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19 May

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04 September

未来は修正可能か

よくある逆行ネタです。
今回は花崎です。





最初訳が分からなかった。
けれど探偵として培ってきたものが、まず現状を確認するという作業をさせた。
そして、分かった。
何があってこうなったのか、あるいは夢なのか。
その辺りは不明のままだけど、今、が晴兄の事件の直後だった。
「そうだ、俺は……」
誰からも連絡が来ないから…謹慎中だから当たり前なのに、それが…寂しくて不満で。
気づいたら、事務所に足を向けていた。

そうだ、この後、俺は二十面相に捕まる。
つまり、二十面相と直接やりあえるチャンスだ。
事務所に行き、こっそり拳銃を持ち出した。
やけに重く感じた。
たぶん、それはこれから俺が人を殺そうとしているからだ。
自分の意志でやろうとしているのに、怖い。
そんなことを思っていると、井上達が帰ってきた。
鉢合わせる前に帰るつもりだったけど、これはこれでチャンスだ。
きちんと少年探偵団からの離脱を明言できる。
そうすれば、捕まった俺を助けにくる必要もなくなる。
まあ、今回は捕まる気はないんだけど。
それでも、これから俺がすることに対する責任もなくなる。
「荷物取りに来ただけだし…」
そう言った俺に、小林が手に持った袋を差し出した。
「ん。食え」
おそらく小林が手にしているものと同じものが入っているのだろう。
「腹減ってんだろ。顔青いぞ」
もう一度、押すように伝えてくる。
こんな暗い中で俺の顔色になんて気づいてくれていたんだと思うと、あの時八つ当たりした申し訳なさが込み上げる。
「一個やる」
「いらねえよ」
でもお礼を言うわけにも行かないので、あの時と同じように断る。
もっと酷い言い方をしていた筈なのに、小林の気遣いについ苦笑してしまった。
このままここにいると、ボロが出そうで危ない。
「俺、少年探偵団やめるから」
だから簡潔に伝えることにした。
「花崎!?」
「ちょ、ちょっと本気ー!?」
流石に予想外だったみたいで、野呂と井上から驚きの声が上がる。
「元々、晴兄を見つけた時に向かい合える男になる為にやってただけだし、晴兄が見つかった以上もうここにいる意味もないし」
ごめん。本当は俺もここにいたいけど…未来を知っていて、〝今〟じゃないとはいえ、一度皆を裏切った俺の仕事なんだ。
「やめるってどういうことだ?」
小林が不思議そうな顔で聞いてくる。
「そのまんまの意味。もうここには来ない」
「そうか…」
俺の言葉を理解した後、頷いてくれた。
「なら行くぞ」
そして何故か、そう言って踵を返した。
「へ?」
なんでそうなるんだ?
「お前がもうここに来ないなら、僕がここにいる意味もないだろ。次はどこに行けばいい? どこに行けば死ねる?」
「いや、小林は残れよ」
「はあ?」
「いや、俺が『はあ?』だよ。何でお前まで辞めんの!?」
別に俺に合わせる必要ないのに。
「僕を殺す約束はどうなる。お前が僕を殺すんだろ?」
成程。その約束のことが気になって辞めるなんて言い出したのか。
それなら辞める必要はないな。
「ああ、それね。大丈夫大丈夫。少年探偵団で皆と楽しく事件解決してりゃそのうち死ねっから」
「そのうちっていつだ」
いつ、と言われても小林の感情次第だから明確には言えない。
「小林が、ここが好きになって楽しいって思えるようになったら?」
「なんだよそれ」
明確ではない答えに、小林が顔を顰める。
まあ、そうなるよな。
「まあ、もう暫くここに居てみろって。そのうち分かるから。どうしても分かんなきゃそんときゃうちに来たら教えてやるよ」
「なら今教えろよ」
「今じゃたぶん言っても意味ねえかなぁ……」
あれは小林の本心からの思いがないと意味がない。
意識していたら逆にいつまでたってもたどり着けない可能性もある。
「どういう意味だよ」
「もうちょっと仲間と頑張ってみてみろってこと!」
「つーか、それじゃお前が僕を殺すことにならねーだろ」
確かにそうだけど、その約束を守ろうとすると小林は死ぬまで俺から離れられないことになるじゃん。
「それはまあ…そうなんだけど……死ねる方法を提供したってことで勘弁しろよ」
「花崎お前、何を知っている?」
小林との言い合いをする俺の言葉に、井上が何かに気づきかけてるみたいだ。
「何って、なんのことだよ井上」
でも今なら多分、なんとか誤魔化せる。
「お前ら、今日は花崎を外に出すな。絶対にだ。何なら拘束してもいい」
そんなことを考えていたら、上から明智さんの声が聞こえた。
「先…明智さん! 何でだよ! 俺辞めるんだからアンタに従う義理ねーぞ!」
「だからお前以外に言ってんだろ」
確かに。
井上達は俺を捕まえろという明智さんの言葉にまだ戸惑っている。
今なら逃げられるか?
