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19 May

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21 June

ハッピーバースデイ小林

小林の誕生日を祝う話







誕生日が祝われた。
生まれたことを祝われたことは初めてだった。
死んだほうがいい筈の自分の誕生がなぜ祝われるのかさっぱりわからなかった。
けれど、不思議と悪い気はしなかった。

色々あって死にそうになった。
見たくない顔で花崎が泣きそうになるから、初めて死んだら駄目だと思った。
自分が傷ついて死ぬことであんな顔する花崎は見たくない。
そう思ったのに、そう思ったからか、そんな時に限ってモヤは仕事をしなかった。
その後花崎が泣きながらまた離れようとしたから、それならやっぱり死にたいと思って……助かった。
その後、居心地が悪くないと思っていた場所が変な感じになって、頭がやたら痛かったからそのせいかと思って頭痛の原因を探した。
少しだけ思い出した……多分両親の記憶。
傷つけるしかできなくて化物と恐れられる自分はなんで生まれてきたんだろうと思っていたが、自分はどうやら母親に望まれて生まれてきたらしかった。
生きることを望まれていた。
少なくとも、死んだほうが良いだけではなかったらしい。

一年経ってまた祝われた。
反応にガッカリされた。
サプライズというので驚かせて喜ばせるためのものだったらしい。
二度目で驚くはずもない。
それより……。
「何で祝うんだ?」
それが不思議で花崎に聞いた。
「一年間無事生き抜きましたー! ってお祝い?」
最後に首を傾げる辺り、花崎もちゃんとは分かっていなかったみたいだ。
「別に生きたくて生きた訳じゃねーけどな」
生き抜いたというよりは死ねなかったというべきか。
いや、それもなんか違うな。
死にたいと思った時に死ねる方法が見つかれば、別にまだ死ねなくても良い。
少なくともここにきてからそう思うことは多くなっていて、今はずっとそう思ってる。
けど、それは別に声に出さないでいたら花崎が不満顔になった。
「えー! だって小林死んでたら逢えなかったじゃん」
最近だけじゃなくて昔からのことだと花崎は思ったらしい。
それを言われると、あんなに死にたかったのに死ねなくて良かったんじゃないか、なんて少しだけ思う。
「こうやっていられる今がすっごい嬉しいし楽しいから、小林が生まれてくれて、小林の親が小林を生んでくれて、小林が今生きててくれてありがとうって感謝も込めて祝うんだよ」
更に花崎がそう言って笑ったから、特に否定する言葉は出なかった。
思わず顔が緩んだことに気付いて慌てて直す。
でも花崎にはしっかり見られていたらしく、嬉しそうにされた。
嬉しそうなら、まあ、いい。
そんな風にして小林が〝誕生日は祝うもの〟という認識を得てからまた月日が流れる。






