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07 July

七夕

少年探偵団でイベントごとやって欲しい



事務所に無駄なものを持ち込むのは大体花崎だ。
今日も一つ、無駄に大きなそれを持ち込んだ。
正確には持ち込み切れずに事務所の前に置いたらしい。
「笹持ってきてやったぞー!」
だが、持ってきたことは発言からわかった。
「頼んでいない」
流石に今日という日なら井上にだってそれの意図するところは分かるので、何故とは聞かない。
「そう言うなって。皆で七夕しようぜ!」
井上がキッパリと言うも、花崎は意に介さず、手に持っていた大きな袋を机に置いた。
「たなばた……」
小林も流石に七夕は知っている。
祭などがあって、普段は人が殆どいない夜の神社やその周辺の道に人が溢れたりするので、少年探偵団に来る前は面倒臭いイベントの一つであった。
ただし、食べ残しや売れ残りの廃棄等も出るので、そういう意味では有難くもあった。
今は、無理に人混みを歩く必要もなく、事務所には大体食べ物があり、時々花崎が差し入れを持ってくる他、給料を支払われて自分で買うことも出来るので、どうでもいいと言えばどうでもいい。
だが、花崎が楽しそうにしているので、少しだけ興味を持つ。
大体下らない事ばかりだが、それを小林が楽しいと感じることも無くはないからだ。
何より花崎が楽しそうだとそれだけで謎の安心感がある。
井上などは嫌な予感も半分位するらしいが。
小林が寝転がっているので、花崎は対面する一人掛けの椅子に座り、机に荷物を広げる。
「これ短冊な。これに願い事を書いて笹に吊るすと叶う。かも知れないんだって」
「これでか?」
小林は手を伸ばして紙を持ち上げて胡散臭そうに視線を送る。
どう見てもただの紙だ。
こんな紙切れ1枚で願い事が叶うなら小林はとっくに死ねている。
「物は試しっていうじゃん」
「そうか」
確かに、疑わしかろうとなんだろうと死ねる可能性があれば小林は何だって試してきた。
ならば、と起き上がりペンを手にするが、そこで花崎がふと気づいたように声をかける。
「あ、流石に『死にたい』は駄目だぞ」
その言葉に、ぴたりと小林は手を止めて花崎を睨む。
「んでだよ」
小林にそれ以外の願い事など思い浮かばない。
「ンな殺伐とした短冊あったらコエーじゃん」
別に小林は自分以外にそんな短冊があっても気にならない。
だからどこが怖いのかもさっぱりわからない。
だがとりあえずダメだと言われたのでそれを書くのは諦める。
途端に書く事もなくなった。
「他にないぞ」
以前程強迫観念に囚われていないので、今のところ叶わなくても問題はないが、それでも小林の願いと言えばそれである。
「えー、何かあんだろー? ハンバーガーとピザの食べ放題したいとかそういうんでもいいし」
花崎の言葉に、成程、それなら確かに願い事はあるかもしれないと考える。
とりあえず花崎の上げた例に倣って食べたいものを書くことにする。
それを見て安心したように肩の力を抜いて、花崎もペンを手にとった。
「俺はどうしようかなー。去年までは晴兄が見つかりますようにだったけど見つかったしなー…んじゃ次は明智さんが見つかりますようにかなぁ…?」
俺っていつも誰か探してんの? と花崎は自分でツッコんで苦笑する。
「1枚しか駄目なのか?」
食べたいものは色々ある。1枚では書ききれない小林が言えば、短冊の束が入った箱を指される。
「ん、別に何枚書いてもいいよ。短冊まだいっぱいあるし」
「そうか」
何枚書いてもいい、と言われたので小林は箱から数枚取り出した。
食に対する欲はかなり大きいらしい。
花崎は一枚目を書き終わると井上を振り返った。
「井上も書こうぜー」
「俺は忙しい」
「そう言うなって。今日はもう依頼無いんだろ? 勝田からの短冊も預かってっし」
