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20 May

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03 June

Secretary小林学生編1

※小林の友人としてオリジナルキャラが出ます。





「小林ー」
授業が終わり、携帯を確認しようと教室を出たところで名前を呼ばれて振り返る。
大きく手を振って駆け寄ってきた相手に、小林は鬱陶し気な視線を向けた。
「何だ」
その態度に、はあっと音を立てて溜息を零した青年は小林と同じ学科に通う大崎だ。
入学して暫く経った後、小林にとって重大な事件で手を貸してもらって以来、絡んでくるようになった。
「お前もうちょっとその態度何とかならねーの? そんなんじゃいくら試験通っても何処も雇ってくれねーぞ」
肩を竦める大崎の台詞に、小林は眉を寄せる。
「秘書になれないのか?」
「そうそう」
「それは困る」
素直な小林の反応に、大崎は楽しくなる。
偉そうに見えて、実際付き合ってみたら言葉は偉そうでも思考は素直なので揶揄い甲斐もある。
「だろー? だからもうちょっと愛想よくしろって」
「でも別にお前にする必要はないだろ」
「酷い小林! 俺たちの仲なのに!!」
「どんな仲だ」
泣き真似までしながら、小林を責めるが、返されるのは呆れた視線だった。
だが、大崎はめげない。
「まあたまたー。小林けっこうオレの事好きだろー?」
「ああ?」
顔を顰めて、ドスの聞いた声を出す。
が、残念ながらこの相手にはそれも通用しない。
「凄んでもだーめ! 俺にはわかっちゃうんだから」
ニヤニヤと笑う顔に、しかし事実小林は存外大崎を気に入っており、けれど素直には認めがたく舌打ちをする。
「お前は少し、昔の花崎に似てるから…」
「花崎?」
小林から初めて出てきた名前に大崎は首を傾げる。
「僕が秘書になるやつだ」
溜息を吐きながら言えば、大崎は驚きに目を見開いた。
「小林、お前もう就職先決まってんの!? だからの余裕!? いや、それより秘書を必要とするような花崎って……え、あの花崎!?」
大学まで入るようになれば、しかも秘書を目指して勉強していれば当然小林にだって花崎の名前の大きさは分かる。
恐らく大崎の言う花崎で合っているだろうとは思う。
「いや、でもあの花崎ならこんな短大出じゃなくてもっとエリートで実績のある…でも花崎って言ったらあそこだよなあ?」
花崎家はその実績とグループの大きさと反して、そのグループの冠になる姓を持つ一族の人間は限りなく少ない。
グループで今その姓を持っているのは、赤の他人でなければ現在の大代表と、その息子くらいだ。
うーんうーんと声をあげて悩む大崎。
そしてふと閃いたと言わんばかりの顔で小林に詰め寄った。
「もしかして、小林って花崎にコネあんの!?」
「コネっていうか、アイツはよく知っているし、アイツの「お父さん」と「兄ちゃん」に、きちんとここを卒業できたらって約束してる」
言った途端、大崎が両手で小林の手を握る。
「小林様! 俺にも花崎さん紹介して!!」
言われた言葉に、思わず突き飛ばすように距離をとる。
「駄目だ! あいつは僕んだ!!」
絶対に渡さないと言わんばかりの勢いだ。
小林らしからぬ執着とも取れる態度に大崎は目を丸くする。
が、とりあえず威嚇してくる友人の誤解は解かねばなるまいと、言葉を付け加えた。
「別に小林に成り代わろうってわけじゃねーよ? でも花崎にコネがあったら他のところ紹介してくれるかも知れねーじゃん?」
切実なんだよーと、大崎は再び小林に縋り付こうとする。
そういう意味か、と少し安心しつつも小林は頷けない。
「あいつにはまだ僕が秘書になろうとしていることは秘密なんだよ」
だから紹介など出来ない。
「なんで?」
家族は知ってるのに? と首を傾げられて小林は再度舌打ちをした。