小林は傷つけるのが嫌で触れない。
ピッポちゃんは痛いのを我慢すれば所詮ふくろうだからどうにかなる。
井上は絶対的に建物内での機動力が低い。
3人なら逃げられる…けど……。
明智さんもいるのが厄介だ。
いや、明智さんはまだ上だ。
間に合う!
と、思って走り出したのに、まさかの明智さんからワイヤーが来て捕まった。
しまった。
遠いからって警戒してなかった。
俺は為す術もなくワイヤー巻にされ、その場に倒れる。
地味に痛え。
「さてと」
動けない俺に明智さんが近づいてきたかと思うと、俺の服を弄り始めた。
「うわー! 何すんだよ明智さん!! 未成年者に対する猥褻罪で訴えるぞ!」
「なら俺は、窃盗でお前を訴えればいいのか?」
そう返した明智さんの手には、俺が持ち出した銃が握られていた。
もっと別のとこ隠しとけばよかった。
それを見て井上が目を見開く。
「花崎、お前…銃なんてどうするつもりで……」
「これは明智探偵事務所の備品なんで、辞めるなら返してもらわないとな」
もちろん理由を言う訳にはいかない。
「一つくらいいいじゃん。退職祝いだって」
「退職祝いにしちゃ物騒じゃねーか」
「うるせーな! じゃあいいよ!! 別に銃もってなくてもなんとかなるし」
ていうか、もうめちゃくちゃだ。
もしこうしていることが二十面相にばれたら俺への接触は諦めてしまうかもしれない。
とにかく喧嘩して出ていかなければならないのに。
そしたらアイツに捕まって、アイツに銃を握らされる。
その銃で十分だ。
本当は誘拐される前に何とかしたかったけど計画変更だ。
別に俺が捕まる程度なら、花崎に大きな迷惑かけることもないし。
心配は…たぶんさせちゃうんだろうけど……。
そんなことが嬉しいと思えてもしまって、顔が緩みそうになった。
危ねー。
喜んでる場合じゃない。
絶対に今、二十面相を止めないといけないんだ。
「家に帰せよ! 淫行は誤解だとしても略取及び誘拐罪には該当すんだろ!!」
「そこまでして家に帰りたい…いや、事務所から出たい理由はなんだ?」
「何って、俺この前言ったじゃん。あんたのとこでなんてって!! こんなとこ一分一秒でも居たくねーの!!」
「本当にそれだけか?」
「それ以外何があんだよ。おまけにこの扱い! 余計にそう思うだろ!」
半分本当。半分嘘。
でも、多分明智さんは俺の行動を疑っている。
「小林、お前が花崎を外に出ない様に見張ってろ。逃げそうなら止めろ」
「あ、自分だと立場が悪いから未成年者の小林に押し付ける気だー! きったねー!!」
叫んでみるが、明智さんは聞く耳持たずだ。
井上と野呂はひたすら困惑している。
小林は了承の返事をしていないので、明智さんの言うことを聞くとは限らない。
今なら、明智さんの隙さえ突ければ逃げられるかもしれない。
今なら、というか時間的に考えても今しかないというか。
どうしよう。
どうしたら明智さんの隙を突ける?
