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17 September

風邪

花崎が風邪を引く話





「花崎は風邪で休むそうだ」
「は?」
井上の言葉に理解が追いつかず、小林は目を瞬かせた。
「だから、花崎は風邪を引いたので今日は来ない」
「あいつ、風邪引くのか?」
聞こえなかったのかと、親切にももう一度言い直す井上に、小林は零すように呟いた。
馬鹿は風邪を引かないという諺を知っているわけではない小林なので、純粋に花崎が風邪を引いたことを信じられないのだ。
小林にとって花崎とは、雨にも負けず風にも負けず夏の日差しどころか火事の熱にも負けない男だ。
それが風邪を引いたというのが信じられない。
信じられないので、確認しに行こうと思った。
「待て小林、何処へ行く」
それを目敏く見つけた井上に止められる。
「アイツんとこに決まってんだろ」
「お前は仕事だ」
井上の言葉に小林は睨み返すが、それで動じる井上ではない。
「花崎が来れない分もきっちり働いてもらう」
「知るか」
それを無視して小林は歩き出す。
「自分の所為で小林が仕事をサボれば、花崎が落ち込むことになるな」
が、続いた言葉に足を止めた。
怒られるのは別に怖くもない。
だが、花崎に落ち込まれるのは嫌なのだ。
「……すぐ終わる仕事だろうな」
「対象の行動次第だ」
帰ってきた言葉に、小林は舌打ちした。

