手を止める。
そういえば滑りが無いと痛いと大友が言っていたのを思い出す。
決して大友が言ったのはそこのことではないのだが、何はともあれ貰ったままベッドサイドに放置した瓶を引き寄せた。
花崎には残念なことに、手を伸ばせば届いてしまった為、小林の下から逃れる機会はなかった。
「つめたっ…」
蓋を開ければ、とろりとした液体が流れて花崎の肌を滑る。
「お前、こんなもん何処で手に入れんの?」
「資料と一緒に貰った」
「大友……」
またかよ、と大友に悪意が無いどころか小林への善意だと分かっていても恨みが募っていく。
「つーか気持ち悪ぃ……」
ぬるぬるとした何かが股間を中心にまとわりついてくるのは気持ちのいいものではない。
「でも、これがあれば痛くないらしいぞ」
「いや、お前がやめてくれればこんなん無くても痛くならないんだけど!?」
既に花崎は先程の小林の指一本で、指の入り口とその周辺が大ダメージを受けている。
幸いにして傷はついていないのだが、痛みは半端なく残っている。
その所為で意識が尻にいってしまい力が入らず、いまだにうまく逃走できないでいる。
相手が小林でなければ、それでもおそらく相手の急所を容赦なく攻撃してでも逃げるであろうことを考えれば、小林が誤解するのも仕方ないと言えなくもない。
靄への認識で迂闊に攻撃できないと刷り込まれているからか、或いは他の理由なのか、どちらにせよ花崎は甘くなっている小林への対応に自身では気づいていない。
故に小林を止めることも出来ない。
「やめたらセックスできないだろ」
言葉と共に、再び小林の指が花崎の中に侵入する。
「うあっ…」
先程とは違い、あっさり指の付け根まで入ってしまった。
「おお?」
潤滑剤の効果に、小林が目を見開く。
「これ便利だな」
滑りが良くなったのでこれなら痛くないだろうと、小林の指が水音を立てながら中を掻き回していく。
「べん…り、じゃ…ねー…よ」
確かに痛みはなくなった。
有るのは圧迫感だけだ。
それが逆に、花崎には居た堪れない。
そんなところを他人の指で好き勝手されているというのに、痛みではないなんてあってはいけない。
「っ…やめ、ろっ…て!」
そして時々ある、圧迫感以外の感覚。
堪らず、現実から目をそらしたいとばかりに両手で顔を覆った。
「ひっ……い、やだ…アッ!」
視界を塞いだ結果、感覚が鋭敏になる。
けれど、また目を開ける勇気は持てない。
さらに隠すように腕で顔を覆い、花崎は拒否の言葉だけを零す。
「…や……めっ…クッ…て…くれ、よぉ……」
嗚咽混じりの声は、しかし小林にAVを思い出させる。
嫌だと言いながら、何故か協力的な行動をする女優を。
アレはどう見ても本気で嫌がっていなかった。
花崎も、協力までは行かなくても抵抗らしい抵抗はしていない。
弄っていくうちに余裕が出てきたそこに、指を増やしていく。
「…やめ……ゃし…や、だ…」
花崎から聞こえるのは、相変わらずの否定。
けれど、やはり強い抵抗はない。
顔が見えないのは残念だが。
「ぅあっ!?」
突然、花崎が驚いたような声を上げ、身を震わせた。
映像で見た「イイトコロに当たった」のだとわかった。
そこを弄られると気持ちがいいらしいことも知っている。
だから、そこを意識して指先で撫でるようにする。
「や…だっ、て…」
先程と同じ言葉だが、少し上擦っている。
「無理すんな」
気持ちいいなら、そんなに嫌だと苦しそうな声を上げる必要はない。
「『素直に身を任せればいい』んだ」
「ふっ…う……アッ…」
花崎は顔を隠したまま、頭を左右に振って否定を示す。
「こば、やし……や…ンァ…」
情けなさと恥ずかしさと、前立腺を刺激されることで沸き起こる熱に涙が溢れてくる。
もうどうしていいのか分からず、花崎は弱々しく嫌だと訴えるしか出来ない。
顔を隠してしまっている為、小林には表情から悟ることは出来ず、まともな抵抗も出来ない状態では、それが伝わることはない。
「ゃだ…」
慣れない場所を弄られるのもだが、それに快楽を引きずり出された事実がどうしようもなく。
「こわい……」
小さく漏れたその言葉に小林は初めて手を止めた。