考えて、さっきの電話を思い出した。
「明智さん、中村さん…たぶん二十面相に操られてるよ」
この時点で操られていたかは分からない。
でも、タイミングのいい、小林を持ち上げて俺を否定する電話は、俺のもとに現れたタイミングも合わせて考えれば、二十面相の差し金だった気がする。
だとすれば、中村さんはもう二十面相に操られている。
でも、今、二十面相を倒せればたぶん色々間に合う。
「どういうことだ?」
流石に困惑を隠せないのか、明智さんは躊躇いを見せる。
「これ以上は教えない。俺を放してくれたら他にも教えてもいいけど」
「まさか! 中村刑事がそんなはずないだろ!」
俺の言葉に声を荒らげたのは井上だ。
「そうそう。だって……」
言いかけて、野呂の言葉が止まる。
たぶん、可能性に気付いたんだろう。
中村さんの依頼は基本、明智先生は断らない。
二十面相が先生を楽しませる為だけに事件を起こしているとしたら、繋ぎ役として中村さんは完璧だ。
明智さんは少し考えたあと、窺うような視線で俺を見る。
「花崎、お前…誰だ?」
「はあ? 俺が俺以外の誰だっていうんだよ!?」
「お前なのは分かってる。でも違う。何年お前を見てきたと思ってる。何があった?」
やっぱり、明智さんは俺の違和感にはっきり気づいちゃってるんだ。
「晴兄が撃たれた」
「それだけじゃないだろ?」
「それだけって言うな!」
確かにそれだけじゃないけど、晴兄のことをそれだけって言われるのは釈然としない。
「俺が何をしたいって? あんたの為に晴兄まで巻き込んでくれたあいつに復讐すんだよ。あんたも同罪だ。だから俺は少年探偵団もやめる」
「復讐なんてお前に一番似合わない言葉だな」
「似合わないって、あんたが俺の何を知ってるんだよ! 知ってたなら晴兄のこと教えてくれてたはずだ!!」
「それは……」
明智さんが言葉を詰まらせる。
「確かに、晴兄は俺の知ってる晴兄じゃなかった。でももっと早く連れ戻せてれば元の晴兄のままだったかもしれないし、少なくとも今回みたいに二十面相に利用されて傷ついたりしなかった」
酷いと分かってるけど、明智さんから逃げる為に明智さんを責める。
「保険の俺なんかじゃなくて、相応しい人間が花崎家を継げて花崎にだってそっちの方がずっと良かった!!」
叫ぶと同時に俺は縄抜けをして走り出した。
「もうあんたの顔なんて見たくねーだよ!!」
俺を止めようと伸ばされた手は、俺の言葉に一瞬躊躇った。
酷いこと言ってごめんな、先生。
今は、先生の行動が俺の為だったのだってわかってる。
でも、ここでそんなことに、〝俺〟は気づいてないから。
先生が躊躇った、それだけの隙があれば十分だ。
俺は事務所から出ていくことに成功した。

あの時考えもせずに走った道を、なんとなくの記憶で走る。
まあ、違ったとしても多分どこかで監視して追ってきてるだろうから問題はないだろう。
適当なところこで足を止めて壁に手を付く。
「くそっ!!」
転んでしまうと二十面相が来た時に対処がしづらいので、壁に八つ当たりをする。
八つ当たりは割と本気だ。
あの時と違って、当たりたいのは仕方ないとは言え皆を傷つける発言をした俺自身だ。
「やあ、花崎君」
出た。
「二十面相…」
「こんばんは」
にやけた口元がムカつく。
「お前が晴兄を巻き込んだんだな?」
スプレーを食らわないように距離を取る。
「巻き込んだなんて酷い。私は彼らの望みに手を貸したに過ぎない」
「この野郎!!」
俺は捕まらなきゃいけないのも忘れて思わず殴りかかった。
だが、あっさりよけられてしまう。
その上、手を取られて壁に押し付けられた。
クソッ、そういえばこいつ、いつも暴れはしないけど明智先生から逃げ切るくらいには動きがいいんだった。
「花崎君…キミ……」
壁に押し付けられ、腕を一纏めに囚われる。
片手対両手だっていうのに振りほどけない。
細いくせになんでこんなに力あんだよ!!
「おかしいな。君はもっと落ち込んでいると思っていたんだけど、随分強い目をしているじゃないか」
その言葉に体が強張る。
「まるで何かの覚悟を決めているかのように」
確かにあの時は精神がズタボロだった。
二十面相もそれを想像していたんだろう。
「気に入らないな」
まさか見ただけで違いがバレるとは思わなかった。
「本当は君の意思で明智君と敵対して欲しかったんだけど……」
やばい、俺が先生や皆を裏切る気がないことまでバレたのか?