「態々書かせたのか?」
勝田の名前に再び井上が反応する。
眉を顰めた井上に、花崎は預かってきた複数枚の短冊を見せる。
「一ヶ月くらい前に勝田の家に家族分とまとめて短冊置いてきて書いてもらった」
んで今日貰ってきた、と花崎は笑う。
勝田の家族で明智探偵事務所まで来るのは大変なので、飾り付けた笹を後で写真に撮って送る約束もしているという。
ひと月以上前から計画していたのか、と井上は呆れるが勝田の迷惑になってはいなさそうなので良しとする。
井上も何だかんだ参加してくれるだろうと、花崎は短冊を数枚取ると立ち上がって井上の机まで持ってきた。
「だから頼んでないぞ」
呆れる様に溜息を溢す井上に、花崎はにやりと笑う。
「えー。勝田は井上の為に短冊書いてくれたんだし、井上も書こーぜ?」
「かっちゃんが……」
勝田が書いた短冊に井上の為の願い事があったと聞かされて、それでもやらないと突っぱねられるほど井上は薄情ではない。
たかが短冊とはいえ、忙しい合間に書いてくれたのだ。無下にはできない。
もう一つため息をこぼして、井上は渋々短冊を受け取った。
井上が短冊を書き始めるとエレベーターが動く。
一度手を止めるが、チャイムは鳴っていないのでメンバーの誰かだろうと判断して、井上は再び手を動かし始めた。
「お待たせしました」
「花崎に呼ばれてきてあげたよー」
現れたのは大友と山根だ。
ここで呼ばれただけの二人に呼んでないと返すようなことを井上は流石にしない。
二人の前で、強行してでもやるつもりだったなと花崎を責める程冷酷でもない。
「お、待ってたぜー!」
花崎は待ちきれないとばかりにエレベーターまで駆けていった。
「花崎の言ってたのは外のあれで間違いない?」
「そ。外から屋上にあげられそう?」
「ワイヤーの巻取り装置いくつか持ってきてあげたから何とかなるでしょ」
そう言って、大友が山根に視線を向ければ、山根は持っていた箱を花崎に渡した。
「よっしゃ! さっすが大友ー!! 頼りになるぅ―!!」
「笹ですから3つくらいで足りるとは思いますが、念のために7つほど持ってきました」
「山根は慎重で気づかい上手だな! サンキュー!」
礼を言って早速山根から箱を受け取ると、二人が降りたばかりのエレベーターに乗り込む。
「短冊と折り紙そこにあっから、短冊書いたら飾り作ってー」
ドアを閉めながら、そう説明して花崎は屋上へ登っていった。
「相変わらず慌ただしいねえ」
大友は肩を竦めると、花崎に言われた通り机に向かい、短冊を手にとった。
そして目の前の小林が何枚も消費していることに気づく。
それでも無くならないだけの量の短冊があるが。
「オチビちゃん何そんなに書いてるの?」
「食いたいもん」
「成程」
確かに食べ物の名前ばかりだ。
小林の一番の願いは少年探偵団全員が知っているが、それを書かないのはおそらく花崎にダメ出しされたのだろうと大友は予想して、それを素直に聞き入れる小林に苦笑した。
「それじゃ俺も書くとしますか」
「あ、大友先輩、僕にも短冊下さい」
小林の近くににあった為、その隣に座った山根からは若干遠い上に、小林の30センチに入って手を伸ばすわけにも行かない。
「仕方ないねー」
一人がけに座った大友は、こんなことでいじめても仕方ないので素直に箱を机の真ん中に置いてやった。

短冊を書き終わって、短冊を手にした時点で拒否を諦めた井上も交えて皆で七夕飾り作りをしていると、エレベーターが動いた。
「屋上に笹あげたぞー!」
そう声を上げながら楽しそうに戻ってきた花崎に、井上が額を押さえる。
「事務所を上り下りするときはエレベーターを使え」
事務所前に置かれた笹を屋上に上げるためには屋上に設置したワイヤーを、一度笹に括り付けて、さらに引き上げるという作業がある。
少なくとも1往復はする必要があるのだ。
だが、花崎は一度もエレベーターを使わずに笹を屋上に上げた。