躊躇いがちに指が抜かれる。
指を抜かれて少しだけ余裕がでた花崎は、顔を隠していた腕をそろりと下ろした。
真正面にいる小林に躊躇い勝ちに視線を送る。
「僕が……か?」
想像以上に涙を湛えている花崎の顔を見て、小林は痛そうに表情を歪めた。
それを見て今度は花崎が状況も忘れて焦る。
「あ…いや、お前じゃなくて……」
「でも怖いんだろ?」
花崎に恐れられたことが余程ショックだったのか、視線すら合わせようとしない。
「だ、だから別に小林は怖くねーよ!」
「なら何が怖いんだ?」
もう一度言えば、ようやく小林が顔を上げるがやはり不安そうである。
「何って……」
言うなれば感覚だろうか。
「わかんねーけど……」
しかし明確な言葉が出てこない。
「やめれば、怖くないか?」
まるで縋るように問われる。
「そりゃ……」
言いかけて、言葉を止める。
うっすらと靄がたつのが見えた。
せっかく触れられたというのに、花崎に拒否されたことで死にたいと思ってしまったのだろうか。
たったそれだけのことで…と困惑してしまう。
けれど、その程度のことと思えるなら、逆に自分が受け入れてもいいのではないのかという思考に至った。
「あー! もう!! 別にやめなくても怖くねえよ! やりたきゃやれよ!!」
言われて小林は目を見開く。
「良いのか?」
小林は花崎に怖がられるくらいなら、触れられない方がましだと思った。
だから諦めようとしていたのに、突然構わないと言い出すので小林の方が冗談ではないかと驚いた。
だが、花崎は肩を竦める。
「なんかもう今更な気がしてきた」
散々小林の指で掘られたのだ。
こうなる前に小林を止められなかった時点で、諦めるという選択肢が生まれていたのだろうとも思う。
手を広げて受け入れ姿勢を示す花崎。
小林は困惑しつつも、花崎がいいというなら本能に従うことにした。
先程まで解していた場所に、己のソレを宛がう。
「入れるぞ?」
「お、おう…」
正直、花崎はそこを使うということに未だに抵抗もあるが、なんとか耐えた。
「流石にこ…う、なんつーか緊張するな」
怖い、とまた口にしそうになり慌てて言葉を選び直す。
「本当に平気か?」
余程「こわい」が衝撃的だったのか、未だに不安そうに問うてくる小林。
花崎は苦笑して小林を抱きしめる。
「小林は怖くねえって、言っただろ」





小刻みな律動を繰り返しながら、小林は花崎にゆっくりと押し入っていった。
花崎は息が詰まりそうになるが、意識してなんとか力を抜いて小林を受け入れる。
時間をかけて小林の全てが花崎の中に収まった。
相手が花崎だからなのか。
それもとセックスとはこういうものなのか。
初めての小林にそれは分からないが、痛いほどに締め付けられている筈なのに、たまらなく気持ちが良いと思った。
「花崎…」
それが何故か嬉しくて、小林は名を呼びながら、一度動きを止めて花崎を見る。
体の力を抜こうと必死なのだろう。
硬く閉じられた目元に口付ける。
「な…に…?」
小林が動きを止めて呼びかけてきたので、少しだけ落ち着いて花崎はそっと目を開いた。
「これ、すごく気持ちいいな」
視界に入った小林は熱に浮かされたように柔らかく嬉しそうな顔をしていた。
それを見て、花崎はと言うと、返答に困る。
折角嬉しそうな顔をしているのだから、それを歪めたくないとは思う。
ただ、同じ言葉を返せる心境にはなかった。
「あ…そ、そう……? ならよかった……」
他になんと反応すればよいのか。
「お前はそうでもないのか?」
だがそんな花崎の態度では、当然ながらどう感じているのかも伝わってしまう。
「ええと、あー……」
正直圧迫感と慣れない感覚の方が強くて、気持ちよさは感じていない。
そうか、と小林は申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「さ、さっきの!」
焦って花崎は声を上げる。
「さっき俺がほら、怖いって言っちゃった場所あったじゃん?」
その言葉に小林の表情がさらに陰る。
「多分あの辺りだと俺も気持ちよくなるんじゃないかなー?」
慌てて花崎は先を続けた。