「知られて拒まれたら困る」
小林の言葉に、大崎は呆けた顔をする。
実に小林らしくない。
拒まれても無理にでも押し通しそうな小林がこれほど弱気になるとは。
余程普通ではない人物なのかもしれない。
「気難しい人なの? もしくは我侭?」
小林がそんな人物の秘書になりたいと思うのが不思議だが。
「いや、ただの馬鹿だ」
「馬鹿なの!?」
あの花崎グループのトップに立つ花崎家の人が!? と思うし、やはりそれはそれで小林が目指すものがわからない。
「周りのやつは勉強の出来る馬鹿だと言っている」
「ああ、そういう……破天荒なのかな?」
大崎の的を射た言葉に小林は頷く。
「アイツは、好き勝手振り回す癖に、誰かがあいつの都合に合わせようとするのを嫌がる節がある」
「なんか、面倒そうだな。その人」
「ああ。面倒くせえ」
心の底から吐き出すかのような声で小林が頷いた。
「でも秘書になりたいんだ?」
「じゃないとあいつとずっとは一緒にいられないって言われた……」
「凄い惚れ込んでんのな!?」
「はあ?」
「もしかして凄い美人とか?」
言われて、小林は花崎の顔を思い浮かべる。
いまだに美醜はよく分からないが、世間の評価と言うやつはいくつも見てきた。
「顔は……多分悪くはないと思うけど、美人じゃないな」
美人と言うよりは可愛らしいだろうか。
自分の欲目かもしれないというのは自覚しているが、成長して昔よりは男味も出てきたが、イケメンと言うには若干可愛さが目立つ。気がする。
ついでに言えば顔立ちが良い方ではあるのだろうが、馬鹿っぽい表情が全てをぶち壊しにする。
あれがイケメンだとしたら、きっと人は残念なイケメンと言うだろう。
だが。
「笑った顔は安心できる」
思い出して、小林の表情が僅かに緩む。
「ぞっこんだねー」
小林のその表情だけで、大崎はどれだけその人物を大事にしているのか分かる気がした。
「さっきからお前の言葉、選び方が女に対するみたいだけど、あいつは男だぞ?」
「マジかよ。うわー、見てみてーなお前のゴシュジンサマ。男でそこまでお前に惚れ込まれてる人にスゲー興味あるわー」
男にして、この小林にずっと一緒にいたいと思わせる人間。
しかも口振りから察するに恐らく今は対等であろう関係。
何でそんな雲の上の人と知り合いで気安い関係なのかは不明だが、それを捨てて下につく覚悟まで決めているのだ。
これで興味が出ないはずもない。
「絶対に会わせないからな」
と、歩いて校門に向かおうとしたところで、小林は足を止めた。
頭痛がした。
目の前にある光景に。
目の前にあるのは見慣れた校門だ。
そしてそこに、こちらも見慣れた人物が立っている。
それだけだ。
けれど、その見慣れた人物が問題だった。










「小林ー」
校門に背を預けるように立ち、ひらひらと手を振る存在。
「花……」
呼びかけて、隣にいる存在との先程の会話を思い出して一瞬言葉に詰まり、呼ぶのではなくとりあえず駆け寄る事にした。
「なんでお前がここにいんだよ」
この学園には恐らく花崎が小林の学科としてアタリを付けているであろう犯罪心理学やその他心理学を専攻とする学科が複数あるので、秘書課に通っていることはそう簡単にばれないにしても、心臓に悪い。
今は特にタイミングが悪い。
同じ秘書課の大崎が隣にいるのだ。うっかり大崎から課がばれたらと思うとぞっとしない。
「や、久しぶりに井上の手伝い。今日はお前と一緒のやつだから拾いに来た」
悪びれもせずに ―― 実際今回はそれほど悪くはないのだが ―― 言う花崎に小林は額を押さえる。
「せめて先に連絡しろ」
そうしたら大崎にここまで付いてこさせなかったのに、と考えていれば花崎が首を傾げた。
「井上みてーな反応だな。てか、井上から連絡入ってない?」
言われて、そういえば授業後にチェックしようとして大崎のせいで出来ていなかったのを思い出す。
「……来てた」