仕事は浮気調査だった。
なんで世の中こんなに浮気する奴らが多いんだと、証拠なんて待たずに初めての時のように直接聞きに行ってやろうかと思ったが、失敗すれば花崎は怒らなくてもがっかりするし、逆に成功させれば喜ぶので何とか耐える。
不倫関係だったようで、お互いのパートナーにバレないように昼間にことに及ぼうとしてくれたお影でまだ日が高いうちに仕事を終えることができた。
「おかえりー」
「お帰りなさい」
急いで事務所に戻れば、大友と山根がいた。
山根はいつもより少し早い。
学校が終わってすぐに駆けつけたのだろう。
「小林さん、お疲れ様です。残りの仕事は僕達が引き継ぎますので、花崎先輩のところへ行っても大丈夫ですよ」
事情はわかっているらしい。
普段は事務所には滅多に足を運ばない大友がいるのも、山根一人では難しい花崎や小林が抜けた穴を埋めるためだろう。
「花崎先輩の家なら必要なものはだいたいあると思いますが、一応スポーツドリンクやゼリーと冷却シートなどを入れてあります。ゼリーとかは花崎先輩がいらないようなら小林さんが食べてもいいですよ」
花崎家なら適切な処置をされ食事が用意されるであろうから、不要だというなら小林が食べてしまっても問題ないと山根は言った。
「それとこーれ。持ってけ」
大友が差し出したのは、マジックハンドだ。
「こっちの持ち手部分の手袋に手を入れれば、先の方の手が同じように動くから、使ったことない小林でもうまく使えるでしょ」
大友特製のそれは、持ち手が各指に対応しており、実際の手の動きとほぼ同じ動きを再現する高性能さを持っていた。
「こんなのいんのか?」
だが使用用途はさっぱり不明だった。
「有り難さに気づいたらお礼言ってくれて構わないよー」
しかし小林の言葉に、大友は笑みを浮かべるばかりだ。
訳がわからないが、大友の道具は信用しているので小林は素直に持っていくことにした。
部屋に通され、目を閉じて浅く呼吸を繰り返し眠る花崎を見て、小林は呆然とした。
そもそも小林は花崎が眠る姿を見ることがあまりない。
あまり、というかほぼ無い。
記憶に残るのは出会ったばかりの頃、炎の中で気を失っていた花崎だろうか。
嫌なことを思い出し、思わず手を伸ばしてしまい、花崎の髪が2本ほど落ちたのを見て慌てて手を引く。
触れない小林に出来ることなど何もない。
かといって離れる気にはなれなくて、小林はベッドの近くに腰を下ろして膝を抱いた。
苦しそうな呼吸だけが響く室内。
母親のことを思い出す。
あの時も今も、手を伸ばしても触れることは叶わない。
「こばやし?」
目を覚ました花崎が周囲を確認するように視線を動かし、小林を発見する。
「花崎……」
目を覚ましたことに安堵しつつも、何も出来ない小林はどう声をかけていいのか分からない。
それが分かってか、それともただ思ったことを口にしただけなのか。
「こばやし、何か飲みもんねえかな?」
喉が渇いたという花崎の言葉に、小林は慌てて山根に持たされた袋を開く。
スポーツドリンクを取り出して、横になっているならストローを使った方が良いと、ストローキャップも渡されていたのでそれに付け替え、ベッドの端に置く。
「サンキュ」
礼を言いながら伸ばされた手はしかし力が入らず、握ることも出来ずにペットボトルを倒すだけで終わってしまった。
幸いストローキャップに変えていた為零れはしなかったが、花崎が飲むことも出来ていない。
「わり」
せっかく小林が用意してくれたのにちゃんと飲めなくて、と花崎は謝罪する。
けれどそれに手を伸ばす気力はないらしい。
小林は拳を握った。
花崎が悪いのではない。
普通だったら、花崎を支えて飲ませてやることができるのだ。
出来ることなら花崎の世話は自分がしたい。
けれど近づくことも出来ない自分に何ができるのか。
この家には常に他の人間がいる。
誰かを呼んで、花崎に飲ませてもらうべきなのかもしれない。
自分の手が伸ばされた母親の手に届かずその手を父親が握ったように、花崎にも結局この手は届くことはなく別の誰かがその手を握るのかと、苦しくなる。
だが優先すべきは花崎だ。
自分の感情ではないのだと、自身に言い聞かせる。
誰かを呼びに行こうと踏み出したところで、大友に渡されたそれが目に入った。
大友の発明は確かに役に立つ。
それを作れるのは凄いと小林だって思う。
だから大友が凄い奴だとは認めている。
けれど花崎を〝友達〟だというあの男は〝仲間〟とは少しだけ違う気がして、二人の関係を掴み切れないでいる為、どうにもモヤモヤとしてしまうのだ。
それなりに一緒にいる時間が長くなった山根との関係を見ていても、あまり信用できない気がしている。
裏切るとかそういう意味ではない信用のできなさだ。
その大友に言われた「有難さに気付いたらお礼言ってくれて構わないよー」という言葉に舌打ちが出る。
こうなることを予測していたということだろう。
今はそんなことを考えている場合ではないと思い直して、マジックハンドを手に取ると、花崎の枕元にあるペットボトルを掴んでストローを口元に寄せる。
「ははっ、なにそれ」
マジックハンドを見て、花崎は笑う。
普段と違って全く力は入っていないが。
「いいから飲め」
笑われるのも、その力のない笑みも面白くなくて、さっさと飲めと更に寄せれば、花崎がストローに口をつけた。
少しずつゆっくりと数口飲んで、口を離す。
「ありがと。もういいや」
そう言って枕に頭を沈めるように力を抜いた。
「寝んのか?」
小林が問えば、悩むように眉を寄せる。
「折角小林いるし、寝たくはねーんだけど」
そう言いながらも、既に瞼は閉じ、喋りも緩慢になっている。
「僕はいつでもいんだろ?」
まるで小林がいる時間に寝てしまうのがもったいないとでも言うような花崎の言葉に、小林は首を傾げながら呟く。
「そっかぁ…」
安心したように呟いて、そのまま意識を落とした。
それを見ながら、せっかく届くのだからとタオルで軽く浮いている汗を拭いておいた。
ついでに額に貼ってあるシートは定期的に変えるように言われたので、こちらも貼りかえる。
大友はどこまで予想していたのか、それぞれの手に合わせた2本を渡されていたのでそれも問題なく出来た。
小林はマジックハンドの便利さに、何故か悔しくなり、舌打ちをした。
それから不定期で目を覚ます花崎にスポーツドリンクを飲ませ、汗を拭く、という作業をしながら、あとは花崎の横に座り、じっと花崎を見ていた。
途中で赤石が小林の分だと食事を運んできた。
それを食べている間に、赤石が花崎を脱がせ始めた時は口に入れたものを吹き出しそうになった。
小林がきちんと水分を与えていることもあり、汗をかなり掻いているので着替えさせる必要があるのだといわれて、小林は大人しく引き下がった。
脱がせて汗を拭いて着替えさせるという体重を支える必要がある行動は、流石にマジックハンドではできないからだ。
花崎が元気になるためだというなら我慢するしかない。
寝間着を脱がせ、体を拭いたあたりで花崎が流石に目を覚ます。
「健介さん、少し身を起こせますか?」
「うん」
頷いてゆっくりと身を起こせば、全体的に綺麗に拭かれ新しい寝間着を着せられる。
世話とはそうするものなのかと観察していれば、拗ねたような目で花崎が見ているのに気づいた。
「小林あんま見んなよ」
熱があるとは言え、子供のように世話されている状況などあまり見て欲しくない。
特に、小林には格好良いところを見せたいので尚更だ。
「何でだよ」
「恥ずかしいから」
「何がだ?」
世話をされている恥ずかしさのわからない小林は首を傾げる。
恥ずかしい、が一般的に考えれば素肌を晒している状況かと考えたが、花崎の裸などプールの時にさんざん見た。
今更である。
全く伝わっていない気恥ずかしさに、まあ小林に情けないと思われていないならいいかと、花崎は息を吐いた。
熱と気怠さの篭った溜息に、何故か見てはいけないものを見たような気持ちになり、小林は慌てて目を逸らした。