つまり外側を通ったということだ。
今更花崎が危険だとは思わないが、通行人に変な目で見られたらどうするんだと井上は頭痛を覚えずにはいられない。
「えー。ワイヤーで降りた方がぜってーはえーし」
だが花崎に反省した様子は一切ない。
テンションが上がってるときに何を言ってものらりくらりとかわされるだけなので後できっちり説教しようと心に決める。
そして諦めたように再び飾り付けの作成に戻った。
「書いたぞ」
戻ってきた花崎に、小林は書きあがった短冊の束を見せる。
「お、じゃあ短冊にこうやって紐付けて…って、小林の短冊、願い事じゃなくてもう食べ物の名前じゃん!」
内一枚を取り、紐の付け方を見せようとしたが、複数枚書かれた小林の短冊は見える数枚全てが食べ物の名前だけが書かれたものだったので、思わず花崎はツッコミを入れる。
「お前がそれでいいって言ったんだろ」
「いや、良いんだけどさ、せめて食べたいとかまで書こうぜ」
「めんどくせえ」
「まあいいけどさー…んじゃ、これと同じように短冊の穴に紐通してな」
言いながらも、小林に見えやすいように紐を通して見せて、そのまま見本として置く。
「分かった」
覚えようとすれば、すぐに覚えられる小林は頷いて、短冊に紐を通し始めた。
「花崎先輩、いくつか飾りも出来ましたよ」
「おーどれどれー。うおっ!? 何これどうやって作んの?」
山根に言われて飾りの入った箱を見れば、折り紙で作ったのはわかるがどうやったら作れるのかわからない飾りが入っていて花崎は驚く。
「綿密な計算のもとに折ってー、こうやってこことこことここに鋏を入れると出来るのさ」
「すげー! もうただの折り紙とは思えねー!!」
目の前で大友が図面も何もなしに折って切っただけでできたそれに花崎は歓声を上げる。
「でっしょー?」
「ちょっとー! ピッポちゃんが嘴と足で織り上げた芸術的な飾りも忘れないでよね!」
短冊を持って野呂のもとに戻っていたピッポが戻っていたことをそこで漸く認識する。
「あ、ピッポちゃん戻ってたのか」
「野呂ちんの短冊は井上が持ってるから」
預けられた短冊の行き先を野呂が教える間に、ピッポが嘴で七夕飾りを一つ完成させた。
「了解了解。って、ピッポちゃんも本当に器用だな!?」
「でっしょ~! ピッポちゃんイケメンでなんでもできるからぁ~」
えっへんと、姿は見えないが野呂は胸を張った。
短冊も書き終わり、飾りもかなりできたので皆で屋上に移動した。
「野呂ちんの分は高いところに飾ってよねー」
「へいへい」
まだ笹は横倒しになっているので、上の方でも危なくなく取り付けられる。
「山根は身長が伸びますようにねー」
大友は括り付け用と手にとった短冊を見て笑う。
「い、いけませんか?」
「いやいや、良いと思うよー?」
「山根君はまだ中学二年生なんだからこれから伸びるだろう」
「井上先輩!」
見られて恥ずかしがる山根だが、大友にからかわれる日常的な内容より重要度の高い井上の言葉に頬を染めて目を輝かせる。
「ほーら、憧れの井上先輩に言葉が貰えて嬉しいのはわかるけど、手は止めなーい」
「大友先輩のせいじゃないですか!」
言いながらも素直に山根は新しい飾りを手にとった。
大友はやはり飾りではなく短冊を手に取る。
一つ一つでは効率が悪いので幾つかまとめてポケットに突っ込む。
小林の食べ物短冊はあまりまとめて吊るすと面白みがない気がしたので、あちこちに分散するように気をつけて吊るしていく。
さて次は、とポケットから一枚抜いたところで大友は一度手を止めた。
『小林が生きたいって思えますように』
乱雑さはあるが、それでもきちんと躾けられた事が分かる綺麗な文字は花崎のものだろう。
普段の走り書きとは違うのは、ばれるのが恥ずかしいか、単純に短冊だからなのか。
「まあ、願い事の時点でわかるけどねー」