「でも、怖いんだろ?」
「き、気持ちよすぎて怖い感じ?」
何でこんなことを声に出して言わなければならないのか。
相手が小林でなければ、こういうプレイをさせられているのではと疑ってしまいそうである。
「気持ちいと怖いのか?」
「何も考えられなくなりそうで、怖いっちゃ怖いけど…」
自分が予想もしないところとタイミングで引きずり出された快楽。
自分の感覚が信じられなくなりそうになって怖かった。
「怖いならやらない方がいいんじゃないのか?」
怖がられると言うのは余程小林にとってウィークポイントらしい。
かといって花崎はこのまま進めて気持ちよくなれる自信がまだない。
「でも、小林は俺も気持ちいほうがいいんだろ?」
今のところ違和感しかまだ感じられないのだから、勇気を持って踏み出すしかない気がしている。
「そうだ……でも…」
「何も考えられないくらい気持ちいいってのは、多分最高なんじゃね?」
毒を食らわば皿まで。
花崎は基本的に行動に対しての割り切りが良い。
未知の体験であるので確信はないが、それは黙っておく。
「『気持ちよすぎてどうにかなっちゃうよー』っていうあれか?」
小林の言葉が何から出てきたのか察して花崎は頭を抱えたくなった。
後で大友にはきっちり文句を言おうと心に決める。
健全な青少年に何を与えているのかと。
いや、一歳差であるので花崎も大友も然程変らないのだが。
そこは小林の…良い言葉を選べば無垢さも考慮して欲しかった。
あの時逃げ出した花崎にも多少の責任はあるにはあるが。
「あー…うん、たぶんそれ……」
遠い目をして投げやりになりそうなのを何とか耐えて頷いてみせる。
「分かった」
それで花崎も気持ちよくなれるならと、小林は覚悟を決める。
「じゃあやってみる…けど…」
言って、しかし小林は動きを止めた。
「どした?」
「あれってどこだ?」
ずっと花崎の反応ばかり見ていた上に、怖い発言で慌てて指を抜いたため小林は覚えていない。
「……さあ?」
もちろん、花崎も覚えていない。
「どうすんだ?」
「えーと…小林が動いてればそのうち見つかるんじゃね?」
花崎の中にあるのだから、同じように刺激を与えていけばそのうち見つかるだろうと花崎は考えた。
「そういうもんなのか?」
「たぶん?」
疑問を含ませる花崎に疑うような視線を向ける。
「お前が自分で動いた方が分かるんじゃないのか?」
小林としては至極真面目な提案だった。
が、花崎は両手で顔を覆ってしまう。
「ごめん小林、マジそれは勘弁」
それは恥ずかしすぎる。
そんな恥ずかしさを抱えたまま動ける自信も無い。
「絶対に無理」
と、情けない声で訴えれば、そうかと小林は理解を示した。
「じゃあ僕が動くぞ」
「お、おう」
肯けば、小林が探るように花崎の中で動きはじめた。
「んっ…くっ…」
息を詰めないように、なんとか吐き出す息に苦悶の声が交じる。
小林にはそれが艶を含んでいるように見え、下半身が疼き容量を増してしまう。
「うあっ…」
「くっ…」
双方苦痛を覚えて呻きを上げ、小林は一度動きを止める。
「平気か?」
「へ、いき……」
花崎はうっすら涙を浮かべながらも、一度深く息を吐いて力を抜く。
「つづ…けろ……よ」
「……ああ」
やめてやるという選択肢は既に小林の中になく、花崎に言われるままに動きを再開する。
「ふっ、う…」
シーツを必死に掴んで耐える花崎の様子に、小林はなんとか自制しようとしつつも、時折耐え切れず強く突き上げてしまう。
「あっ……」
少し高めの声をあげ、花崎が目を見開いた。
「ここか?」
もう一度そこを擦るように動けば花崎は小さく体を震わせる。
「そ、う……」
「怖くないか?」
「だい…ンッ…じょう、ぶ……」
顔色を伺うように覗き込もうとする小林の行動は、意図せずに、しかし緩やかに刺激を与えてくるので花崎はもどかしさに泣きたくなる。
「本当にちゃんと気持ちいいか?」
しかしその態度は無理しているのではないかと小林に疑いを招いた。
「お、おう…」
頷いても、小林の疑いは晴れない。
「ちゃんと気持ちいいから!」
この状態で止まるのやめてと訴えれば、漸く信じたのか小林が動き出す。
