忍者ブログ
19 May

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

23 October

可愛い

男女問わず恋人が可愛いと思う瞬間はあると思う






秋が深まり、空気が冷たくなる季節。
それでも日が出ていればそこそこの温かさがある。
「さっみぃ~!!」
が、日が暮れた途端、その温かさは余韻すら残さずに消えてしまう。
花崎は普段の行動から分かるように、筋肉質なので発熱性は高いが、それでも急激な気温差には体がついて行かない。
震えながら両手で体を抱きしめる花崎の横で、基本的に30㎝の快適空間が約束されている小林は平然としている。
寒さに負けて、花崎は自動販売機まで走った。
缶コーヒーを購入してまだ熱いそれを手に握ってほっと息を吐いた。
「あったけー」
温かさに表情を緩める花崎を見て、小林は面白くない気持ちが沸き起こった。
花崎の表情のせいだ。
花崎はいつも笑っているようでいて、心底安心したような、心の底から幸せが込み上げたような笑みを浮かべることは少ない。
滅多に見せないそれは、小林にとっては花崎を喜ばせられたことによって得られる特別な表情だ。
今のところ、小林以外に向けられたのを小林は見たことがない。
もちろん見てないだけかもしれないが、少なくとも少年探偵団にいて他のメンバーに向けられたことはない。
それが、小林の前とは言え、たかが缶コーヒー一本にその表情を引き出されたかと思えば、面白くないのも当然だろう。
つまり、花崎が寒いのがいけないのだ。
暖かければ缶コーヒーなど見向きもしない筈だと思った小林は、どうにかすぐにでも花崎を温める方法を考える。
一番早いのは建物に入るか、火の傍に行くことだが、それがあるならそもそも花崎も缶コーヒーなど買わなかっただろう。
ならどうすればいいのか。
そもそも花崎が年中同じような格好でいるのがいけないのだ。
他の人間よりは寒さに強く、且つ動きやすさを考慮している故であろうと、寒さを感じることがあるならもっと着るべきなのだ。
そこまで考えて、ようやく小林は自分の着る上着に気づいた。
小林の体のサイズには合っていない大きめなそれは、花崎が着ても十分な筈だ。
「花崎、これ着るか?」
「へ?」
理解していない花崎の前で、小林は上着を脱いで示す。
「え、でもそれ借りたら小林が寒いじゃん……」
「僕が寒いわけねーだろ」
花崎の言葉に呆れたように言いながら、問答が面倒くさいのでさっさと渡してしまおうと小林は上着を投げた。
溶鉱炉の熱すら遮断する小林の靄の効果を思い出したのだろう。
それを小林に返そうとはせず、花崎はありがたく受け取ることにした。
「サンキュー!」
礼を言って着て、安易に袖を通したことに花崎は後悔した。
着なければ良かったとは思わない。
だが、もっと覚悟を持って着るべきだった、と。
小林が着ていたそれは、当然小林の体温が残っている。
初めて小林の温もりで体を包まれた上に、小林の匂いがする。
アルミ板でやり取りした体温など、稚拙と言わざるを得ない程の、直接的な温もり。
こんな方法もあったのかと、考える余裕もなく花崎の内面は沸き立っていた。
(え、なにこれスゲー恥ずかしい!!)
全身が沸騰しそうなほど熱い。
「こ、小林!」
それでも、暑くても、脱いで返す気にはなれなくて。
叫びたくなりそうな衝動をなんとか抑えて、花崎は声を絞り出す。
「お礼に後で肉まんおごってやるからな!!」
「おう」
頷いた小林だが、花崎が顔を逸らしているのに気づいた。
「花崎?」
覗き込もうとして、更に逸らされる。
「おい、どうした!」
何かあったのかと、叫ぶように問えば、観念した花崎が目線を送れる程度に僅かに小林のほうを向く。
「その……」
向けられた顔に、小林は見覚えがあった。
嬉しいという意味を持った〝恥ずかしい〟時の顔だ。
これは緩んだ表情以上に珍しいものだ。
この顔をしたときはいつも顔を隠すようにしてしまうが、今は外なので丸まることも出来ないらしく、しっかりと見ることができる。
「俺ぜってー今変な顔してっからあんま見んな」
小林の上着の袖で面積の広くなった片手で顔を覆いながら、もう片手で小林との距離を取るように離れる。
「見せろ」
実際、花崎が手を伸ばした分だけ距離を取らなければならないので、小林は一歩下がって、しかし引き下がることなく位置を移動して顔を覗きこもうとする。
「見んなって言ってんのになんでそうなんだよ!!」
「いいから見せろ!!」
逸らせばそらす分だけ、小林も動く。
「あんま意地悪言うなよ! 小林には変なとこあんま見せたくねーんだって!」
「意地悪なんて言ってねーだろ! 僕はお前の顔が見たいだけだ!!」
「だからそれが……」
思わず言い返そうと向いてしまい、再び慌てて花崎は顔を逸らす。
「変な顔なんてしてねーじゃねーか」
一瞬だけ見えた花崎の顔に小林が呟けば、花崎は顔を逸らすのをやめた。
「ほんとに?」
「っ…」
袖から顔を覗かせるように花崎が心配そうに尋ねれば、小林は思わず言葉を止めた。
「やっぱり変なんじゃん!!」
その態度に再び花崎は顔を隠そうとする。
「変じゃない!! ただ…」
「ただなんだよ…」
慌てて否定する小林だが、上手く言葉にできなくて頭を抱える。
その様子を見て、どう考えても良いものに対する反応ではないと花崎は思うのだが、小林が必死に言葉を探しているのはわかるので、待つ事にする。
出来ることなら格好良いと言ってもらいたいものだが、流石にそれはないだろう。
せめて馬鹿面と言われないことを願うばかりだ。
「なんて言やイイのかわかんねー!! けど、その顔は好きだ!」
さんざん悩んだ小林は、しかし答えを見つけられず盛大に舌打ちをした後、叫ぶようにそう告げた。
「へっ?」
「もっと見たい」
数瞬、理解できなかった花崎に小林の言葉が追い打ちをかける。
「おまっ、いきなりそういう事言うのやめろって前に言っただろ!!」
言って、花崎は再び顔を逸らしてしまう。
「仕方ねーだろ! そう思った時に言ってんだから、お前がそんな顔すんのが悪い!!」
「人の所為にすんな!」
そう言われても、そもそもいきなりと言うなら花崎こそが不意打ちで小林の心臓を叩いてくるではないかと、小林は思う。
「なら…言うからな!!」
「は?」
「好きだ!!」
言うって何? と、花崎が顔を上げたところに小林の告白が飛んできた。
「なっ!」
「イキナリじゃなかっただろ」
「そ、そういう意味じゃねえよ!!!!」
ただでさえ緩くなっていた花崎の心はその衝撃に耐え切れない。
両手を使って顔を覆ってしまった。
花崎にとっては幸いなことに、小林の上着の袖は広い。
顔を隠し切るには十分だった。
「じゃあどういう意味だよ」
「こう、言いそうな雰囲気とかあんじゃん!!」
完全に隠されたことに舌打ちしながらも小林が問えば、袖の向こう側から花崎の言葉が返る。
「んだよそれ。んなの分かるか」
だが、返された答えはあやふやな物で、小林には納得しがたい。
「とにかく、全くそういう素振りなかったのに言うのは全部いきなりになんの!! 申告すらもいきなりなの!!」
それでも花崎はダメだと叫ぶ。
「じゃあお前がその雰囲気なりなんなり作れよ!」
花崎の訴えに、むすっとしながらも妥協案を小林が口にすれば、花崎はぴたりと言葉を止めた。
「………………無理」
暫くの無言の後、返ってきた答えはそれだった。
「はあ?」
なんだそれは、と小林が言う間も無く、花崎は走り出した。
「もう小林言ったし、それでいいじゃん!! さっさと帰るぞ!!」
「待てよ!」
慌てて追いかけるが、いくら体力がついた小林でも先に走り出した花崎に追いつけるはずもない。
結局事務所まで全力疾走する羽目になり、着いた時には疲れきっていて小林は先程話していた内容のことなどすっかり忘れてしまった。