これは高い位置に吊るしてやろうと、大友は上になる部分にそれをしっかりと結ぶ。
さて次は、と思ってみれば、これまた特徴的な文字だった。
いうなれば日本語を書き慣れていない人間または小学校低学年の文字。
『ここで はなさきが わらって いたい』
大友は一見意味不明なそれを見て、しかし笑みが込み上げてくるのを押さえられなかった。
途中まで書いて、躊躇ったのか消された文字もあり、残されていた文字がそれだけという、いっそ書き直せばいいのにと思ってしまいそうな短冊。
これも名前は書いていないが、書いたのは間違いなく小林だろう。
食べ物短冊と字体が一緒だ。すぐに分かる。
きっと小林はここで花崎が笑っていることを望み、そこに自分もいたいとでも書きたかったのだろう。
良い傾向ではないかと思う。
これは花崎の短冊の近くに吊るしてやることにする。
しかし、ちらりと羨ましいという気持ちが湧いた。
勝田も数枚のうち1枚には井上の足のことを書いていた。
他は家内安全等なのが勝田らしい。
井上も勝田の為の願いを書いていた。
野呂ですら愛しいペットのことを書いた。
こうなると、自分も誰かに健康なり成功なり願って欲しくなる。
「やーまねー! 俺の為に短冊書いてくれたー? 書いてなかったら何か書いてよ。健康祈願でも最高の発明が出来ますようにでもいいからさー」
「書きましたよ? 大友先輩が僕をいじらなくなりますようにって」
突然の大友の言葉に山根は首を傾げつつも、素直に告げる。
「そんなこと言って俺に構われるの好きなくせにー」
「構われるのと弄られるのは全く違いますからね?」
「構われるの好きなのは否定しないんだねー」
少しむくれて山根は返すが、その答えに大友は少し満足したのか、それ以上続けず取り付け作業に戻った。
山根はそれを見て少し外れると、もうあとは屋上でしかやることがないと花崎が全部上げた荷物の中に残っていた短冊を一枚手に取って書き上げる。
それを飾り付けの合間にこっそり括り付けた。
そうして皆で飾りつけをし終えた笹はかなりの重さになったので矢張り巻き取り装置を使って立てかけ、屋上の手すりに縛り付ける。
「かんせーい!!」
「おー!」
「凄いですね」
「なかなかいい出来じゃなーい」
花崎が言うと、中々の見栄えになった笹に皆が歓声を上げる。
井上と小林ですら表情を緩めた。
そこで来客を告げるチャイムが鳴る。
もう夕方で予約もなかったので事務所は閉めたはずである。
「あ、たぶん俺だ」
疑問に思いつつ動こうとする井上を押さえて、花崎は駆けて行った。
戻ってきた花崎はエレベーターに大きなキッチンワゴンを積んでいた。
「飯届いたぞー。メインは素麺だけど、おかずは色々あるから食い足りなくなるこたねーだろ」
星を見るイベントなので、天気も良いからと今日は笹を飾った屋上でそのまま食べることになっているのでテーブルなどは設置済みだ。
花崎は言いながら、そのテーブルに料理を並べていく。
「おお!」
並べられた料理に小林が目を輝かせる。
「ちょーっとー! 何でそんなに豪勢なの!?」
同じく並べられた料理をピッポのカメラを通して見た野呂が声を上げた。
「料理はうちからデリバリーした」
「うち?」
「へえ」
花崎の言葉に大友と井上が僅かばかり驚くが、その声を大きな声がかき消した。
「それ、花崎家の料理人お手製ってこと!? 野呂ちんの分は!?」
野呂も井上たちのように感じる部分がなかったわけではないが、あえてスルーするのは彼女なりの気遣いと、美味しいものに対する執着だろう。
小林とは別の視点で野呂も食べ物にはうるさい。
「野呂にはちゃんと別でケースに入れてっから、あとでピッポちゃんに運んでもらうから」
「絶対だかんね!」
苦笑して返す花崎に、野呂は念を押す。
わーってるって、と返す花崎に大友は近づいてその肩に腕を回した。
「珍しいじゃな~いの~。おうちで作ってもらうなんてー」