チェックしてみれば、几帳面な井上からわざわざ2通に分けて花崎が迎えに来る件と仕事の詳細が来ていた。
学科バレする訳にはいかないので、あまり学校に来てほしくないと思っているのを井上も知っているはずだが、恐らく井上も押し切られたのだろう。というより言って聞く花崎など花崎ではない。
「じゃあちょうどいいから俺が小林拾っていくわ」
とだけ言って話を聞かずに通信を切る情景が目に浮かぶ。
あまり意固地に小林の学校へ近づくなと止めても逆に怪しまれるので仕方ない。
にしたって、毎回緊張させられるのは確かだ。
誰の所為でこんなに気を使っていると思っているんだと言いたくなってしまうが、言ってしまったらやめていいと言われかねない上、花崎の秘書になりたいのは小林自身の願望なので、花崎に文句を言うのは違うとも理解している。
感情をなんとか飲み込み、頭を抱えて重い溜息を吐いた。
「小林ー、本当に井上に似てきてね?」
花崎に額を押さえて重いため息を吐くのは主に井上だ。
「だとしたらお前のせいだ」
「えー、俺今回、何もしてないじゃん」
「してんだよ」
「え、俺何したよ!?」
困惑しながら焦る花崎に、小林は盛大な舌打ちを披露した。
「あ、今のは小林って感じだな!」
「お前なぁ…」
舌打ちされて嬉しそうにする人間がどこにいる。
本当に花崎は面倒だと小林は思う。
「まあまあ、落ち着けって」
そこに、大崎が小林を宥めるように入ってきた。
「半分以上お前の所為だ」
「えー!? 俺なにしたの!?」
だが宥めるどころか自分に矛先が向けられ、大崎も困惑する。
小林としては同じ学科の、しかも先程花崎を紹介しろと言った大崎がいなければもう少し平常心を保てたと思っているので、本人の知らぬ間にかなり重要な責任を担っていた。
「小林の友達?」
花崎は大崎を認識して身体を向け、首を僅かに傾げる。
そんな花崎に大崎はぴたりと動きを止め、姿勢を正した。
「はい! そうです!!」
その言葉を聴いた途端、花崎は手で口元を押さえてわざとらしく泣くような素振りを見せた。
「小林も普通の友達が…成長が嬉しいような寂しいような…これが親心ってやつか」
「お前を親にした覚えはない」
間髪入れずに小林のツッコミが入る。
「俺もお前を生んだ覚えはねーや」
ははっ、と笑って花崎は大崎に視線を戻す。
「こいつ借りてって大丈夫?」
「大丈夫です! お気になさらずどうぞ!」
背筋を伸ばして答えれば、花崎は首を傾げた。
「小林の友達にしてはずいぶん丁寧な人だね。元気はいいけど」
「はあ? コイツの何処が丁寧なんだよ」
普段の行動を思い返しても、小林にとって花崎程ではないにしても遠慮がないのが大崎だ。
「いやいや、喋り方も態度も全部丁寧じゃん」
うちにいるみたい、とは大崎に聞こえない程度の声で付け加えられた。
つまり使用人に接しているような気分になるということらしい。
「そういえばそうだな。こいつがおかしいんだ。どうしたんだお前?」
大崎の態度がいつもと違うのだとようやく気付いて、小林も首を傾げる。
「どうした、じゃねーよ!」
小林の反応に大崎は頭を抱えた。
「え、おい」
困惑する小林。
二人の様子を見て本当に仲が良さそうだと納得した花崎は、二人のやり取りはもう少し続くと判断して、とりあえず足をこの場に運んでくることにする。
「俺バイクとって来るからちょっと待ってて」
言って、少し離れた駐車スペースに止めてあるバイクまで小走りで向かった。




花崎が離れたのを確認して、大崎は大きくため息を吐く。
「あの人だろ、お前が言ってたの」
言葉に小林は目を丸めた。
「よく分かったな?」
「一目で分かるわ! どう見ても良家の人だろ!」
わからいでか!! と胸倉を掴まれて、そうだろうかとちらりと花崎に視線を送る。
わざわざバイクの反対側に行くのに無駄に勢いを付けて飛び跳ね、片手をシートについて飛び越え回転着地を決め、ポーズをとっている。
そこでそれをする意味がさっぱり分からない。