「ひぁっ…!」
強く刺激されて花崎の肩が跳ねる。
「花崎?」
途端、また小林が動きを止める。
「も、一々、確、認しな…くて…いいから…」
気を使ってくれているのは分かるが、少しの変化があるたびに確認されるというのは、恥ずかしさが半端ではない。
しかも気持ちよさを感じた次の瞬間に止められるという焦らしつき。
正直、とても辛いのだ。
だが、と言葉ではなく視線で訴えてくる小林に、花崎は苦笑する。
「小林…は、止めらんないくらい、俺のこと欲しいって思ってくれたんじゃないの?」
花崎の言葉に、小林の喉が大きく鳴った。
「いいのか?」
欲しいままに求める。
それが許されるというなら。
「いいよ…んぅっ!?」
許可が下りた途端、小林は食らいつくように唇を重ね、本能の望むままに花崎を求めた。





「も…むり……」
力の入らなくなった腕で花崎は小林の胸を押す。
「欲しがっていいって言った」
「言った…けど…」
不満そうに小林は訴えるが、花崎に事情を説明する気力すら残されていなかった。
最初はまだよかった。
けれど、イかされるのもイかれるのもこれで数度目だ。
初体験、しかも抱かれるという肉体的精神的負担により、花崎はかなり疲弊していた。
如何に基礎体力が小林よりあろうとも、小林の全力に付き合えるはずもない。
「げんかい……」
擦れるような声で漏らすように告げた花崎は、気を失った。
「花崎!?」
驚いて小林が肩を掴めば、静かな寝息が聞こえてくる。
軽く揺すってみても起きる気配がない。
「チッ…」
本なら台詞として認識されそうなほど盛大な舌打ちをして、流石に気を失った花崎に無理を強いる気はなく、小林は諦めて解放した。
名残惜しげに繋がっていたモノを抜けば、そこから白濁としたものが溢れ出て目を剥く。
「うわあっ!!」
ソレが自分の出したものであると理解はしている。
しかし、少しずつとはいえ止まる気配なしに溢れ続けるそれを見て何とも言えない気持ちになる。
ゆっくり出てくるからいけないのだと、さっさと出す為に出口を広げようと小林が恐る恐る指をソコに入れれば、最初入れた時とは比べ物にならない柔らかさであり、またしても驚かされてしまう。
そんなことを考えている場合じゃないと、指を使って広げれば確かに勢いよく溢れてくる。
だがそれは同時に今更沸き起こってきた気恥ずかしさを助長させる。
自分の出したものが花崎の中にあるというのは微かな喜びを感じる以上に、謎の罪悪感を覚えさせた。
とにかく全部出してしまおうと指を動かせば、中の感触で先程の行為を思い出し、体が疼いてくる。
「…ん、ぁ……」
しかも、途中で花崎から声が上がる。
起きたのかと思えば、そうではないらしく、いまだに微かな寝息を立てている。
「くっそ……」
もう一度大きな音を立てて舌打ちをして、それでも何とか平常心を装いつつ小林は最後までやり遂げた。
「つかれた……」
中のものは出したとはいえ、いまだに花崎も小林も精液その他もろもろの液体により全身がべとついている。
拭くなり風呂に入るなりすべきなのだろうと想像もつく。
が、ここにきて小林も大きく精神力を消耗した為、倦怠感が半端ではなく襲ってきた。
どうせ洗えば落ちるだろうし、汚れててもまあいいか。
と言う思考にたどり着いた小林は、花崎に身を寄せて目を閉じた。
微かな息遣いが感じられるほどの距離で、触れ合って眠れる事実に幸せを感じながら眠りに落ちた。

数時間後、午後には依頼人が来るんだからいい加減に報告書を出せと井上が部屋を訪れ、事務所に悲鳴とも怒声とも吐かない声が響いた。
主に井上のものだった。
幸いにも窓を開けていた為、臭いが籠もることもなく、こちらは幸いなのかは怪しいが、花崎はまだ深く眠ったままであり、小林が見せないとばかりにシーツで隠したので尊厳は1割ほど守られた。
どちらがどういう役回りだったのかも伝わってしまい男としてのそれは9割ほど失ったが。




「大友! お前小林になんてモン渡してんだよ!!」
「はぁ?」
と思った大友だが、最近小林に渡したものなど1種類しかなく、すぐに思い至る。