「先月あたり、朝食の時の予定確認で父さんが赤石さんとグループの七夕会があるって話してたから、俺も皆で七夕したいなーって思ってたら口にしちゃったみたいで、そしたら父さんが笹と飯は任せろっ言うから、お願いしてみた」
普通の振りをしているが、照れを隠し切れず少しばかり頬を染めて花崎は言った。
顔を逸らしているが、肩を組んでいる大友と周囲で見ているものにはバレバレである。
「それはそれは」
そのような会話ができるようになったとは、随分な進展具合ではないかと大友は微かに笑う。
そしてやたら立派な笹の入手先も判明した。
「それじゃあ、せっかく作りたて持ってきてもらったみたいだし、さっさと食べようかー」
「そうだな」
大友が声をかければ、花崎の声と一緒に他のメンバーも頷いた。
早速、と手を伸ばした小林が、しかしめんつゆを片手に舌打ちをする。
「どったの?」
「食いにくい」
気づいた花崎が声をかければ、小林は素麺を取ろうとして、しかし上手く挟めずに箸から滑り落とす。
それでもなんとか汁に入れるが、そこからまた持ち上げるのが一苦労なのだ。
「あー…焼きそばとかと違って滑るもんなー。確かデザート用にカトラリーもあった筈。フォーク使う?」
小林はまだ箸の使い方がうまくない。
それでも箸で物を挟むまでは進化したが、素麺のように滑ってしまうものはまだ上手く掴めない。
素直に頷いて、小林はフォークで素麺をすすり始めた。
それを見て、そうだ、と花崎は思いつく。
「小林が箸ちゃんと使える様になったら皆で流しそーめんやろうぜ!」
「良いねー。何なら流し台は俺が用意してやるよ。自動麺投入機付きでハイスピードで通り抜けるやつ」
ハイスピードを意味するのか、大友が箸で上向きに円を描くように高速で動かす。
「それそーめん食えねーじゃん」
ぶはっ、と想像した花崎が笑う。
「それでこそ流し素麺のバトルってものでしょう」
「流し素麺はバトルじゃありませんよね?」
思わず山根がつっこむが、大友は心外だとでも言うような表情になる。
「なーに言ってんの山根ぇ。皆で素麺を奪い合う! より素麺投入口に近い場所を確保するところから戦いは始まってんのよ? 立派なバトルじゃなーい。でも! 俺の構想の中にある流し台は更にその上! 動体視力と反射神経も必要になってくるというスペシャルな流し台なのよ」
「だからそれ、食えないやつ出てくんじゃん」
まだ笑っているが、全員が上手く参加できそうにないので花崎はあまり乗り気ではないらしい。
「そうそう。大体そのメンバーだと花崎の一人勝ちじゃん。野呂ちんとピッポちゃんは戦いなんて参加しないから優雅に食べられるけど―」
珍しく花崎に野呂から援護射撃が届いた。
「あー…確かに花崎しかうまく取れないかもねー。瞬間芸じゃなくて箸をもとから置いておいて罠にかかった素麺を引き上げるなら他の奴らも何とかなるだろうけど、それじゃハイスピードにする意味ないかぁ…」
残念そうに呟いて肩を落とした大友だが、なんとなく空を見上げて考え事をしているのでおそらく何か別に面白くする方法を探しているのだろう。
屋上といえば、もう一つ、普段は目にしないものを見る。
「そういや、小林の観覧車もだいぶ汚れてきてんなあ?」
先日、小林の二度目の誕生会をやったばかりであるが、今回のプレゼントは別のものを用意したので、ゴンドラまで気にしていなかったのだが、改めて見ると1年間野ざらしにされたのもあってかなりの汚れだ。
「そうか?」
数年間使ってもっと汚い状態のゴンドラに住み続けた小林にはそれほど問題があるようには思えない。
「そうだよ。今度掃除しような」
花崎は笑いながら、去年の出来事に思いを馳せる。
「去年はこのしばらく後から慌ただしかったよなあ…」
「えー…その前に地下水路事件解決ってるんだから、こばちんの誕生日より前でしょー」