お前、大学生にもなったのだから、もう少し落ち着きを持てよとも思う。
「そうか? どう見てもただの馬鹿だろ」
首を傾げる小林の頭を大崎が叩いた。
「いてっ! お前本当に帯電体質な。静電気痛いよ!」
靄に弾かれたため、痛い思いをしたのは大崎であるが。
「いきなり叩こうとするお前が悪い」
基本的には肌ギリギリまで発動を抑えているし、触れられそうだとわかっている時は完全に消す努力をしているが、花崎の近くでは防衛システムとばかりに反応をよくしてしまう癖もついていた。
そうして小林自身を守ることで花崎が安心するからだ。
その状況で見えない位置から叩かれた為、対応が間に合わなかった。
「お前が馬鹿な事言うからだろ」
「馬鹿なこと?」
なおも首を傾げる小林に、大崎は溜め息を吐くことすら諦めた。
「いいか、よーく見ろ」
首が音を立てそうなほど勢いよく大崎は小林の顔を無理やり花崎に向ける。
「お前はいつも一緒にいるから気付いてないのかも知れないけどな、あの人の身につけてるもん服から靴に至るまで全部高級品だ。背伸びしてブランド物を好む学生もいるけど靴下まで気を使うやつはそういない。
なのにさっき回転した時に見えた靴下までそれだ。
靴も個人の足に合わせるオーダーメイドで有名なブランドのもの。しかも全身ブランドまみれなのに厭味なく着こなすとか言う次元じゃなくて完全に普段着扱い。さらに大振りでごまかされそうだけど所作が上品。あれは本人が意識していないほど染み付いてる。育ちの良さが分かりやすい」
「そうなのか!?」
どう見ても馬鹿にしか見えないのに、育ちの良さがわかりやすいと言われて小林は驚いた。
身につけているものも、いつも気にせず乱雑な扱いをしているし、家にいるときは相変わらずのジャージだから気にしなかったが、どうやら良いものらしいと初めて知る。
「お前、本気で秘書になろうと思ってるんならそういうところにも目がいく人間にならんと駄目だぞ?」
「気をつける」
確かに動きや持ち物で相手を見極められるというのは役に立つし、花崎の安全を考える上でも必要かも知れない。
素直に頷いたところで、ころころと手でバイクを押しながら花崎が戻ってきた。
バイクも良いのに乗ってるじゃねーかと、大崎はどうして気付かないのかと小林に溜め息を吐いた。
「話し終わった?」
「終わった」
首を傾げて問う花崎に小林は頷いて近づく。
「んじゃほれ、小林。乗れ」
言いながら、花崎は近づいてきた小林にヘルメットを放る。
「運転は僕がする」
が、受け取った小林は後部座席に乗らずにそう告げた。
「えー、別にいいじゃん。俺上手いよ?」
口を尖らせるコイツのどこが上品なんだと疑問に思いながらも、それは言わないでおく。
「知ってる。でもお前は時々遊ぶから駄目だ」
「ちえーっ」
残念がる素振りを見せつつも、大して気にしていないのか花崎はあっさり場所を譲る。
小林が座ったのを確認して、後部座席に腰を落とした。
「一度消すから、ちゃんと捕まって放すなよ」
はいはい、と言いながら花崎は小林の腰に腕を回した。
一度消して花崎と接触しながら発動すれば、触れている間は花崎も靄の効果対象にできる。
成層圏プレーンからの落下の際できたので、もしかしたらと思ったら本当にできたのだ。
これに気付いたときは「俺も無敵だ! 小林に触ってる間だけだけど!!」と花崎が大はしゃぎした。
小林も声こそ上げなかったが、花崎を守る手段が増えたことに大喜びしたものだ。
「んじゃ…ええと…」
「あ、大崎です」
花崎が大崎に視線を向ければ、言いたいことを察した大崎が名乗る。
「大崎君ね。俺は花崎。なんか名前ちょっとにてるな」
「そ、そうですね」
こんな親しげに会話して小林に怒られないだろうかと、チラリと視線を動かせば憮然としてはいたものの、睨まれてはいないので安心した。
「これからも小林と仲良くしてやってなー」
「余計なこと言わなくていい」
「照れなくてもいいのに」
「照れてない」