「花崎が喜んだり恥ずかしがったりした時の顔見てムズムズすんのは何なんだ? 好きなのは分かる。けど、そう言うと花崎が怒る」
もしかしたら怒らせない、正しい言葉があるのではないか、と、花崎が学校の為に行動を共にしている野呂に小林は聞いてみることにした。
「喜んだり恥ずかしがったりねー」
嬉しいだろうか、と野呂は考えるが、それなら流石に小林ももう自覚しているだろうからそれとは違うのだろうとも思う。
「割といつもそんな気がしてる気もするけど、なんか特にそうなる時がある」
続いた小林の言葉に、野呂は、ああ、と納得した。
「こばちーん、そういうのは〝可愛い〟って言えばいいんだよー」
「かわいい?」
「そっ」
「それは動物とかガキとか女に言う言葉じゃないのか?」
小林の認識では、少なくとも同年代の男に使う言葉ではなかなった。
中村に可愛いと言われたことはあるが、あれは大人の中村が年の離れた小林に使ったのだから、男に使ったとは認識しづらい。
「そういうことが多いってだけで、別に決まってないし」
「ふーん」
ならこれはやはり野呂の言うとおり可愛いなのかもしれない。
と、小林はまた一つ知識を得た。
「昨日約束したお礼」
と、肉まんを持ってきた花崎に早速使ってみたところ、大変不機嫌になり、野呂に苦情を言いに行ったが言い負かされて帰ってきた。
「小林、可愛いとか男に使う言葉じゃねえから!!」
「別に男でもいいだろ」
野呂に言い負かされたとは言え、小林を説得すればいいと判断した花崎は小林に言って聞かせるが、しっくり来ていた小林は改めるつもりはない。
「よくねーよ!」
だが、花崎だって譲るつもりはない。
これが、雄一郎や晴彦に言われるなら構わない。
だが小林は駄目だ。
男のプライドとして、誰よりも小林には格好良いところを見せたいのだ。
情けない姿ばかり見せた記憶がないでもないが、それでもやはり好きな相手だからこそ醜態は見せたくないし、格好良いと思われたい。
だというのに、可愛いと思われるなど心外である。
「小林だって可愛いとか言われたらやだろ?」
「別に、それがお前が僕を好きなところだって言うなら好きにしろよ」
だが、小さいことに拘らない男らしい小林の言葉に負けてしまった。
「なんで小林…そんな、どこまでもカッコイイんだよぉ!」
悔しくて、でもより好きになってしまうから堪らない。
「もうこれ以上ないくらい好きだと思ってたのに、何でますます好きにさせんの?」
いっそ泣きそうになりながら小林に訴えれば、その表情と言葉の〝可愛さ〟に負けた小林は真っ赤になった。
「お、お前だってそうだろ!!」
「あ、可愛い…」
慌てたように真っ赤なまま小林が言えば、それを見て花崎も男相手に使う〝可愛さ〟を理解できてしまった。