「言うことをきかせる手段なんていくらでもあるんだよ」
そう言って二十面相は俺の顎を掴んだ。
顔が近い。
キスでもされそうな姿勢だ。
二十面相には洗脳する力があるという。
でも誰でも操れるわけじゃない。
もし、これが洗脳に必要な行動だとしたら…。
「やめろ!」
洗脳なんてされたら、こいつを殺せないどころか、こいつの思い通りにあの事件をまた起こしてしまう。
「嫌だ!」
蹴り上げるが、顎を掴んでいた手で足が止められてしまった。
にやりと笑われる。
思い通りにされてたまるかと、顔を逸らす。
さらに面白そうに二十面相は喉を鳴らすように笑った。
「ねえ、花崎君。君は一体何を知って、何を考えているのかな?」
「お前には関係ないだろ!!」
「そうだね。君が何を考えていようと僕には関係ない」
だって君は僕の手駒になるんだから。
そう言っているように聞こえた。
顔を逸らすなんて大した抵抗にならない。
「やめろ! 放せ!!」
悔しい。
どうしたって俺はコイツに敵わなくて、結局こいつの思い通りに動かされるってことかよ。
「泣かなくてもいいのに」
「うるさい!」
悔しさで溢れる涙を、舐められる。
気持ち悪い。
気持ちわるいのに抵抗すらできない自分が情けない。
唇が触れそうになる、その瞬間に、突然二十面相が俺を放して身を引いた。
「まさか君が来るとはね。君は本当に僕の予定を乱してくれる」
二十面相の手が外れて押さえがなくなり、思わず座り込む俺と二十面相の間に人影が割り込む。
「そういうの、嫌いじゃないけど羨ましいよ」
二十面相の笑い声。
俺の目の前には、裸足の足。
「小林…?」
見上げれば、確かにそこに、まるで俺を庇うように背を見せる小林がいた。
「何泣いてんだよ」
ダセエな。
そう言って小林は舌打ちをした。
いつもと変わらない反応。
でもそんなのは問題じゃなくて。
「なんでここにいんだよ……」
「お前が言ったんだろ、GPSで居場所が分かるって」
「そうじゃなくて!」
だって〝あの時〟は誰も追ってなんて来なかった。
なんで小林が追いかけてくんだよ。
「お前が言ったんだ。探偵団で事件解決してれば死ねるって」
「だからそれは…」
「お前が、僕を殺すんだろ! 何度も言わせんな!! お前が! 僕を殺すんだ!!」
言い訳をしようとした俺の声を遮って、小林が叫んだ。
『楽しかったんだろうな。お前といるのが』
小林の言葉に、未来の明智さんの声が聞こえた気がした。
そうだ。
明智さんの言う通りなら小林は、俺と一緒にいるのを楽しいと思ってくれてたんだ。
なのに、小林からそれを奪おうとしてしまった。
小林がここに来たのは、きっと俺が〝前〟とは違って、少年探偵団を辞めるって言ったからだ。
「ごめん、小林……俺…」
小林的には初めてだろうけど、〝また〟約束を破ろうとしてしまった。
謝りながら泣くしか能のない俺と、その前に立ち続ける小林を見ていた二十面相は、さて、と小さく呟いた。
途端、小林が声に反応したのか二十面相に睨むような視線を送る。
「どうしようかな…せっかくのお膳立ては、花崎君に思ったほどダメージは与えられなかったみたいだし、小林君はどうやら花崎君を見捨ててはくれなさそうだ」
いつもなら駄目だと思ったらあっさり立ち去る二十面相が留まっているのは、恐らく俺を使って明智さんに与えようとしていた数年掛りの〝刺激〟を用意できなくなるのが惜しいんだろう。
俺が俺の意思で裏切らなくても、明智さんが手放したことで俺が騒ぎを起こせばそれだけで明智さんの刺激になると思ってるだろうから。
やっと大きな刺激を与えられると思っていただろうからな。
それにここで俺たちを逃せば、明智さんに俺を利用としていたことがバレる。
バレていないからこそ、俺の裏切りは強い刺激になり得たのだ。
明智さんが二十面相に向き合うのは、その刺激があるときだけだと、二十面相は思っているんだろう。
本当は、明智さんは二十面相を見放す気なんてないのにな。
ああ、そうだ。
だからこそ俺がケリをつけなきゃいけなかったんだ。
「仕方ない…明智君と同じように〝明智小五郎に育てられた〟花崎君が理想的だったんだけど…」
「待て!」
二十面相の言葉に嫌な予感しかしなくて、俺は叫んで立ち上がった。
「何かな?」
「俺が、今お前についていけば…他の皆には手を出さないか?」
素直に従うつもりなんてないけど、他の誰かにターゲットを変更されるは嫌だ。
