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24 August

小林がアパート暮らしする話(パラレル)

小林に古アパートで一人暮らしさせたかっただけの話。
年齢は大学生くらいで、花崎とは幼馴染。
単発シリーズで時々思いつく話を書いていく感じにしたいです。










小林は1限しかなかった授業を終え、自宅としているアパートに帰る。
2018年の建築基準法改正以前どころか1998年の大改正以前に建てられた築40年以上の古アパート。
和室8畳、キッチン、バストイレ別。駅まで徒歩10分圏内。
家賃は築年数の影響もあって低い方で4万。
それが小林の家だ。

帰ったら鍵が開いていた。
あまり金銭が見込めない古い安アパートに空き巣が入るとも思えないが、小林は出かける際には鍵をかけるようにはしている。
なのに開いている。
しかし小林は焦るでもなく、呆れたように溜息を一つ吐いてドアを開けた。
部屋に入れば、万年床と化している小林の布団に膨らみがあった。
布団の中にいる存在には見当がついている。
こうして自分の空間で気を抜いて寝ている姿に嬉しいやら呆れるやらどう思えばいいのか悩むが、正直なところもう慣れた。
そして、こういう時の対処法は一つだ。
「起きろ」
そう言いながら蹴りを入れれば、芋虫のように動いて少し経つと上体を起こした。
「おはよーおかえりー」
欠伸をしながらそんな声をあげるのは、幼馴染の花崎だ。
「鍵くらいかけろ」
返事をするではなく小林はまず言いたかったことを口にする。
「俺中にいたし」
しかし花崎は反省した様子はない。
「寝てただろ」
部屋の中に人がいれば、確かにそれだけで防犯対策にはなる。
しかし寝ていては効果は半減以下だ。
「そーだけど」
花崎は不満そうにしつつも、正は小林にあるのでそれ以上文句を言わず顔を逸らした。
それを見て小林はまた一つ溜息を吐く。
もし空き巣が入ったとして、花崎が鉢合わせれば負けるとは思えない。
だが、万が一ということもある。
小林はこの安アパートをそこそこ気に入っているが、この部屋に無くなって困るものはない。
しかし、花崎がいるとなれば別だ。
絶対に誰にも盗られたくないし傷つけられたくない宝石があるようなものだ。
その状況での危険を少しでも減らしたいというのに、花崎は何時も鍵を開けたままにする。
自宅が鍵の開け閉めを必要としない家であるのもあるのだろうが、小林が帰ってきたときに〝誰かが迎えてくれるから鍵を開け閉めする必要がない〟状況を作りたいらしい。
小林にとっては有難迷惑だ。
全く嬉しくないとは言わないが。
「そういやさ、今日メロン持ってきたから一緒に食おうぜ!」
花崎がふと思い出したように視線を戻して、そんなことを口にする。
話を逸らした、というよりは単純に思い出しただけだろう。
コロコロと気になることが変わるのだ。
今はこれ以上念を押しても無駄だと判断して、小林は花崎の言うメロンを発見すべく視線を巡らせる。
だがメロンは見当たらない。
いや、蓋の開いた桐箱が一つ台所の上に置かれている。
「冷蔵庫か?」
「そう」
蓋が開いているということは箱から出したのだろうと判断して問えば、花崎は頷いた。
「今食うか?」
「その前になんか食いたい」
「何かってなんだよ」
「もうすぐ昼だし、小林作ってー」
「何で僕が?」
勝手に押し掛けてきた相手に、何故まだ自分の分すら用意していない昼食を振舞わなければならないのか。
「だって、この時間なら小林もこれから昼飯だろ?」
つまり作るついでに花崎の分も用意しろということだ。
確かに花崎の分だけ用意するよりは圧倒的に手間が減る。
手間が減るだけだが。
「前にお前が持ってきた素麺しかねーぞ」
しかし結局、花崎が望むなら小林は動いてしまうのだ。
ただ一応、一言言ってやりたかっただけなので、そう告げて小林は台所に向かった。
「やっりー」
喜ぶ花崎に呆れながら、とりあえず何か飲もうと冷蔵庫から麦茶を取り出す。
あまり中身がない冷蔵庫の空間を確かにメロンが占領しているなと思いながらコップに麦茶を注ぐ。
「あ、小林。俺にも!」
それを見て寝起きで喉の乾いていた花崎も手をあげる。
「お客様かよ」
「今日はメロンというお土産があるし、客様だろ」
にやりと花崎が笑えば、確かに桐箱入りメロンはなかなかの上客だと小林も納得した。
「ったく」
小林は麦茶をコップに注いで花崎に渡してやる。
「サンキュー」
