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04 August

違っても世界がくれるひとつの出会い 1

アニメとは違う世界線でもきっと花崎と小林は同じように出会う





記憶に名だけを残し、浮浪児となった小林を見つけたのは裏社会の人間だった。
小林の力を見て最初は驚いたものの、使えると判断したらしい。
衣食住を与え、更に死ねるかもしれない場所として危険な仕事を与えた。
確かに小林の仕事には多くの死が絡んだ。
主に小林によって刈り取られる命だ。
自分で殺しているにも拘らず、簡単に死ねる命を羨ましいとすら思った。
白く、返り血を浴びることもない小林は裏社会で堕天使との異名を持って恐れられるようになっていた。
仕事を始めて数年経つが未だに小林が死ねる気配はない。
仕事のない日は基本、部屋に引き籠るか死ねる方法を探してさ迷い歩く。
今日の気分は外だった。
「お出かけですか?」
部屋から出ると小林が一応所属している組織の構成員が小林を見かけて声をかける。
一応、というのは衣食住が保証され死ねるかもしれないから仕事を請け負っているだけの関係だからだ。
小林が出ていこうと思えば簡単に出ていくことが出来る。
そしてそれを止める術を誰も持たない。
死ねないことを除いて、小林はあらゆる自由が許される存在だった。
だから組織の人間は小林に気を遣う。
小林を失うことは組織の最大戦力を失うのと同意義だからだ。
そして同時に恐れる。
小林に自分が殺されないかと。
答えるのも億劫で小林は、お前には関係ない、という視線だけを相手に送る。
「お、お食事はどうしましょう」
「さあな。部屋にでも置いておけ」
それだけ言うと、小林はもはや相手を見ることもなく出口に向かった。

