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21 September

○○ないと出られない部屋

巷で流行りの「○○しないと出られない部屋」





『この部屋から出るには下記の条件を満たす必要があります。
 ○○○ないと出られません』
と、書かれた紙だけがある部屋。
真っ白い、本当に何もない部屋。
○○が何なのか分からず、花崎は首を傾げる。
「小林、壁壊せねえ?」
分からない以上、対応のしようもないので物理的な手段を試すのは一つの対処法である。
花崎の提案により、小林が壁を破壊を試みたが、意外なことに傷一つつかない。
何度か試しても結果は同じだ。
食べ物も飲み物もない部屋で、出る方法も分からない。
もしかしたら、ここでなら死ねるのではないかと小林は気づいた。
無理矢理食べさせられることもなく、衰弱する。
が、ふと気づいた。
それはつまり、花崎もそのように死ぬということだ。
一緒に死ねる。
だが、その死に方は決して楽なものではない。
二人きりで、誰もいない場所で、何もない場所で、お互いだけを認識しながら死ねるのは良い。
けれど花崎も苦しむ。
小林は葛藤した。
この部屋で終わるのも悪くはない。
だが、やはり花崎をここで衰弱死させたくないと思った。
だから、壁に向かった。
何とか壊そうと思ったのだ。
だが、どれだけ力をぶつけても壊れない。
花崎が少し休めというので、休むことにした。

向かっては休むを繰り返すが、現状に変化は生まれない。
どれくらい時間がたったのか分からない。
幾度も壁を壊そうとしたが、やはり傷一つ付けられない。
寝る以外の回復手段を持たず、体力は減るばかりである。
ぐったりと横になった小林を心配して、花崎が何とか出る方法を探そうとあちこち調べまわっているが、やはりそれも成果を上げない。
そのうち花崎も体力が尽きたのか、壁にもたれた。
言葉を発する気力もないらしく、大人しい。
やはりこのまま死ぬのかもしれない、と小林は思った。
空腹感はあるが、花崎が一緒なら悪くない。
そう、思った時、靄が動く気配がした。
何か、この状況以外で危機になるようなことがあっただろうか、と小林は疑問に思うが、そういえば空腹になれば靄は勝手に詰め込もうとしてくるのだと思い出した。
けれどこの空間に食べられるものなどない。
何無駄に動いているんだとぼんやりと考えて、ハッとした。
靄は、小林の意思など介さずに、ただ小林を生かす為だけに動く。
どれ程拒もうとだ。
あるのだ。
この空間にはひとつだけ。
小林を生かす食料になり得るものが。
本来は食用とされない。
けれど、倫理観を抜けば食料にもできてしまうものが。
それは小林にとって絶望でしかない。
それでも靄は、やるだろう。
それしか小林を生かす手段がないのだとしたら、間違いなく。
先程の靄の動きが前兆だとしたら…。
小林は飛び起きて壁に向かった。
絶対に、そんなことさせる訳にはいかない。
靄が限界だと判断する前にここから出なければならない。
「壊れろ! 壊れろよ!!」
何度試しても駄目だった。
それでも、小林に出来ることはこれしかないと壁に体当たりを続ける。
「こばやし?」
突然、再びやる気を見せ始めた小林に、やはり衰弱しかけている花崎が声をかける。
声をかけられて、小林はまだ大丈夫だと思う。
花崎がまだ生きていることに安堵する。
一緒に死ねるなら、それも悪くないと思った。
だが、このままでは花崎を糧に自分だけが生かされる。
その後本当に成す術もなく死ぬことになるかもしれないが、その前の絶望を受け入れるわけにはいかない。
「出せよ!! すぐに!!」
小林が叫んだ途端、目を開けられないほど部屋が眩しくなった。

