忍者ブログ
19 May

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

25 April

自ら望む分岐点

花崎、二十面相堕ちルート




花崎が二十面相の手に落ちた。
と、明智が言った。
野呂と井上は、明智がそんな嘘をつく筈がないと思いながらも、信じられない様子だった。
二十面相には洗脳する能力があるのでその所為ではないか、等といっている。
小林は、意味がわからなかった。
手に落ちたという言葉の意味がわからなかったのだ。
普通に考えれば、二十面相が手に入れたというなら、花崎は二十面相のものになったということだ。
だが、花崎は物ではないので誰かが手に入れるというのは不可能だと思っている。
小林の中で、少なくとも人間は物ではない。
ならばどういうことか。
明智じゃなくて二十面相を選んだということだろうか。
だとしたら、明智探偵事務所に足を運ばなくなるのだろうか。
今までは、明智が暫く来るなと言っていたから来ていないだけだった。
その期間が終わっても花崎は戻らないということになる。
そこまで思考が行き着いて、小林は初めて慌てた。
花崎はいずれ戻ってくると思っていたから、嫌々ながらも明智の指示に従って探偵活動を続けていたのだ。
花崎がそうすれば死ねるかも知れないと言っていたから。
だが、あれ以来小さな怪我をすることすらない。
小林が少年探偵団にいるのは、花崎との交換条件があるからだ。
『必ず、お前を殺してやる』という花崎の言葉が対価だ。
なのでさっさと花崎は戻ってきて小林が死ねる方法を探さなければならないのに、もしかしたらもう来ないかもしれないなど、契約違反もいいところではないかと小林は舌打ちして花崎家に向かった。
もしかしたら明智の勘違いかも知れないので、まずは本人に確認をとる必要があるからだ。
「花崎……」
途中で目的の人物が小林の進路を塞いだ。
もう少し近づいて話をしようと小林が足を踏み出そうとしたところで、花崎が口を開く。
「小林を誘いに来たんだ」
「誘い?」
意味が分からず、小林は思わず足を止めた。
「俺、明智さんじゃなくて二十面相に付くことにしたんだ」
花崎の言葉に、明智の言っていたことはやはり本当だったのかと思う。
「そいつにか?」
ちらりと、花崎の横にとまっている車に視線を送る。
もし花崎がこの場にその車で来たなら、花崎は運転できない筈なので二十面相が乗っているのかもしれない。
僅かに見える後ろ姿は、見たことある髪型をしていた。
「うん。だって二十面相は人を殺さないし」
なら明智は殺すのか? と思ったが小林にはどうでもいいことだったので追及はしない。
小林が黙ったままだったので、花崎は自身の話を切り出した。
「小林とは殺してやるって約束したから、一応誘っておこうと思って。もともと少年探偵団に入りたかったわけじゃないだろ? ならこっちでも死ねる可能性あるかもしれねーし」
花崎は自分との約束を完全に忘れたわけではないと知って、小林は安心した。
そして、首を横に振った。
「行かねえ」
小林の回答に、花崎は僅かに目を揺らしたが、苦笑しただけだった。
「そっか……」
それだけ言うと、車のドアに手をかけた。
「じゃあな、小林」
「待て!」
それを小林は制止した。
しかし花崎は小林の言葉を無視してドアを開く。
「待てって言ってんだろ!!」
あまりに花崎が無視をするものだからワイヤーを飛ばせば、流石にそれは避けてドアから離れた。
その隙に、小林は車のドアを閉めてその前に立つ。
「なんだよ」
睨みつけてくる花崎を、小林も睨み返す。
「お前が戻れ! 約束は約束だ! 『少年探偵団に入ったら僕を殺す』って約束だろ!! お前がいなくなんな!!」
「少年探偵団っていう名前が必要なら、明智さんのところじゃなくても少年探偵団できる、って言ったら、じゃあ小林は来てくれんの?」
「行かねえ」
キッパリとした小林の言葉に、花崎は目を伏せる。
「じゃあ無理だよ」
「無理じゃねえ! お前が戻ればいいだけだろ!」
「俺には無理なの! どうしてあそこじゃなきゃ駄目なんだよ。そんなに明智さんがいいのかよ?」
「あいつは別にどうでもいい」
「じゃあ何が駄目なんだよ」
花崎の言葉に、小林は呆れたような視線を送る。
「僕じゃない、お前がダメなんだろ」
「はあ?」
意味が分からず花崎は首を傾げる。
「お前、全然面白そうじゃねーじゃねーか! 全然笑ってねーじゃねーか!!」
思いがけない小林の言葉に花崎は面食らったが、慌てて拗ねたように顔を逸らす。
「……んなことねえもん」
しかし拗ねて見せたところで小林が黙る筈もない。
「だいたいお前、僕が断ったとき安心しただろ」