「何って、大人の階段のぼる資料? 花崎も興味あるなら用意してあげるよー?」
「いらねえよ!」
怒りすら含ませて、全力で花崎は拒否した。
「いや、それ健全な男の子としてどうなのよ?」
残念なものを見る視線を花崎に送る大友。
「部活弁慶で女子にモテても機械いじりに熱中してる奴に言われたくねー!」
しかし反論として出された花崎の言葉に、自覚のある大友は肩を竦める。
「で、渡した資料の何が問題だって?」
「なんでオっ…自分ですんのに、そういうのしてる映像資料までいるんだよ!」
流石に平時では声にするのは躊躇われて言い換える花崎。
大友の視線に哀れみが更に上乗せされた。
「おまえ、その程度で照れるって本当に大丈夫?」
「う…うっせー!」
天然記念物か何かを見るような目で花崎を見た後、まあ花崎だしと結論付けて肩を竦めた。
「だってー基本は一緒でしょー。それに本じゃ全然反応しないっぽかったから映像あげたんだよ」
無表情でエロ本をまくられた情景を思い出す。
花崎や山根のような初心な反応がないのはなんとつまらないことかと思ったものだ。
「まあ、まだそんなに性欲はなさそうだから仕方ないのかもしれないけどねー」
「どこがだよ」
思わず花崎は吐き出すように呟いた。
「ん?」
「な、なんでもねー」
どう見てもなんでもない態度ではない。
「なーによ、何があったのかお兄さんに言ってごらーん」
「歳は一緒だろ!」
「じゃあほら、お友達の俺に相談したまえよ」
「やだね」
と言うより出来る内容ではない。
とりあえず大友に一言文句を言わなければ気が済まなかっただけなのだ。
そういう意味では既に目的は達成している。
けれどそれを知らない大友は話を促してくる。
「一体何があったのよ。まさか自慰してる現場に踏み込んじゃったとかー?」
「その方がよっぽどマシだった」
あんなことになるくらいなら。
小林相手なら恐らくそんな場面に鉢合わせしてもそれほど気まずくはならなかっただろうとも思える。
じゃあなんなのよー、と内緒話でもするように大友は花崎の肩に手を置いて引き寄せた。
近くなったことで見えた首筋に、花崎に似つかわしくないものを見つける。
「ん? 花崎…ちょっと……」
まさかと思った大友は花崎の項をきちんと確認しようと、指で襟をどかす。
「なんだよ」
訝しみながらも特に抵抗はせず、されるがままの花崎。
その態度から勘違いだろうかと思いつつ、しかしこれはと悩む大友。
もしそうだとしたら、花崎がこれほど怒っている理由も納得がいく。
だが、やはり確信が持てない。
何せ相手は花崎だ。
「んー?」
「さっきから何なんだよ」
「えーとねー…花崎」
「何?」
「キスマークって下手すると1週間くらい残るって知ってる?」
ひとつ、特にはっきり残っている痕を指でつつく。
「へっ!?」
途端、慌てて首の後ろを隠しながら距離をとる花崎。
その顔は真っ赤で、羞恥の為か目が潤んでいる。
反応が顕著すぎて、とある事実を雄弁に物語っていた。
「マジで?」
大友は開いた口が塞がらず、漏らすように声を発する。
流石に驚きを隠せない。
「ヤったの? お前がヤラれたの!?」
はっきり言葉にしてしまえば、花崎が限界を迎えた。
「大友のせいだろー!!」
馬鹿やろー! と叫びながら花崎は飛び出していった。
好みが分からないのでさまざまな趣向の映像を小林に渡した。
そういえばその中にはアナルセックスのものも含まれていたなと思い返す。
そこで尻が使えると小林が知ったならば、なるほど確かに大友の所為かも知れない。
ついでに渡した潤滑剤も使われたかもしれない。
だとしたらこれもかなり余計なことだったかもしれない。
「えー……と…」
とはいえ、自分にどうしろと言うのか。
「……知ーらないっと」
流石に友人のそんな事情を知りたくはなかった大友は、何も聞かなかったことにする。
そういう意味では大友もある被害者になっていた。
特に何か賠償を求められたわけでもないし、そもそも最初に小林を押し付けて逃げたのは花崎だ。
でもとりあえず、自分から盛大な暴露をしにきただけの哀れな花崎の為に、先日提案されたアイテムの開発は急いでやることにした。