「どうしてよりによって明日なんだよー!!」
花崎が叫びをあげたのは小林の誕生日の前日。
相も変わらず探偵業の為に通信科を選択した花崎は月に一度、昼から夜まで学校に拘束される。
それが、小林の誕生日に重なったのだ。
この一年で大きく変わったことといえば、小林の靄が制御可能になったことだろう。
他の人間と同じように生活することが可能になったということだ。
だから花崎は周囲と相談して小林の誕生日プレゼントを決めた。
小林が喜ぶかは分からないが、小林の役に立つものを。
だというのに、花崎はその場に立ち会うことが出来ない。
これが悔しくない筈もない。
とはいえ、月に一度の登校日。
流石に小林を理由にサボるわけにはいかない。
もう高校生な上に、『月に一度の登校日はきちんと学校へ行くように』という明智の言葉を引き継いだ井上に怒られ野呂に馬鹿にされ主役の小林に呆れられるだけなのが目に見えているからだ。
「みんなが誕生日会やってくれるって言うから楽しんでな……」
前日、事務所を去る間際、花崎は小林の肩を掴み未練たらしくそう言い残した。
小林がサプライズに驚かないことはもはや分かり切っているので、今年は前もって伝えてある。
「今なら小林も参加できるしパーティーゲームもやりたかったのに……」
「ゲームなんていつでもできるだろ」
「パーティーにやるから特別楽しいんだって!」
出来ないけど、と肩を落とす花崎。
花崎の授業が終わるのが夜8時である。
それから移動することを考えれば、どう考えたって夕食には遅い時間で、つまりパーティにも遅い時間となるので花崎抜きでやるしかない。
自分の誕生日でもないのに待っていてくれとは流石に花崎も言えなかった。
「「「「お誕生日おめでとう」」」」
「ああ」
花崎と勝田がいないので4名に祝われて小林は頷いた。
それから定例のプレゼントタイムで小林は一同からだという大きな箱を受け取った。
その後はただの食事会だ。
「主役があんまり楽しそうじゃないねー」
大友に話しかけられ、小林はピザを持ち上げた手を一度止めた。
「別に…いつも通りだ」
「まあ、確かに盛り上げ係の花崎がいないんじゃ~ただ食べるだけの会だしねー」
「それより食いもんはこれだけなのか?」
8割がた机の上の食べ物はなくなっていた。
「いま追加のフードデリバリーをたのんでいますけど、食べ足りないなら先にケーキだしますか?」
小林の言葉に山根が答えれば、それには首を横に振る。
「まだ食いもんが来るなら後でいい」
そう言ってポテトに手を伸ばした。
もそもそと食べる様子に、大友は肩を竦めて持ってきた荷物を引っ張り出した。
「じゃーん! 久君特製人生ゲームー! ちょっと時間かかるかもしれないけどやる?」
何が特製なのかはは不明だが、大友のことだ。なにか仕掛けを仕込んでいるのだろう。
と、思った面々は乗り気ではなかった。
「………やる」
だが花崎が引き込まないと基本ゲームに参加しない小林が、少し考えて珍しくも参加の意を示した。
「ほーらー。主役様がゲームをするってー」
そう言われてしまえば、仕方ないとばかりに全員がゲーム盤を取り囲んだ。
「たっだいまー!!」
エレベーターを待つことすら耐えられず、花崎が階段を駆け上がってきた。
「お、まだやってたんだ?」
だらけた空気はあるものの、終わった様子が見受けられず花崎は少しは間に合ったかと嬉しそうに表情を緩める。
「まあだらだらやってたしねー……料理が残ってるからケーキもまーだよ」
「マジで!?」
「花崎は冷め切ってってるピザの消費だかんねー」
野呂の声と同時に花崎の肩にピッポが止まる。
「えー…」
花崎は不満顔になりつつも、まあ腹減ってっからいいけどと肩を竦めた。
「ほら、温めてきてあげるから手洗いうがいしてきなさい」
「へーい」
言われた通り手洗いうがいを済ませて戻れば、机の上がある程度整理されており、温められた料理とケーキが置かれていた。
「てかこのメンバーならもうとっくに食料食べ尽くしてるもんだと思ってた」
「それは~主役の希望にに沿わなかったみたいだから、皆でゲームしてたの」
「へー! 小林もゲームに参加したんだ?」
滅多にゲームに参加しない小林の参加を聞いて花崎は目を輝かせる。
「そう、人生ゲームなんだけど何なのアイツ。不幸体質かと思いきや引きが良すぎでしょ」
「へ?」
「人生ゲーム、小林さんの独り勝ちだったんですよ! 凄かったです!」
「まーじでー!? スッゲーじゃん小林!!」
「ゲームだろ」
驚きつつも嬉しそうに花崎が褒めるが、小林の態度は相変わらず冷ややかなものだ。
「山根はどん底だったねえ……」
「僕のことはいいじゃないですか!!」
大友の茶々に山根は頬を膨らませるが、すぐに表情を落ち着かせる。
「花崎先輩、ケーキのロウソク点けるんでご飯はちょっとだけ待ってください」
「お、俺かなりナイスタイミングで帰ってきた?」
料理もまだ残っているとは言っていたが、まさにこれからケーキだとはタイミングが良すぎて驚く程である。
といった感じの花崎の言葉に井上と野呂は呆れ、大友と山根は苦笑する。
あの小林が自分の分を確保せずに、無くなっては追加を要求するスタイルをとったのだ。
食べ足りないというのにケーキの先出しを断ったことから、小林が何を考えているのか分からない面々ではない。
誕生日を祝われても、御馳走が食べられるくらいの認識だと思っていた小林が、無自覚なのか敢えてなのかは不明だが、特定の人物に祝われたいと思っていることが明白だった。
だから皆ゲームに参加したのだ。
理由を持って時間を稼ぐ為に。
誕生日の歌を歌い、小林がろうそくの火を吹き消した。
「小林、お誕生日おめでとう!」
皆の祝いの言葉の中で一際大きな声で花崎はいう。
「ああ」
祝いに対する礼は言わないが、返事をするくらいはするようになっていた。
ケーキを切り分けて皆で食べる。
ふと思いついて、花崎は隣に座る小林の皿に自分のケーキの苺を乗せる。
「遅れたお詫びに、俺の苺小林にやるよ」
小林は素直に受け取った。
そんな花崎に井上がケーキの乗った皿を差し出す。
「それなら花崎には俺の苺をやろう」
「いや要らねーし」
「そう遠慮するな」
「井上のそれ、贈答じゃなくて押し付けじゃん」
「お前が食べられて俺が食べなくて済む。双方にとっていい提案だと思うが?」
悪びれもなく胸を張る井上。
この光景を録画して是非勝田に見せたいと思ったのは一人ではない。
「俺のは小林にあげたからいいの!」
花崎に頑として断られて井上は渋々皿を引いた。