あとがき



これを書きたくて、小林が上着を貸す『雨』の話をコバ花にしなかったんです実は。
寒くなったら、上着で相手のぬくもり♥とかやりたかったんです。
やりたかったはずなのに、何故か、脳内キャラの思うままに走らせたら
予定とは全く違う方向に進んだ気しかしません。
ぬくもりにテレテレするシーンなんてあっという間に流れ去って行きましたね。
おかしい……。
でも言い合いというか掛け合いというかは書いていて楽しかったです。
なんか口論してるとイチャイチャしてる気がしてとても楽しかったです。
イチャイチャっていいですね。
イチャイチャ欲しいですね。
なんでこの子達触れないんでしょう。
触れたら、花崎の手を掴んで顔を覗き込むとか出来たのに!!
いや、触れない状況でどれだけイチャイチャできるか考えようとかした結果の
このシリーズなのでどうにもならないといえばどうにもならないんですけど。
触れたらシリーズの根幹が!!
ああ、でも触ってイチャイチャして欲しい。
ギュってしたり、ちょっと戸惑うように触ったり、あまつさえちょっとチュッてしたりして欲しい。
欲望が……すみません、自分でもわかってるんですけど、
元々変人がコバ花不足の禁断症状患って余計に変になってるだけなので
さらりと流していただけるとありがたいです。
しかしてこんな内容にここまでお付き合い下さった貴方が神か!
ありがとうございます。
ちょっと冬コミ(受かれば)の原稿と、秋の行楽季節の旅行が立て込んでるので
更新は本当にまちまちになると思いますが今後もトリスタは書いていきたいと思いますので
よろしければまたお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは失礼いたします。

そう言えば、缶コーヒーの行く末も考えていたのに話の流れ的にただ小林の嫉妬を引き出す為のアイテムと化してしまいました…。
無念。

 

拍手

PR