靄は生存本能は邪魔しないのかもしれない。
という仮説を出したのは井上だった。
もともと小林が花崎で思考の大半を埋め尽くしている時は、生き死になど考えの外にあるかのように靄が発動しないことが幾度もあった。
その相乗効果なのか、別の要因があるのかは判明しないが、小林が求めた時には触れられることが分かった。
逆に言えば、それ以外の時はやはり靄が花崎であろうと拒絶する。
それを知った花崎は、全力で小林の求めを拒んだ。
「あんときは小林が生きたいと思うほど俺のこと欲しがってんのかと思ったけど、エロいコトしたい時だけ触れるとか、都合よすぎんだろ! ぜってーヤダ!!」
とは、花崎の弁である。
経験したとは言え、アノ行為にまだ抵抗もある。
その行為が小林の生きる意志に関係するなら、少しは考えないこともないと思う。少しは。
けれどそうでないなら、相手が小林とはいえそう簡単に頷けるものでもない。
そもそも花崎は男である。
改めてよくよく考えれば、全力で拒むのが正しいとすら思えた。

ただ、小林にそんな正しさが通じるかと言えば、答えは否だ。

「あ…」
小林がふと何かに気づいたような声を漏らす。
途端、花崎が過敏に反応して脱兎のごとく井上の後ろまで走った。
それを小林が出遅れたとばかりに舌打ちして追いかける。
井上を挟んで二人は対峙した。
「花崎、人を盾にするな」
挟まれた井上は、椅子の背にぴったりと張り付いた花崎に苦情を出す。
「酷いこと言うなよ井上! 俺がどうなってもいいのか!?」
最初の時を知られてしまったので、花崎に井上への遠慮はない。
「酷いのはお前だろう。俺を巻き込むんじゃない」
「そうだ花崎。狡いぞ!!」
迂闊に近づけば井上を傷つけてしまいかねないので、小林はそれ以上近づけない。
「そりゃこっちの台詞だっての! んな時だけ触れるとかズリーからやだって言っただろ! 触りたきゃ普段から触れるようになってみろってんだ」
ある意味正しい逃げ場所を選択した花崎は井上の影から声を張る。
「僕だって触れるんならいつでも触りたいに決まってる!! でもこの時じゃないと触れないんだから仕方ないだろ!」
確かに問題は感じるが、触れたいのに触れられない小林にとって、この事象は花崎に触れられるチャンスでもある。
そう思えば、それを望まずにはいられないのだ。
「し、知るかよ!!」
いつでも触れたいという直球の言葉に一瞬絆されそうになって、しかし花崎は頭を振って拒否する。
「どうせならそのまま欲求不満でいれば普段から触れるんじゃねーの?」
「だったらもっと触れてる」
きっぱり言い切った小林の言葉に花崎は目を丸くする。
「年中欲求不満みたいだぞ?」
普段はまったくそんな感じには見えない。
だからこそ、花崎は逃げ時がわかるのだから。
「お前が目の前にいるのに触りたくならない訳ないだろ! するとかしないとかより何より僕はお前に触りたいんだ!」
そういう意味でも触りたい欲求があるので常に欲求不満である。
「そ、そうなの?」
身体が欲しいだけなのかと疑っていた花崎はまさかの言葉に困惑する。
あの行為だけがしたい訳ではないなら、と言葉が脳裏に浮かぶ。
「お前達、痴話喧嘩は俺を挟まずやれ!」
が、ご立腹の井上の言葉でハッとして首を振る。
「痴話喧嘩じゃねーし!」
「そうだ、喧嘩じゃない」
意味が噛み合っていないが、小林と花崎では今更である。
溜め息がまた一つ零された。
言わずもかな、井上のものだ。
井上は背後にいる花崎に視線を送った。
「花崎……」
「な…んだよ」
怒らせている自覚はあるので、目を逸らしながら控えめに返す。
「どうせ最後にはお前が根負けするんだ。さっさと済ませて来い」
「井上酷でー!」
見捨てる気か! と、花崎が悲痛の声を上げる。
「だから酷いのはお前だと言っているだろう。大体、抱きしめてキスする程度だろう」
見捨てるも何も、井上は巻き込まれているだけだ。
それに、花崎が断固として拒否するので、こんなやり取りをしているにもかかわらず行為には至っていない。
ただ余りにも小林が必死に求めてくるものだから、と、花崎いわく、うっかり口付けまでは毎度許容していた。
