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24 January

幸運の証

見つけると幸せになれるかもしれない





「お、いーもんめーっけ!」
前を歩いていた花崎が突然かがんだと思うと、ソレを手にして小林に差し出してきた。
「これ小林にやるよ」
楽しそうに笑いながら差し出されたソレは、小林にとっては何故敢えて渡されるのかも不明なものだった。
「要らねえよ」
だからそう答えた。
それでも押し付けようとしてくるから、無視しようとして一歩踏み出したら、花崎の手よりも近い位置にあったそれは靄によって散り散りになった。
意図していなかった破壊に小林は慌てた。
「あっちゃー。勿体ねーなー」
だがそう言いながらも、花崎は肩を竦めただけだった。
やはり大したものでは無かったのだと小林は気が抜けた。

それの意味を知ったのは、山根が喜びながらソレを手にして事務所に来た時だ。
幸運の象徴なのだと言っていた。
そんなもの見つけた程度で幸運になれる筈が無いと呆れたが、花崎の手にあったそれを散らしてしまったのを思い出した。
あの後、花崎は来なくなったし誘拐されたし二度と見たくない顔で泣いたし、死にたいなんて言った。
あれで小林が与えられようとしていた幸運を拒絶して壊してしまったのだとしたら。
花崎の幸運を壊してしまったのだとしたら。
そんなはずはないと思いながらも、小林は思わず立ち上がった。
「小林さん?」
「出かけてくる」
声をかけてくる山根にそれだけ言ってエレベーターに向かう。
「え?」
「おい、待て!!」
突然の行動に驚いたのは山根だけではない。
井上からも声がかかるが、小林は無視して走り出した。

花崎がソレを見つけた土手までくる。
似たような葉が群生している一帯を見つけて小林は座り込んだ。
面倒臭いが一つ一つ確認するように葉の上を擦っていく。
花崎はあんなに簡単に見つけたというのに、なかなか見つからない。
出た時間が早くなかったこともあって、すぐに日が暮れた。
それでも帰る気にはならず、バッジのライトをつけて作業を再開する。

空腹も忘れて手を動かす。
似たようなものは沢山ある。
でも沢山の中の特別な一つはなかなか見つからない。
だからこそ幸運の象徴なのかもしれない。
そうだとしても、諦める訳にはいかない。
なので探し続ける。
見つけたと思う度、ただ葉が重なっているだけだった。
不服に思うが、すぐに気持ちを切り替えて探す作業に戻る。