一気に飲み干して、全身から力を抜くようにちゃぶ台に伸びる。
「はー。落ち着く―」
小林がこの家を借りるようになってから、花崎はやたら小林の家に転がり込むようになった。
花崎家は手入れも行き届いていて綺麗であり広いのだが、小林の家のような空間が落ち着くらしい。
小林がこのアパートを気に入ってる理由の半分がこれだ。
花崎が好むものは小林にとって良いものなのだ。
今はちゃぶ台扱いのこたつに冬場入った時には梃でも動かないと駄々をこねていた。
結局泊まっていったので、小林は少しでも花崎が長居するならと冬場は絶対に炬燵を出すことにした。
そして今は夏だが今日も今日とて花崎は小林の家に入り浸る。
「夏はやっぱりソーメンだよなー」
たっぷりゆでた筈の素麺は食欲旺盛な二人によってあっさり平らげられてしまった。
物足りないので、メロンは半分に割ってそれをそのままスプーンで食べることにした。
「このメロンうめーな」
一口食べて、小林は目を輝かせた。
「うん、確かにこれは美味い! よく冷えてるから暑いときにはまた格別だよなー」
花崎も美味しそうに次々と口に含む。
「で、今日は何しに来たんだ?」
食べながら小林は疑問に思っていたことを尋ねた。
小林が午前で授業を終えるのもあって仕事がある。
花崎も同じように1限しかない為、仕事が入っている筈である。
そこでふと気づいた。
「お前、学校は?」
「今日の1限が休講だったんだよ。だからちょうどいいなーと思ってメロン持ってきた」
「別に事務所でもいいだろ?」
態々足を運ぶ要件とも思えない。
「事務所に持ってったら分け前減るじゃん」
「お前んちならいくらでもあるだろ」
別に分け前が減ったところで花崎には大した痛手にはならない。
小林的には大きいが。
「そうだけど、それだと小林と食えねーじゃん」
「そうか、なら仕方ないな」
事務所だって分け前が減るだけで別に二人で食べることはできる。
できるが、二人で食べたいと言われてしかも分け前も増えるので小林はそれ以上言わなかった。
「今日は電車か?」
「うん。外アチーからさー。電車って冷房効いてていいよな」
花崎が小林の家に来る方法は大体3パターン。
バイクか電車か、何故か長距離走だ。
小林も免許はあるが普段は必要としないので、バイクも車も持っていない。
必要なら事務所のものを使う。もしくは自転車だ。
「なら事務所へも電車だな。食い終わったら出るか」
「えー! もう少し! もう少しだけゆっくりしたい!!」
「もう少しったって、たがかしれてるだろ」
食べかけのメロンを食べ終えて食器を片付ける時間を考えれば、長くてもせいぜい2、30分だ。
「だって小林ンち居心地いいんだもん」
それでもその微妙な時間を少しでも長く過ごしたいと花崎はごねる。
「またくればいいだろ」
小林としてはいくらでも来てくれて構わない。
「そうだけど!!」
それに対して、花崎も来る気満々である。
あるが、それとこれとは別なのだ。
「もういっそここに住みたい!!」
住めばいい、と小林は言いそうになったが、花崎のそれは本心であっても本当にそれが叶うとは思っていない。
言えば花崎が困ったように笑うだけだと、小林だってわかっている。
「お前が家に帰らないとメロンがうちに届かないだろ」
だから、家に帰らなければならない小林の利益を示して話を逸らした。
「あ、酷い小林! 俺よりメロンを取るんだ!!」
小林のフリに乗ったのか、本気交じりの冗談か今一つ分からない形で花崎が乗る。
「ならお前は、僕と炎天下の外と、冷房のそこそこ効いてるこの部屋、どっちを取るんだ?」
そんなわけがないだろう、と思いながら小林が問えば、嘆くふりをしていた花崎がぴたりと動きを止めて目を瞬かせた。
「………この部屋?」
暫くして、首をひねりながら花崎はそんな答えを出した。
「お前だって変わんねーじゃねーか!」
少々癪だったので、小林はまだ食べかけだった花崎のメロンを奪った。
「あー! それ俺の!!」
「土産だろ」
ならば全部食べても良い筈だ。
と、主張して小林はメロンをさっさと食べ切った。
「ヒデーよ小林……これから暑い外に出るのに冷たいメロン奪うなんて……」
「氷なら冷凍庫にあるぞ」
そうじゃない、と花崎が泣いたふりをするので、小林は仕方なしに麦茶をもう一杯恵んでやった。
機嫌が直った。
しかし結局花崎がごねるだけごねて、ギリギリの時間で部屋を出た。




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