目を開く。
其処はいつものゴンドラ。
日が顔に当たって眩しい。
夢だったのだと、気づいた。
全身から力が抜ける。
が、安心することはできない。
夢では謎の部屋だった。
けれど、自分だけ無事でいられる場所に花崎と閉じ込められることが無いとも言えないのだ。
壊せないかも知れない。
壊したらもっと大変なことになるかもしれない場所の可能性もある。
力は便利な面もあると思えるようになってきていた。
死ねないから、花崎とずっといられると思っていた。
それも悪くないと思っていた。
だが、駄目だと気づいた。
この力が、自分から最悪の方法で花崎を奪う危険があるのだと気づいてしまったから。
仮面の男が言った言葉を思い出す。
「コントロール…」
不思議な力は、コントロールできるのだという。
出来たことなどない。
でもやらなければならない。
花崎をこの力が奪うかもしれないというなら。
この力の所為で自分だけ生き残るというなら。
本当に自分の力にしなければならない。
花崎を守る力に変えなければならない。
花崎がいなくなるのは嫌だと思っていた。
今は、自分が奪うかもしれないと思うと、怖い。
これほど恐怖を覚えたのは、父親の最後の記憶の時くらいかもしれない。
いや、あれ以上だ。
恐怖からくるストレスが半端ではない。
「ストレスで死ぬやつもいるらしいぞ」
靄に、いや…自信に聞かせるように呟く。
小林を殺したくないのなら、この恐怖を取り除いて見せろという意思表示だ。
「絶対、抑えて僕のものにしてやる」
どうにもならない、自分が死ねばどうせ消えると諦めて放置していた靄に、初めて宣戦布告した。



あとがきとか元々考えた話とか



小林が極限の空腹状態になった時に傍に花崎しかいなかったら、靄は花崎を食わせるのか?
とかカニバは割と苦手なのに思わず考えた結果、何か書いてました。

最初はこう、
『花崎を気絶させられて大きめなコンテナみたいなのに入れられて、触れないから助けられないので小林も一緒に入って花崎が起きたら箱を破壊して出ればいいやと思っていたけど、密閉性の高い箱でそのまま深海に沈められた』
という状況を考えたんですが、それだとまず酸素が尽きて花崎が割とあっさりピンチになるので駄目ですね。
小林は溶鉱炉の中でも大丈夫なのでたぶん酸素くらい靄が何とかしてくれます。
仮に呼吸が暫く持つくらい大きな箱だったとしても、小林が箱を破壊すれば花崎は水圧で死ぬし、死なないとしても水面に行くまでに確実に溺死する。
なら箱のままでいればいいのかと言われたら、前記の通り最終的に花崎が酸欠で死ぬ。
花崎を殺さずに地上に戻すにはどうすればいいのか。
水が入らないように靄が穴をあけて塞ぎながらスクリュー的な役割を果たせればあるいはと思いましたが、コントロールできないなら靄は小林を生かすのにそんな必要はないのでやってくれない。
コントロールできるならそもそも沈められる前に花崎救出できるのでその状態になりません。
小林が脱出して助けを呼ぶにも、箱が壊れた時点でやはり花崎アウト。
当方の頭では最終的に仲間に引き上げられるのを待つしかないという結論に達し、没です。

でも気になる。
と思った結果、そういえば世間には「○○しないと出られない部屋」という美味しい設定があったなと気づき、じゃあそれ使ってみようとなりました。
ちなみに「本気で出たいと思わないと出られない部屋」でした。
まあ夢オチですが。
「しないと」というより「思わないと」になりますね。

小林は死にたいとは思って靄が邪魔だし、周囲に危害与えるから消したいとは思っても、上手く使えるようになりたいとは思わずに生きてきたと思うので、何かをきっかけに本気で「上手く使えるようになりたい」と思えたら、変化が生まれるのではないかと密かに期待しております。
蕗屋さんが子供には稀にあるって言ってたけど、二十面相君あの歳でもまだギフト使えるので、割と便利なもやもやは、できれば消えるのではなく歳を重ねても制御可能になって使えて欲しいという私的願望。
こんなところまでお付き合いありがとうございました。
 

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