「そ……、んなわけねーだろ!」
小林のその言葉に、花崎は思わず声を詰まらせる。
「嘘だ!」
あの時、痛そうな顔をされたから言葉を改めるべきか逡巡している間に、花崎は苦笑した。
肩から力が抜けたように。
だから、小林は自分の答えが間違えていなかったと思った。
「嘘じゃねーよ!!」
「嘘だろ! 行きたいって顔してねーじゃねーか!」
まさか、よりにもよって小林に顔色一つで心情が読み取られるとは思っていなかった花崎は、しかし容赦なく心の中心をついてくる言葉に、苦し気に顔を歪める。
「だって……行かなきゃダメなんだ。確かに二人続けて犯罪者出したら花崎にはすごい迷惑がかかるし、養子をとった義父さんも一族から責められるかもしれない。これから養子縁組を考えてる人達も躊躇うかも知れない。でも…晴兄を元の場所に戻すためには、俺が晴兄より下に行って押し上げねーとダメなんだよ…」
「何言ってんのかわかんねー」
小林の言葉に、やはり花崎が浮かべるのは苦笑だ。
「分かんなくていいよ」
「わかんねーけど、つまりお前は別に行きたいわけじゃねーのにあのおっさんのトコに行くってことだろ?」
「違う! 俺がやりたいのは晴兄を跡取りに戻すことだ! だから行きたくて行くんだよ!」
「なら笑えよ! お前があの時みたいに笑って僕を殺すって約束するなら一緒に行ってやる!!」
花崎は……笑おうとして、しかし失敗した。
それどころか、涙が溢れた。
慌ててそれを拭って隠そうとするが、既に小林は目にしてしまっていた。
「そんな変な顔するくらいなら……」
「そこまでだよ」
車の運転席のドアが開いて、男がひとり出てきた。
「二十面相……」
叱られそうな子供のような、それでいてどこか安堵したような表情で相手を呼ぶ花崎の様子に、小林は奥歯を噛み締める。
「どうやら小林君とは交渉決裂したみたいだね」
言いながら、二十面相は花崎の背後まわり、その両肩に手を置いて支えるように立った。
その光景がさらに小林を苛立たせる。
「花崎君を泣かせるなんて酷いじゃないか、小林君」
僅かに零れた涙の筋を辿る様に二十面相の指が花崎の頬を撫でる。
その様子に小林は苛立ち、舌打ちする。
そんな小林に、二十面相は唇を愉快そうに歪める。
「羨ましい?」
「はあ?」
訳が分からないと首を傾げる小林の前で二十面相は花崎の肩を抱く。
「君では花崎君の腕を掴んで引きとめることも出来ないものね」
「だから何だ!」
確かにできない。
今、実際にそれをやって引き留めたいのに、小林にはそれが叶わない。
それをあざ笑うかのように、小林が陣取る後部座席ではなく、助手席のドアを開けて抱いた肩を押すように花崎を促す。
「花崎君、これ以上小林君と話し続けるのは辛いだろう? 車に先に乗っているといい」
強めに花崎が押されて、小林の靄と接触しそうになったので小林が慌てて身を引いた。
それで、随分と花崎は車に乗りやすくなる。
だが、花崎は乗り込まずに二十面相を振り返る。
「小林には……」
何もしないで欲しいと言外に訴えれば、二十面相は苦笑した。
「彼に何かできる筈が無いだろう? それに彼には伝言を頼みたいから無事に帰ってもらわなければならない」
そう告げられれば、安心したように花崎は車に乗り込んだ。
「花崎!」
慌てて再び近づこうとする小林の目の前でドアが閉められる。
「今、花崎君を引き止めても無駄だよ、小林君。花崎君は自分の意志で帰らないのだから」
小林は二十面相を睨みつける。
「だから、追いかけっこだよ小林君。今までみたいに僕からちょっかい出したりはしない。ただし全力で逃げる。もちろん花崎君を連れてね」
笑いながら、二十面相は語り続ける。
「花崎君を取り戻したかったら彼が真に望むものを用意して追いかけておいで。それが用意できなければ、いくら花崎君を見つけ出せても取り戻すことは叶わない」
語りながら歩きだす。
「ゲーム盤は東京だけににしておいてあげるよ、と明智君に伝えておいて」
「オッサンと遊びたいなら勝手にすればいいだろ。なんで花崎を入れる必要があんだよ」
明智とゲームがしたいなら好きなだけすればいいと思う。
小林には関係ないのだから。
だが、花崎まで連れていかれるのは納得がいかない。
「それはゲームの景品が花崎君だからだよ。彼が私の協力者として名前が表に出るのが先か、明智君が花崎君を取り戻すのが先かというゲームのね」
気が付けば、二十面相は出てきたときと同じ運転席側に立っていた。
「花崎君を取り戻したいなら、君もゲームに参加するといい」
そう告げると、二十面相も車に乗り込んだ。
すぐに発信する車。
走り去っていく車を見送るしかなく、小林は大きく舌打ちをした。

拍手

PR