お開きになったあと、花崎は荷物持ちとして小林の部屋につきそう。
靄が制御できるようになった小林は同時にトラウマも克服していたので、観覧車以外でも寝られるようになったことと、何より成長期に入ってゴンドラが窮屈になった為、事務所の居住スペースの一室を小林の部屋として割り当てた。
今では小林も当たり前のようにその部屋に向かう。
そして早々について荷物を置いて立ち去るのではなく、花崎はベッドに腰を下ろした。
小林も気にせずその横に座る。
「もうプレゼントの中身は見てくれた?」
プレゼントが入った箱を見ながらの花崎の問いに小林は頷く。
「なんか本とかだった」
正直小林には興味が全くわかないものだった。
プレゼントというなら食べ物とかもっと役に立つものが欲しかった、と小林が言えば花崎は吹き出した。
「勉強道具な。食べらんねーけど役に立つもんなんだって。小林ももう高校生でいい歳だし、探偵続けるにしろ別の進路探すにしろ基本的な勉強は必要だからな。小林実は頭悪くないから今から勉強始めれば高認試験受けて大学は行けると思うし」
井上は小林夫妻に子供ができる筈が無いと考えたが、ではあの家と小林の関係は何なのか、という疑問が出た。
そこで調べた結果、あの家の主は小林という姓を持ち、戸籍情報から夫婦には芳雄という子供がいたことが判明した。
出生届が登録されているかの不安はあったが、きちんと提出されていた。
夫婦の死は発見されるまでに時間がかかっており、家を出て戻らなかった小林は行方不明というのが正しいのかもしれないが、捜索願も死亡届も出す者がいなかったので、宙に浮いたままだった。
母親は自身の体のこともあり、子供に出来るだけ可能性を残そうとしていたのか、臍帯血バンクに小林の臍帯血が保管されていた。
家にあった証明書と少々の権力を使い、その臍帯血のDNAと照合した結果、本人であることが確認された。
戸籍もきちんとある、国に認められた一人の日本人であることが証明されたのだ。
当然、正確な誕生日と年齢も判明している。
そうなると、少年探偵団の面々は次を考えた。
小林は柵がなく、無知だからこその強さを持っていた。
けれど、生きていく上ではやはり学ぶ必要があるのではないかと。
だから少しでも可能性を広げる提案を小林にすることにした。
その係が花崎だ。
「大学なんて行ってなんか意味あんのか?」
井上が行っているので、大学という存在は小林だって知っている。
だがそこを自分まで目指さなければならない理由がさっぱり分からない。
「これが悲しいことに結構意味あんだよ」
学歴ではなく実力で社員を雇うと言いつつも、その実力を測るのに結局学歴を使う会社が多い。
また、中高大の卒業によって賃金に差が出ることもいまだに根付いてしまっている。
その上、学歴によって人格まで振り分ける人種も存在している。
有名大学ならよし、そうでなくても大学を出ているというのは日本において分かりやすいステータスなのだ。
探偵を続けるにも、明確に告げられる大学がある方が不思議なほど信用度が高くなる。
その信用度は、更に大学のレベルによって大きく差が出るのだが。
「あいつとかサークルとか言うやつの話しかしねーぞ?」
しかし、井上の様子を見ている小林はやはりそんなに高尚なものとは思えない。
「井上はサークルしか大学の話題がないだけだって。それでもサークル仲間が出来ただけ高校時代よりましだと思うし。そもそも勉強しに行くところだし、井上なら成績も良い筈だし」
井上は自分のことを話すのはもちろん、そもそも話題を振られなければ自分から話すことも苦手だ。
最近は山根が問いかける形で、学校での様子がわかりやすくなっているが、少しでも山根も楽しめる話題をと考えれば勉強以外のこととなる。
残念ながら食べ物については井上は偏食過ぎるため、ネタとなるのは学校設備かサークルのこととなるのだ。