俺みたいに馬鹿じゃないからこいつの思い通りに利用されなかったとしても、心の外装を薬で砕いた上で、柔らかく傷みやすいところを抉られて土足で踏みつけられるような、追い詰められ方をされる可能性はある。
あんな思い、絶対にあいつらにはさせない。
どの道、こいつのところに行こうとしていたんだから、俺は別に今連れていかれても問題ない。
むしろ逃がすより良い。
「花崎?」
二十面相に向き合う俺を、小林が訝しげに見てくる。
ごめん、小林は今のところ抉られる記憶もないし、そもそも捕まる心配もないから大丈夫だと思うけど、次に狙われる可能性が大きいのは井上だ。
脚のことから立ち直っているようでいて、完全には立ち直りきれていない。
折れない強さは持っているし、勝田との仲直りもして支えを取り戻しはしたが、それでも井上は割り切りが下手で悩むことが多いのだ。
「へえ?」
面白そうに笑う二十面相に、俺は小林を避けて一歩近づいた。
「あー!!! なんで二十面相がここに!?」
そこに場違いな叫び声が響いた。
「野呂!?」
「残念。ここまでのようだね」
驚いてピッポちゃんに視線を向けた隙に二十面相が走り出していた。
「待て!!」
慌てて追いかけたけど、タイミングを見計らって止まった車に二十面相は滑り込んだ。
車相手じゃワイヤーも意味がない。
逃がしてしまった。
「畜生!!」
遣り場のない苛立ちを拳で壁に叩きつけた。
俺の記憶にあった、唯一のチャンスを逃してしまった。
二十面相を殺すことより先に二十面相を捕まえることを優先していれば良かった。
捕まえて警察送りになっても、上層部と繋がってる二十面相は代役を立ててすぐに逃げてしまうだろうからとか余計なことを考える前に確実性を考えるべきだった。
「ちくしょう……」
悔しい。
自分の考えの足りなさが。
泣いたってどうにもならないのに、また涙が溢れてくる。
そんな俺の肩にピッポちゃんが止まった。
「花崎、井上すぐそこまで来てるから…」
野呂が気遣うような声でそう言ってくる。
「でも…」
もう戻るつもりが無かったとは言え、あんな出て行き方をした上に二十面相にも逃げられた俺が、あそこに戻るのは許されない気がした。
「でもじゃなーい! いいから、花崎戻んないと戻らないコバちん連れて戻る!!」
「いてっ! やめっ! 野呂!! 戻る! 戻るから!!」
俺がすぐ頷かなかったのでピッポちゃんに攻撃された。
加減もできるお利口なピッポちゃんからの攻撃とは言え、地味に痛いから本当にやめてほしい。
「小林、とりあえず…あれだ。事務所に戻るから、一緒に帰ろうぜ」
「わかった」
俺の言葉にあっさり頷いて、小林は歩き出した。
既に未来のルートは変わってしまった。
ここまで来たら俺の知ってる情報渡してみんなに考えてもらったほうがいいかも知れない。
今じゃないとは言え裏切ったなんて皆に知られたくないし、未来の記憶があるなんて言ったら変な目で見られるかもしれないけど。
でも、この記憶が正しいと思い込んで行動したら、二十面相が現れるまでは確かに間違えてなかった。
俺が本気だってわかれば、多分みんな真面目に考えてくれるだろうから。
馬鹿な俺が一人で悩むより、きっといい案が出るだろう。
そういえば蕗屋の事件があっても、この記憶がまだ使えるなら小林が怪我をすることはなくなるかも知れない。
そう考えたら、なんか少し、軽くなった気がした。
「早く乗れ」
車まで行くと、井上に促される。
普通に言われるの、やっぱり嬉しいよな。
事務所に戻って、〝覚えている〟限りで話した。
未来の記憶があるとか、頭おかしくなったと思われそうだけど、事務所での出来事や二十面相の件があったからか、割と固い井上すらも馬鹿にせずにきちんと聞いてくれた。
ただ、馬鹿にはされなかったし皆最初からきちんと考えてくれたけど、話の流れで二十面相を殺そうとしていたことがバレてすごい怒られた。
ついでに考えが浅はかだなんだと、話の信憑性じゃない部分でかなり馬鹿にされた。
その通りなんだけどさ…。
明智さんは悩んでるみたいだったけど、明智さんがいなくなる危険性も伝えたので、簡単に少年探偵団の解散とかは言い出さないだろう。
中村さんの件はどう決着をつけるのかわからないけど、宮西さんはこれで死なないで済むと思う。
あとは、小林がしつこく聞いてきたので、俺が聞かされた小林が死ねる方法を教えた。
教えられた小林は疑わしい目で見てきた。