翌朝、目を覚ました花崎はすっかりとまではいかないが、かなり良くなっていた。
体を起こして横を向けば、まるで定位置がそこだというようにベッドサイドで膝を抱えていた小林と目が合う。
「おはよう」
「ああ」
挨拶をすれば、頷いて返される。
「小林、色々ありがとうな」
「大したことしてねーけどな」
花崎は礼を言うが、一緒にいるのなどいつもと変わらない。
いつもとは違う花崎に、小林は殆ど何もしてやれなかったと思っている。
「ずっといてくれたじゃん」
だが花崎は笑って言う。
「いただけだ」
「そーでもねーって。飲みもん飲ませてくれたりしたじゃん。それに、いてくれたってのが嬉しんだって」
小林が悔しげに舌打ちをすれば、花崎は苦笑した。
「こういう時、何か寂しくなるからさ」
呟いて、それから満面の笑みを浮かべる。
「目を覚ました時小林がいてくれてスゲー安心できたし、嬉しかった」
「そうか」
花崎が嬉しかったというので、小林は表情を緩めて頷いた。
気が抜けたのか、小林が大きく欠伸をする。
「あれ、小林もしかして寝てない?」
心配そうに花崎が聞いてくるので小林は首を横に振った。
「寝た」
嘘ではない。
気づけば意識を手放していたことは何度かあった。
ただ、花崎が少しでも身じろぎすればその度に目を覚ましていたので、きちんと寝たかと言われたら寝ていないので眠気はある。
「少し寝る? 寝室用意してもらうし」
流石に、汗を掻いた自身のベッドは勧められないし、そもそもまだ寝ろと言われるのも目に見えている。
花崎の言葉に、小林はジッと花崎を見つめる。
昨日とは違い、かなりいつもの様子に近い。
「お前はもう平気なんだな?」
「うん。多分仕事は今日も無理だと思うけど、普通にすんならもう平気」
小林の問いに花崎が肯いて言えば、小林は踵を返してソファに向かった。
「なら僕はここで寝る」
正直小林は、花崎がもう大丈夫だと思った瞬間から、気が抜けて相当眠い。
その寝室の用意とやらをされるのを待つ時間も惜しいし、何より花崎の近くを離れる気は一切ない。
「ソファで寝んのは慣れてるしな」
事務所での昼寝にもソファを使う。
「そっか。慣れてるならそっちのほうがいいのかな…」
入団当時は観覧車でなければ寝られないと言っていた小林なのだから、慣れた感覚がある方が良いのかもしれないと花崎は止めないことにした。
靄がある以上、風邪をひくこともないだろうから好きに寝かせてやるのが一番だろうという判断故だ。
寝ようとして、ふと気づいた小林は少し悩んでソファを押し始めた。
重厚な作りのそれは少し重いが、小林ももう非力ではない。
ズラす程度なら可能だ。
「なにやってんの?」
「お前が見えないからずらしてんだ」
まるで花崎が可笑しな質問をしたかのような声音で返され、花崎は言葉を失う。
お構いなしに寝ていても花崎が見える程度にずらした小林はさっさと横になり、あっという間に寝落ちてしまった。
「こ、小林?」
声を掛けるが、返ってくるのは寝息の音だけである。
「おやすみ?」
困惑するが、小林は寝てしまい、することはなくなったので花崎ももう一眠りすることにした。
寝すぎて眠れない気はしたが体のだるさはまだあるので横になって、気づいた。
小林から花崎が見えるということは、花崎からも小林が見えるのだ。
ずっと見えていたはずなのに、今更気づいた。
小林が、近くで寝ている。
それだけのことに胸が跳ねる。
嬉しくて、何故か目が潤んだ。
きっと熱のせいだと目を閉じる。
同じ布団で寝ていると思える程は当然近くはない。
けれど寝息が聞こえる。
自分以外の誰か…それも好きな人が、近くにいてくれる。
このまま花崎が寝てしまっても、きっと次に目を覚ました時にもいてくれる。
そう、信じられる。
信じられるのが嬉しい。
触れ合うことができない恋人関係。
でも、小林は誰よりも欲しいものをくれるし誰よりも近くにいてくれる。
一緒に、いてくれる。
「ありがとうな」
何となくそう呟いて少し鼻をすすって、もう一度意識を落とした。
数時間後、朝食が運ばれてきて二人とも目を覚ます。
起きたとき、小林は最初自分の状況を忘れていたのか驚いてみせたが、すぐに思い出したのか起き上がって花崎に歩み寄る。
それに合わせるように花崎も上体を起こした。
もう一度おはようを言うべきか悩む花崎の横で、近づいた小林が何かに気づいたように眉を寄せた。
「泣いたのか?」
「へ?」
言われて驚いて花崎は顔に手を当てる。
だが泣いた形跡はない。
「ここだ」
小林が自分の鼻の付け根を指す。
指示に従って触れてみれば、なるほど確かに涙の痕跡があった。
乾いていたのによく気づいたものだと花崎は感動する。