「何なら小林は俺と同じ学校目指す?」
これは皆で決めたことではなく、花崎自身の意見だ。
小林と一緒だったら楽しいだろうと思って、軽い気持ちでの提案である。
「お前と?」
だがその花崎の言葉に、少しだけ小林の興味が引かれた。
「そー。俺も今みたいには事務所に来れなくなるから小林にもあんまり会えなくなりそうだし。同じ学校だったら学年が違うから授業は別だけど昼とかは一緒に食えるし、東京にあるからこっからでも割と楽に通えるよ」
「来なくなんのか!?」
しかし続いた言葉は大学とやらの話題よりよほど衝撃的だった。
「いまよりは、な。井上も、高校の時より忙しそうだろ?」
説明を受けて、全く来なくなるわけではないと少しだけ安心するが、小林は不快感が拭えず原因と消去法を考える。
「……勉強すりゃそのお前が行く大学とかいうのに行けんのか?」
出した結論はそれだった。
そうすれば一緒にいられる時間が長くなると花崎が言ったからだ。
「うん。ただ一応日本も有名なお勉強できる人たちの学校だから、知識不足の小林の場合かなり頑張らないとだけど」
「お前は大丈夫なのか?」
有名な勉強できるやつの学校に入れんのか? と疑問を隠さない小林に花崎は苦笑する。
普段馬鹿をやっている自覚はあるからだ。
学科面においての花崎を全く知らない小林ではそう思っても仕方ないだろう。
これで、花崎は勉強に関しては意外と真面目なのだ。
「絶対とは言わねーけど、俺花崎だからそれくらい入れねーとだし、模試の結果からすれば問題無く受かる圏内には入ってるよ」
有名大学には花崎が目指すのと同じような理由で企業子息や将来有望な人材が集まりやすくもある。
コネクション作りの為にも、花崎という家がが馬鹿にされない為にも、花崎はそこに入る必要があるのだ。
「なら、僕もそこに入る」
小林には〝花崎だから〟の意味は分からなかったが、花崎が間違いなくそこを目指していることだけは分かった。
なので少しでも長く花崎と共にいる為にはそこに入る必要があることも分かった。
花崎が自分を殺す約束は〝いつか〟でいい。
それまで生きるのに必要なことなら、小林は学びもするし、花崎と共にいる為に努力だってする。
「じゃあ一緒に勉強すっか! そしたら小林が分かんないところ教えられるし」
まあ勉強なら井上の方が良いかもしれねーけど、と付け加えながらそれでもそれを薦めるつもりはないらしい。
「やる」
だから、小林は一言だけ言って頷いた。
それに花崎は嬉しそうに笑みを深めポケットから掌より少し大きめな長方形の箱を取り出した。
「あと、これ。俺からのプレゼント」
そう差し出された箱を小林は受け取る。
「なんだ?」
問いかけながらも早々にラッピングを剥がしていけば出てきたのは一本のペン。
「ボールペン。書きやすいやつ。ちょっといいやつだからペン先潰れたりとかしたらお店に行けばちゃんと対応してくれたりするよ。店舗に在庫があればその場で購入できるし」
そう言いながら花崎は小林のプレゼントの中から一冊引き抜いて見せた。
「てことで、小林はペン字の練習もしような!」
ペン字の練習帳だった。
小林は微妙な表情を浮かべながらも、なんとなく今渡されたペンを使ってみたいという欲求が湧いたので素直に練習帳を受け取った。




あとがき

長く使える必需品だからか、なぜか花崎に小林にペンを贈って欲しいという謎の欲求があります。
秘書話とは別なのでまた贈らせてしまいました。
ところで最近は大検じゃないんですね。
高等学校卒業程度認定試験ってなんぞそれ!? ってなりました。
意図は一緒らしいので安心しました。

小林君、お誕生日おめでとうございます。

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