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20 May

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19 June

おもいぶみafter

おもいぶみの続き






「好き」
という言葉は、簡単に口にできる。
行動、物、色、様々に。
人に対してだって言える。
特別な意味を持っていても、少しの緊張はあるが言える。
だが。
「小林、何でこんなに書けたの?」
花崎は疑問でならない。
小林から渡された手紙。
どういうところが好き。
どういうところがムカつく。
花崎に対してその時思ったであろう全てが書かれているそれ。
その中に時々前置きもない、ただの『すきだ』が混じる。
理由のない『すき』。
理由が無くても自分に与えられた『好き』。
恥ずかしい。
この『恥ずかしい』は小林にも知られてしまったが、言い換えれば『嬉しい』だ。
手紙を抱きしめてベッドでジタバタするとか、乙女か何かかと花崎は自分に突っ込みを入れるが、そうやって謎の行動でもしないと耐えられそうにないのだ。
だって他の誰でもなく、誰かの代わりでもなく、自分が愛されているのだ。
自分の行動も、自分の表情も、自分という存在も、丸ごと。
苛立たせる部分があっても、それで愛想をつかされてないくらいに、それすらも許容できるくらいに、愛されているのだ。
それが目に見える形で与えられて、平常心で居られる筈がない。
しかも、その愛をくれるのは自分も好意を寄せた相手だ。
両思いだ。
これ以上ないくらい幸せを感じたって仕方ないではないか。
自分も、小林のどこが、ではなく小林が好きだ。
どこが、と言われれば色々挙げられるが、駄目だししたい部分だって最終的に『小林ならいいや』という想いに行きついてしまう。
ふと、同じように文字にしてみようと思った。
起き上がり、引き出しを漁ってペンと紙を出す。
けれど、そこで手が止まった。
たった二文字が書けない。
前置きがあれば簡単に書ける。
書けるのに、二文字だけになると途端に書けない。
恥ずかしいのだ。
これは嬉しいとは違う恥ずかしさ。
近くはあるが。
感情が上擦って、手が震えてしまう。
想いを残る形にするのは、恐ろしく気力がいる。
そして出たのが先程の言葉だ。
花崎にはたった一文字すら書くことが出来ないのに。
「好きなのは…ほんとなのに……」
本当だからこそ出来ないなんて理不尽だと思う。
本当は嘘よりずっと容易い。
だって考えなくていいから。
其の儘で良い筈なのに、できない。
再びベッドに倒れこみ、ぼんやりと手紙を見る。
「そう言や小林、字が書けるようになったんだな」
知らない間に小林が成長していた。
少し寂しいと思うが、この手紙をもらえば花崎が知らなかった理由も流石に想像がつく。
理由が花崎にあるなら、寂しくても傷つくことはない。
けれど、ここから先に進む過程には自分も加えて欲しいと望んでしまう。
「字か…」
毎日書くのが良いだろうと考える。
小林が飽きもせず字を書く方法。
カタカナも漢字も書けるようになるには。
「毎日……」
ああ、それなら日記が良いのではないかと思い至る。
本当に毎日書いているか確認もしたい。
それに、小林の日常が知りたい。
何を思っているのか。
自分がいない間何をしていたのか。
そこまで考えて、ハッとする。
「やべー…俺ストーカー入ってねえ?」
小林のことが何でも知りたいと思うだなんて。
全てが知れるはずもないのに。
そんなことを思ってしまった自分がまた恥ずかしい。
けれどやはり知りたいと思う気持ちは止められなくて。
「そうだ! 交換日記!!」
それならば小林の日常ばかり覗くのではなく、花崎も曝け出すのだからイーブンではないか。
見られることを前提として書くなら、小林だって本当に見られたくないことは書かないだろう。
それに、そうやって日記を交換していけば花崎もそのうち形に残る文字として小林に「好き」を渡せる日が来るかもしれない。
そこまで思い至ると、もはや花崎自身にも花崎を止めることは不可能である。
「明日提案してみるか」
小林が頷いてくれたらいいなと思いながら、花崎は小林からの手紙を丁寧に畳んで引き出しにしまった。

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