携帯食を齧りながら人気のない場所を選んで歩く。
仕事で多くの命を刈り取ってきていようと、別に進んで殺したいわけではない。
全く裏と関係ない人間に恐怖を与えたいとも思わない。
小林が人を殺すのは、小林の意思ではなく依頼人の意向か靄による防衛だ。
さて今日は何を試すか。
そう考えたところで、何故まだ取り壊されていないのかわからない廃墟となった高層ビルを見かけた。
久しぶりに飛び降りるのもいいかもしれない。
もしかしたら何かの理由でうっかり死ねるかもしれない。
期待などほぼゼロに近いが、それでもそれしかできないのだから試すしかない。
それに空を見ながら空中を舞うのは嫌いではない。
面倒臭いことこの上ないが、屋上まで登り、そして身を投げた。
結果はやはり死ねずだ。
地面に激突する直前、ふわりと空気に持ち上げられたように体が浮いて、殆どない衝撃を身に受ける。
「何、今の」
が、そこで予想外の声が聞こえた。
いや、そもそも声が聞こえるのが予想外だ。
驚いて声がした方に視線を向ければ、自分とそう変わらない年頃の少年が立っていた。
「お前、何でこんなとこにいる」
そうだ。誰もいない廃ビルだからこそ小林はここを利用したのだ。
意外と作りがしっかりしていたので、雨風を凌ぐには好立地なこの場所に浮浪者がいないことの方が不思議ではあったが、浮浪者以上にこの少年はこの場に似つかわしくない。
驚いているのに出た声は平坦で、しかしそんなことを聞いてどうするというものだった。
「俺? 俺は探し物。お前は?」
だが少年は普通に返してきた。
「僕も…まあ探し物だな」
死ねる方法を。
「ふーん。でさ、お前どうなってんの? 上から落ちてきたよな? 何で怪我とかしてないの? もしかして人間じゃない? 俺架空の存在見た事ねーんだけどもしかして天使的な何か? 天から落っこちちゃった?」
探求心からなのか、少年は一気に疑問を投げつけてきた。
「ウルセエ。あと天使じゃねえよ」
堕天使と呼ばれることもある小林は嫌なことを思い出して苦虫を噛み潰したような顔になる。
「じゃあ人間なんだ? 益々どうなってんの?」
人間であるならば何故傷つかないのか。
少年の疑問は止まらないようだ。
「知らねえよ。分かってたら苦労しねーし」
「苦労?」
「この力の所為で僕は死ねねーんだ」
「死ねないって、さっきみたいに?」
こくりと、首の動きで肯定する。
「ふーん」
興味が湧いたのか、少年が近づいてくる。
「それ以上近づくとお前が死ぬぞ」
「へ?」
小林の言葉に少年は足を止めた。
「僕には制御できない。近づくものは全部壊す」
「全部壊すって、飯とかどうしてんの? てか服着てんじゃん。生まれた時からそれってわけじゃないなら服も破けてすらいねーじゃん」
再び小林の言葉に疑問を持ったようで質問を投げかけてくる。
気になったことは取り敢えず探求する性格のようだと小林は判断する。
正直鬱陶しいことこの上ないが、下手に興味本位に近づかれても困るので小林は答えてやることにする。
「飯は食える。そういや触れるもんはあるな」
「じゃあ全部じゃねえじゃん」
だが小林の言葉を聞いた少年の出した結論に、小林が面食らうこととなった。
「確かにそうだな」
考えていなかったが、確かに小林の靄は本当にすべてを破壊するわけではないと今更ながらに気付く。
「おまっ自分の力なのに、今更そんなことに気付くのかよ」
目を瞬かせる小林の様子に、少年は噴出したかと思うと腹を抱えて笑い始めた。
「い、意識しなかっただけだ!」
笑われるのは初めての経験の小林はどうしていいのかわからず、しかし何故か気恥ずかしくなり言い訳を述べる。
「お前面白れーね」
その必死な様子に更に笑いが込み上げてきた少年はもう一頻り笑うと、笑い過ぎて涙を浮かべた目を指で擦りながら、そんなことを言った。
更に小林には驚くべき言葉が続けられる。
「そういやお前、名前は?」
問われたことが一瞬理解できず、小林の思考が停止する。
名前。
確かあった筈だ。
誰も呼ばない…いや、誰かに名乗ったことがあったかも分からない。
自分ですら、忘れそうになっているそれ。
「小林…芳雄」
どうやら覚えていたらしい名前が口から零れ落ちる様に発せられた。
「小林か! 俺は花崎! よろしくな!!」
その零れた名前を拾って少年は嬉しそうな笑顔になり、言葉とともに手を差し伸べた。
伸ばされた手は当然靄に弾かれ、体ごと吹っ飛んだ。
「おお! これが自動防御システムか! 本当にスッゲーな!!」
だが、花崎と名乗った少年の表情は一度驚きに染まったものの、再び笑顔に戻った。
笑顔というか、馬鹿笑いだ。
小林には目の前の少年こそ本当に人間なのか計りかねた。
自分に向けられる視線は常に恐怖か畏怖だ。
なのに花崎は出会ってから恐怖ではなく感嘆や好奇心といった顔ばかり見せる。
靄に弾かれてなお、笑顔を向ける。
とはいえ、小林は天使などという存在は信じていない。
自分すらそのように呼称されているからだ。
「お前…馬鹿だろ」
小林の出した結論はこれだった。
小林の危険性をこの状況になっても理解していないと判断したからだ。
「はあ? 何でいきなりそうなんだよ」
小林の言葉に花崎は不機嫌そうに顔を歪める。
「普通逃げんだろ」
「何で?」
「何でって…」
それを聞いてくるから馬鹿だというのだ。
「だって、一定以上近づかなきゃ別に問題ないじゃん? 俺さっきからずっといるけど吹っ飛ばされたの今の1回だけだし」
「っ…」
小林はまた驚かされることとなった。
花崎はどうやら危険性を理解した上で、適切な距離を保てば問題ないと判断したのだと分かったからだ。
それでも普通の人間なら出来るだけ距離を置きたがるものだが。
そこで花崎の体のどこからか電子音がした。
こいつ実はロボットか? と小林は思ったがそうではなかったようで、胸元から端末を引き抜くと、映し出された誰かと会話を始めた。
少し揉めた後、通話を切って小林に視線を戻す。
「やべー。俺もう行かなきゃ。小林は普段この辺りにいんの? 次あったらもっとお前のこと教えてくれよ」
と、一気に言い切ると、小林の返事を待たず、またなー! とだけ言いおいて去ってしまった。
「なんだあいつ…」
小林は嵐のように騒がしく、あっという間に過ぎ去ってしまった花崎に呆然とするしかなかった。
無表情で無感情。
そう思われている小林が、年相応に驚いたり焦ったり幾つもの表情と感情をこの短い時間で初めて見せたことは。本人すら気づかなかった。
けれど、花崎と名乗った少年が、今まで他人を気にしたことのない小林の認識に刻まれたことだけは自覚できた。



 

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