「んー…多分熱があったからじゃね?」
「熱があると泣くのか?」
「そういうこともある」
「そうか」
きっぱりと花崎が言えば、そういうものなのかと納得してくれた。
「でももう治ったから」
「そうか」
一言付け加えれば、安心したように頷いた。
小林と会話をしている間に、使用人がソファの位置を戻して、小林の食事を並べた。
「健介さんはこちらの雑炊をお召し上がりください」
それなりに体の調子が良くなっていることを考慮されているのか、具が入った雑炊が乗った台がそのままベッドへ横付けされた。
花崎は足をベッドサイドに下ろして座ると、食事に向き合う。
「うひゃー! なんか久しぶりに飯食う気がする!」
昨日はほぼ何も食べていなかった為、元気になった花崎は雑炊とは言えまともな食事に喜びの声を上げる。
「後ほど下げに参りますので」
それを微笑ましく見守って、使用人は退室した。
お礼を言いながらそれを見送って、花崎は小林に視線を移す。
「じゃあせっかくだから温かいうちに食べようぜ!」
花崎が促せば、小林はすぐに自分の食事に向かうと思ったのだが、何故かベッドサイドから動かない。
「小林?」
首を傾げて問えば、小林は覚悟を決めたように顔を上げた。
そして花崎に手を伸ばす。
「うわっ、危ねっ!!」
驚いて身を引いた花崎の食事台から、スプーンと茶碗を奪っていた。
「小林、それ俺の飯だから! お前のご飯はあっち!」
小林が雑炊を食べようとしているのかと思った花崎は注意するが、小林はベッドサイドに置いておいたマジックハンドを手に持った。
それを使って、匙で雑炊を掬う。
「食え」
「えっと?」
「熱があるやつはこうやって食わせるんだろ? 前にテレビで見たぞ」
どんなテレビだろう、と思ったが、小林は自分からは敢えて見ないが垂れ流されている映像は時々記憶している。
おそらくどこかで見たのだろうと納得して、差し出された匙を見る。
もう元気だし、食べさせてもらわなくても自分で食べられる。
が、小林が睨みつける勢いで早く食べろと促してくる。
気恥ずかしいが、小林がやりたいというならやらせてやろうと花崎も覚悟を決めた。
流石に息を吹きかけて冷ますのはマジックハンドでは出来ないので、花崎が自身で冷まして口に入れた。
満足しただろうか、と思ったら、小林はまたすぐに掬って差し出してくる。
「え、これいつまで続けんの?」
「お前が食い終わるまでだろ?」
当たり前のように言う小林の言葉を聞いた花崎は、マジックハンドから器と匙を回収した。
「何すんだよ」
「いや、自分で食えるから。てか小林の飯もあんだろ? 冷める前に食えよ」
「僕はお前に食わせんだ!!」
「俺は小林と一緒にご飯が食べてーの!!」
小林の言葉に、花崎が負けじと返せば、その言葉に小林が折れた。
小林は机の上に置かれた食事を、運ばれてきたときに使われたトレーに乗せて花崎の正面に行き床に腰を落とす。
「せっかく椅子戻してくれたんだから机で食えばいいのに」
「それじゃ一緒じゃねーだろ」
「そうでもねーと思うけど」
けれど、嫌ではないので花崎はそれ以上強くは言わなかった。
食事を終えた頃、小林に通信が入る。
『小林、花崎はどうだ?』
電話の主は井上だ。
「あ、井上ー。俺すっかり元気ー! 明日からはまた事務所に行けっから」
『そうか。まあ、今日一日は安静にしていろ』
「はーい」
花崎の言葉に安心したように呟いたあと、小林に表示先を戻す。
『小林は今日も仕事だからな』
「何でだよ」
『依頼があるからだ』
「断ればいいだろ」
明智の頃は気が乗らない、という理由で断ることも度々あった。
一応、解決すべきかどうかを考慮した上で断っているものが多かったが、私情で断ることもあった。
事務所自体を休みにすることすらあった。
『いいから、11時までには事務所に来い』
だが井上は小林の苦情を取り合わず、それだけ言うと通信を切った。
話を長引かせてもごねられるだけだと分かっているからこその対処だ。
現在は9時過ぎ。
歩きで移動できる距離とは言え、そこそこの距離がある。
サボるか、とちらりと小林の脳内に過る。
「小林、仕事頑張れよー!」
だが、花崎は送り出す気満々だ。
引き止めろよ、と少しだけ思う。
「今日は小林に行ってらっしゃいって言えるな」
しかし花崎は嬉しそうに言葉を続ける。
「一緒にご飯食べて見送るって、なんか夫婦みたい? この場合俺小林のお嫁さん? お婿さん?」
さらに続いた花崎の言葉で、小林は事務所に行くことを固く決めた。
夫婦とは恋人の先にある関係だ。
帰ってくる場所が花崎になると思えば、そういう関係になるのだと思えば、不思議な程に自分とは無縁だと思っていたやる気というものが湧いてしまう。