野呂のツッコミに大人数の警察官まで巻き込んだ事件を思い出す。
花崎は登校日だった為、かなり終盤になってからしか参加できなかったので失念していた。
「あ、そっか。んなこともあったな。あんときの小林はクズだったなぁ」
懐かしそうに言うセリフではない。
クズと言われた当の小林は、気にせず料理に舌鼓を打っている。
「あーあの時ねー。早速渡しておいた新しい道具が役に立ったんだよねー」
「大友の発明だけは、ま~あ、確かに役に立つけどねー。でも野呂ちんのコントロールあってこそだから!」
「つまりマコちゃんと俺が揃えば完璧って事ー? パートナーになっちゃうー?」
「はあ? 野呂ちん大友なんていなくても完璧だし! パートナーはピッポちゃんがいれば十分だし!!」
揶揄い混じりの大友の言葉に野呂が叫べば、ピッポちゃんが大友の頭に止まり、髪を乱す攻撃をした。
地味に迷惑な嫌がらせである。
そんなやりとりがある横で、確かに去年は色々ありすぎたと井上は考える。
「今年は平和でありますようにとでも短冊に書いておくか…」
大体が二十面相の所為だったので、去年のようなことはそう起こらないと思わないでもないが、神頼みでもいいから祈っておきたい気分になった。
「えー! 探偵事務所が平和じゃ仕事ないじゃん!!」
だが、その言葉に花崎が不満の声を上げた。
「お前な…」
「そうねー。どうせなら、こう、俺の発明がお披露目できるような事件がいいねえ」
呆れる井上だが、残念ながら大友が花崎についた。
「え、大友何か新しいもんまた作ったの?」
大友の発言に花崎がワクワクと弾んだ声で食いつく。
「そうだよー。まだ試験してないから被験者が必要なんだよねー。ということで花崎また部活に来てよねー」
「行く行く! ぜってー行く!!」
頷いて、そして短冊を手にとった。
「じゃあ、書くべきは『今年も楽しい事件がいっぱいありますように』だな!」
スラスラと書いていく花崎に、やはり井上は呆れるしかない。
「普通、事件は楽しいものじゃないぞ」
「世の中楽しんだもん勝ちだって!」
井上にウィンクを送りながらそう言って、笹に新たな短冊を吊るした。

料理も粗方無くなって、そろそろお開きにしようとなった時に、ふと井上は気づく。
「ところで、この笹の大きさもあるが、飾りやら短冊やらで結構な重さになっているが、どう廃棄するつもりだ?」
パーティの直後にしてはかなり現実的だが重要な問題だ。
見ていれば立派な笹飾りだが、廃棄するとなると結構な手間である。
「そりゃ、こう皆でもって小林に突っ込めばよくね?」
置いた状態で小林が近づいても、ただの物なので靄は反応してくれない可能性があるが、突っ込めば間違いなく反応するだろう。
「おい…」
突然名前を出された便利道具小林は不満そうに声を上げる。
「なーるほど。おチビちゃんの靄で細切れにするのね」
やり方次第で小林の靄は大きな分解ではなく、削るように細かくできる。
「そうそう。そうすりゃあとは細かくなったのを袋に詰めるだけだし掃除も簡単! 焚き上げた方がいいなら今度はキャンプファイヤーでもやろうぜ!!」
だが大友と花崎は気にせず話を続けていく。
無視されたのも嫌なものだが、その上で続けられている内容に小林は呆れるしかない。
「お前らな…」
「いやいや花崎の案にしては中々だと思うよ?」
「ほら大友もこう言ってんじゃん! それにこれほど安全な靄の使い方もねーだろ?」
それがゴミ処理か? と思うし、まったく嬉しいとも思えない。
だが、どのみち花崎がこう言い出して井上が止めない以上、きっとやらされることになるだろうということも、流石に小林は経験から推測できる。
花崎が笑っていることを願いの一つとした小林は、まあこいつが楽しそうだからいいかと思うことにした。

 

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