それこそ、井上が今更だと思うほどに。
それを知りえるだけの状況や情報に晒されているのも井上の頭痛の種だ。
「キス程度って言うな! 毎度ほんとに小林に食われる感じなんだぞ!!?」
性交の代替行為として行われるキスは、正に貪るといった感じだ。
しかも、そんなキスをされれば身体が疼いてしまう。
更には折角触れられるのだからとばかりに、体を撫で回される。
うっかり先を促してしまいそうになったのも一度や二度ではない。
意地で何とか乗り切っているが。
だからこそ、次は受け入れてしまうかも知れないと怖くなり、毎度逃げ回っているのだ。
「知らん」
「長いし息苦しいしこう、小林の舌が…」
「説明しなくていい!」
何とか理解してもらおうと説明する花崎に、聞きたくないとばかりに井上は襟元を掴んで投げ技をかけた。
「うわあ!!?」
叫びを上げて花崎が宙を舞う。
慌てて受け身を取って事なきを得たものの、花崎は小林の目の前に放り出されていた。
「こば……やし…」
逃げ回っていた手前、なんとかやり過ごせないかと愛想笑いを浮かべるが、小林に通じるはずもない。
「逃げんな。……嫌がることはしない……たぶん」
手首を掴まれる。
振りほどけないほど強くはない。
たぶんと言いつつ、それが小林の言葉を証明しているようで。
視線を送り…花崎は肩を落とす。
井上の言う通り、どうせ根負けするのはいつだって花崎だ。
小林に引かれるままにトボトボと歩いていけば、ソファに促される。
そして座ると同時に抱きしめられた。
花崎は何よりもこれが苦手だった。
抱きしめて体温を感じて、花崎に触れていると実感した小林が、本当に嬉しそうな顔をして宝物を扱うように優しく、でも離れて欲しくないとばかりに抱きしめる腕に少し力を込める。
その態度と表情が、必死に追い掛け回されて求められる以上に凶悪なのだ。
そんな風に求められて嫌なわけがない。
嬉しいし、幸せすら感じてしまう。
だから、気を抜くと全てをあげたくなってしまいそうになる。
そんな凶悪さだ。
「花崎」
暫く抱きしめを堪能された後は、名を呼ばれながらソファに押し倒される。
「あんま苦しいのはやだかんな」
花崎が最後の抵抗とばかりに言えば、小林は真面目な顔で頷く。
「気をつける」
そこで分かったと言えないながらも真面目に考えるのは小林らしいと、花崎は苦笑してしまう。
苦笑とはいえ花崎が笑みを見せたことで、安心した小林は感触を確かめるようにゆっくりと唇を重ねていった。

と、傍から見ればいちゃいちゃなシーンを繰り広げているが、二人がいるのは事務所である。
先程巻き込まれた井上も、ずっと我関せずな野呂のピッポもいる。
小林はなんとなく花崎のそういう部分は他の人間に見せたくないのだが、一番大人しく受け入れてくれる場所がこの場所なので仕方ないと諦めている。
花崎も目を背けられていようとソファの背もたれて見えなくなっていようと、誰かがいる場所でそういったことをするのは恥ずかしいのだが、この場所というのはどうしても譲れないラインであった。
二人がいる空間だからと思えばこそ、理性が保てるからだ。
それに、乱れた花崎を自分以外に晒したくない小林の行為も少しだけ大人しくなる。
そういう意味では、この場所は花崎にとっての安全地帯だった。
視界にせいぜい小林の頭しか入らないとしても、音や息遣いで分かるほど熱烈なキスをそんな間近で交わされる方としては堪ったものではないのだが、流石に花崎が本気で不安に思っているのは伝わっているので、今のところ野呂も井上も文句は言うものの、強く駄目だしはしない。
ただ二人とも、とりあえず面倒なのでさっさと花崎が諦めてくれないかとは、強く思っていた。

「小林ー! 下は触んなって言っただろー!!」

花崎の悲鳴と、小林の舌打ちが響く事務所。
頭を抱える井上と、その頭に止まるピッポ。
花崎の諦めを待っていては先が長そうなので、いっそ小林がさっさと決着をつけてくれればいいのにと考えを改めた。



 

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