「小林」
声をかけられて顔をあげると、花崎がいた。
制服姿だ。
今日は登校日で、事務所には来ない筈だった。
「いきなり出てって、ご飯の時間になっても帰ってこないからって皆心配してたぞ」
それでもこの場に来たのは、恐らく小林が帰らないと連絡を受けたからだろう。
小林の対応をするのは基本花崎か山根だ。
だが、理由もなく小林の意思を圧して動かせるのは花崎だけだ。
その花崎がこの場に来たということは、帰れということだろう。
GPSで探せば居場所はすぐに判明するのに、態々迎えに来たのか、と小林はライトを消して立ち上がった。
「何してたの?」
問う花崎に、小林は握った手を差し出す。
「やる」
「やるって……」
「良いから、手、出せよ」
首を傾げる花崎にそう伝えれば、花崎は素直に手を差し出した。
その上で小林は手を開く。
ひらひらと、不規則に動きながらそれは落ちていく。
「おっと!」
花崎の手を逸れそうになったソレを花崎は慌てて捕まえた。
暗くて色は分からないが、形でそれが何なのかは花崎にもわかった。
「これ探してたの?」
花崎が問えば、小林は顔の動きで肯定した。
「これ持ってりゃいいことあんだろ?」
「そう言われてっけど……でも頑張って探したのに俺が貰っちゃっていいの?」
「お前にやるために探したんだ」
そう小林が言えば、花崎は驚いたように目を見開いた。
「一個しか見つかんなかったけどな」
本当は、沢山落ち込むようになった花崎の落ち込む分だけ用意したかったが、結局一つしか見つけることが出来なかった。
沢山幸せを用意しておけば、ずっと笑っていると思ったのに。
「………サンキュー」
一つしか見つからなかったならやはり小林が持つべきなのでは、と言いかけて、花崎に渡すために探したと言われたのを思い出して、花崎は礼を言う事にする。
「スッゲー嬉しい」
小林が、花崎の為に何時間もかけて探してくれた贈り物だ。
たった一つの草花であっても嬉しくない筈が無い。
その気持ちを前面に押し出すように笑えば、小林も満足そうに頷いた。
「今度俺も、小林の分見つけてやっからな!」
大事にハンカチに挟んでポケットにしまいながら花崎が言えば、小林は首を振る。
「要らねー」
「えー! なんでー!?」
意味を知って必死に探してくれたのだから、意味が無いと思っているとは花崎は思わない。
なのに何故即答で要らないと言われてしまったのか。
「いっぱいある中の特別な1個なら、もうあるから要らねー」
小林の人生に訪れた幸運の花は、既に手元にある。
自分の物かと言われたら分からないが、傍にあるだけで十分に幸せを感じている。
そもそも幸せというものを知ったのすら、そのおかげだ。
この先どんな幸運があろうと、これ以上の幸運はありえないと小林は思っている。
だから、他の幸運の象徴など不要なのである。
「もうもってんの?」
花崎は首を傾げつつ、今回見つけたのは1つだけだけだが、実は小林の分は既に持っていた可能性に行きついた。
もうあるというなら、探しても喜んでもらえないかも知れないと判断した花崎は、では、と思考を切り替える。
「じゃあ、お礼に今日は俺が飯奢ってやるよ!! 何食いてえ?」
「ハンバーガー」
何が食べたいと聞かれると、色々あるが明確に名称が分かるものは小林には少なかった。
なので、まず間違いないであろうものをあげる。
「よっし! じゃあスペシャルなバーガーが食える店で奢ってやるよ!!」
そう笑いながら言って、花崎は歩き出した。
その後に小林も続く。
花崎に会えて、花崎が笑って、更にはスペシャルなハンバーガーを奢ってくれるという。
幸運の象徴の効果は、思ったより凄いと小林は思った。






こぼれ話

「コバちんコバちん、花言葉って知っててる?」
「なんだそれ?」
花言葉、という言葉自体小林には分らない。
「コバちんが花崎にあげたアレ、幸運の象徴以外にも意味があるんですなー」
「意味?」
「あんの?」
野呂の言葉に、花崎までも首を傾げる。
「『私のものになって』ってねー。ねっつれつな告白~」
揶揄う素振りを隠そうともしないニヤついた声で野呂が言う。
確かに知っていてやったというなら、告白かも知れない。
「なーに言ってんだよ野呂。小林がそんなん知る訳ねーじゃん」
だが、貰った側の花崎は照れるでも困惑するでもなく、苦笑してさらりと流す。
「だーよねー」
花崎の反応に、野呂も似たような声で答えた。
「あれやったら、花崎は僕のになんのか?」
が、小林だけが違う反応を見せた。
「へ?」
「え?」
花崎と野呂は驚きと困惑に、それ以上の声をあげられなくなった。



あとがき


ちゃんとあの後、花崎が井上達に小林を無事確保した連絡を入れてます。
たぶん貰った四つ葉はしおりとかにしてると思います。
なお、何でかわからんのですが、何故かあとがきのココに来るまで
一度も四つ葉という単語を出さずに終わりました。
四つ葉は世界的に見てもお守りとかに使われてたりするので
敢えて単語にしなくても伝ってくれるといいなーと思う次第であります。
こぼれ話は入れると収拾がつかなくてカットした部分です。
他に使い回しもききそうにないので載せちゃいました!

花言葉、意図的に一つぬきました。
復讐の部分。
「幸運」と「復讐」と「私のものになって」
という意味を持つ四つ葉は、正直小林よりも二十面相君に凄く合うと思っています。
明智君に贈らせたいですね。

 

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