病み上がりの花崎と引き離されて嘸や苛立っているだろうと思っていた井上は、告げた時間より早めに来た上、常にない上機嫌な小林を見ることになり、絶対に理由は聞かないでおこうと心に決めた。






あとがき


小林を花崎の枕元で体育座りさせたかった。
お母さんのとろこでやってた感じで。
あの時はお父さんが飛び込んできて結局お母さんの手に触れなかったので
その手が届いて触れたことのある花崎の横で同じように座って
「お前がいてくれてよかった」
的な言葉を小林に聞かせたかった。
花崎は泣いて寝て起きたら晴兄がいなくなった過去があるので
起きたら傍に大切な人がちゃんといるという状況を与えたかった。

ところでマジックハンド結構活用しましたが、果たして小林は大友にお礼を言ったのか。
「使えた」
位で終わるかも知れない。
「お礼はー?」
って言われて
「知るか」
って会話が。
花崎が
「大友が作ったのかー! それすげー細かく動くのな!!」
「でっしょー!」
ってノリノリで話を始めるかもしれません。

ところで私の中で小林における認知は
信用
井上>野呂>山根>大友
使える
野呂>大友>井上>山根
かなあという認識です。
花崎は圏外。信用とかそういう問題じゃない位置にいるので。
勝田も圏外。井上を止められるしごはん美味しいから多分ランキングに入れたら上位だけどあまり関わったことがないので圏外。
大友のことは胡散臭いけど、頭の良さとか道具とかそういう辺りでは信用してると思います。
信用が井上の方が野呂ちんより上なのは野呂ちんが時々突飛な事を言うから。
使えるランキングだともしかしたら花崎は山根の下になってしまうかもしれない。
「おまえ、使えねーな」って言われてるかも。
それはそれで美味しいです。

こんなあとがきまで、お付き合いありがとうございました!!
お気に入りやイイネや、いやもう閲覧数が動くだけでもトリスタの民がまだいるのだと心の底から安堵します。
本当にありがとうございます。
 

拍手

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