だから教えてもしょうがないって言ったじゃん。
でも、野呂と井上は信じた。
「生きたいと思えば死ねるとは、また面倒だな」
「でもそう言ってた。あ、そういえば小林が両親と住んでた家も分かっから、行きたいなら教えるぞ」
「別にいらねえ」
小林に言えば、全く興味がないように否定されてしまった。
まあ、あの時も頭痛があったから行きたいって言って、治ったら行かなくて良いっていったしな。
記憶が無いから、思い入れも何もないんだろう。
でもそのうち連れて行こうとは思う。
俺がそんなことを考えている間に、井上達の話は進んでいく。
「しかし、花崎と一緒にいるときにしか怪我をしていないということは、死にたいという思いすら忘れる程に花崎といるのが楽しかったということか」
「コバちんがそんなに花崎大好きだったとはねー。まあ、じゃなきゃ眠いって言ってたのに花崎追いかけたりしないよねー」
コバちん本能に忠実ってる自由人だもんねー。と野呂が笑えば、小林が身を揺らした。
恥ずかしかったみたいだ。
「誰が! 僕がコイツを追いかけるのはコイツが僕の死ねる方法を探すって言ったからだ! そのまま逃げられたら約束が違うだろ!!」
「だからそこで、死ぬことよりも花崎に殺されることを優先する辺りが、小林が花崎を気に入っているということだろう?」
「別に優先とかしてない…」
井上が首を傾げながら小林に問えば、小林は途端に大人しくなり奥歯に物が挟まったように細々と言い訳をする。
「してんじゃん! アケちんの逃がすな命令は無視したのに、花崎追いかけて出てったじゃん!!」
「逃げたから追いかけただけだ」
「それに花崎の言う通りなら、花崎といるのが楽しいから力弱くなるんでしょー?」
その件については、俺といる時に2回怪我をしているので小林も否定要素を持たない。
何とか言い訳しようとしているのか慌てたように口をパクパクと動かしている。
「それは…! コイツが僕を殺すっていう期待からだ!!」
「期待!? コバちんが期待!? ほうほうそうですかー」
小林が野呂に口で勝てるはずがない。
何を言っても揚げ足を取られて、小林は完全に拗ねてしまっている。
「花崎」
野呂と小林が言い合っている間に、井上が俺に声をかけてきた。
「なに?」
「お前がその〝記憶〟とやらの中で一時的にでも二十面相についたのはわかった。だが、その記憶があろうと〝お前は〟俺たちを裏切っていないからな」
「井上……」
「だから、自分を否定したり、追い詰めたりするな」
「そうそう、むしろその記憶のおかげで先手打てるかもだしね!」
小林を揶揄いながらも、全体を把握する野呂も井上に続いてそんなことを言ってくれた。
「サンキュ…」
ふたりの言葉が嬉しかった。
確かに野呂の言う通りあの記憶は役にも立つ。
俺もあの記憶のおかげで皆を裏切らずに済んでる。
あの記憶がある以上、難しそうだけど、少しだけ自分を許してみようと思った。
頷いたところで視線を感じて目をやれば、井上と野呂に放置された形になった小林が俺のことを見ていた。
「何?」
「僕がお前を気に入ってるとかどうでもいい。つまりお前といりゃ死ねるんだろ」
「まあ、たぶん?」
別に俺と一緒じゃなくても楽しければいいんだと思うけど、小林の中で俺が殺すっていうのは結構大事な部分らしいから頷くしかない。
「ならもう僕を置いていこうとすんなよ」
さっき置いて行ったことを根に持たれたかな…。
しかしこのセリフは正直、突き刺さるな。
〝前〟に小林に殴られて、泣きながら同じようなことを言わせてしまったから。
最初は殴られたっていうか、触れたことにかなり驚いたけど。
「もう置いてかねーから……たぶん」
置いていくつもりはねーけど、確約できるかと言われたらちょっと不安だ。
その思いが口に出ていたのか、つい、余計な一言を付けてしまった。
「たぶんてなんだ」
当然、小林は不満そうだ。
小林は俺に不信感を抱いてしまった。
その所為で、小林に教えずに休むと電話が入るどころか、下手すれば俺の行き先まで追いかけてくるようになった。
うっかり放置して出るなり返信するなりしないと履歴がどんどん小林で埋まっていく。
あれ、あの事件起こしてないし、俺ちゃんと事務所に顔出してるのに、なんかこれだけ〝前〟と変わらない気がする……。

 

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