無表情でそう言うと、小林はエンジンをかけた。
「じゃあな」
「ばいばーい」
走り出し間際に小林が軽く挨拶をし、花崎は走り出してしまったので振り返りながら大手を振って大崎に別れを告げた。
「また」
大崎はそれを軽く手を振って見送った。
完全に姿が見えなくなったあと、力が抜けたように座り込む。
「気づかないわけねーわなー」
色々理由を述べてみたが、小林を見ていれば一目で分かった。
姿を見た瞬間、確実に表情が緩んだ。
驚くと同時に、嬉しそうで安心した顔。
花開くような、というのはああいう時に使う表現なのだろうと思った。
普段無表情のイケメンの完全に緩んだ表情のなんと怖ろしいことか。
本当に花が見えた気がした程だ。
以前一度、似たような表情を見たことがあるが、それ以上だった。
すぐに状況を思い出したらしく、渋い顔になってしまったけれど。
しかも実際に正面に立ってみれば、気安そうに見えるのに隠し切れない気品に唖然としてしまった。
いや、一応隠せてはいるというか身振りの大きさで誤魔化されそうになった。
けれど、おそらく隠す気がないというか自分がそうである自覚がないのだろう。
きちんと見ればすぐに育ちの良さが見て取れてしまった。
うまくすれば花崎家に取り入るチャンスであったはずなのに、将来大企業に就職して高給取りになってやると磨いてきた己の秘書としてのスキルが全力で邪魔をした。
細々としたところに気づかなければ! と己の目利きの有能さを悔しく思う。
「まあ、小林様のお怒りを買わずにすんだのでそれはそれでよかったのかもなー」
小林にあの顔をさせる相手だ。
迂闊に近づけば小林の反応が怖い。
大崎は自分の将来も大事だが、友達も大事なのだ。
「花崎グループの秘書と知り合いならそれはそれでコネになるしな!」
うんうん、と頷いて、自分はきちんと利も守ったのだと思うことにした。








「お友達、いい人そうだったな」
双眼鏡を覗きながら花崎が呟く。
「まあ、悪いやつじゃない」
「………へえ?」
驚いたような表情をした後、しかし聞こえた声は沈み勝ちだ。
「なんだ?」
「いや、小林がそういうのって珍しいなって思って……」
「そうか?」
珍しいと言われるようなことをしている自覚はないので小林は疑問に思う。
「そうだよ」
言って、花崎は苦笑した。
その顔を見て小林は眉を顰める。
「どうしたんだお前?」
「どうしたって?」
首を傾げる花崎に、言わなければわからないのかと思いながら、言わなければわからないのだろうと思い直して、言葉を付け加える。
「変な顔してるぞ」
花崎は口元に手を当てて笑えているか確認するように滑らせる。
「別に小林が気にするようなことじゃねえよ」
「言え。それとも僕に言えない事なのか?」
からからと笑うが、花崎のその笑いは信用できないと小林は思う。
こういう時は大体何かを内に押し込めようとしている時だと、もう5年以上になる付き合いから学んでいる。
「うーん、そんな難しい内容じゃなくて…さっきも言ったけど小林にちゃんと友達がいて嬉しいんだけど、ちょっと俺の手を離れちゃったみたいで寂しいかなって思ってなー」
まあ、俺の勝手な思いだから、本当に小林が気にすることじゃないじゃん?
と説明すれば、小林の肩から力が抜けた。
「そんなことか」
なら、小林は花崎の手を放す気がないので問題ないと判断したからだ。
「そんなことだよ」
しかし花崎は違う意味で取ったようだとも気づく。
「安心しろ。他の誰と関わりができてもお前とはずっと一緒にいてやる」
「ははっ…相変わらずお前は男前だなー。それができたら楽しそうだけどな」
楽しそう、と言いながら決してそれをして欲しいとは言わない花崎に小林は舌打ちする。
「あ、ターゲット動いた」
結局、仕事の都合もあり、それ以上話が進展することもなくその日は終わった。

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