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20 May

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14 July

Secretary 未来の話・アルコール

秘書話で成人してたりお酒飲んだりします。



「ふわふわする~」
ふらふらとする花崎は、小林に支えられることで何とか歩くことが出来ている。
完全なる酔っ払いである。
だが、これは仕方がないのだ。
会長の雄一郎程とはいかなくても、成人を迎えた花崎は必ず飲まなければならない機会が訪れる。
自分の限界量と酔った時の症状の把握と、アルコールに慣れていない体をある程度慣らす為に、時折こうして潰れるギリギリまで飲む必要がある。
「ほら、部屋についたぞ」
「んー」
あやふやな花崎をベッドに座らせてネクタイを解き、上着を脱がせる。
飲まなければならない時は大体スーツになるので出来るだけ実践に近い形ということで、花崎は飲みの練習の時はスーツを着用している。
序でにボタンも2つ程外してやれば、楽になったのか安心したように息を吐いた。
「こばやし~ありがと~」
小林に礼を言うとそのままベッドに倒れ込む。
そういえば水をあまり飲ませていないと気づき、小林は花崎の額を軽く叩く。
「まだ寝るな」
「えー」
「えー、じゃない」
小林は注意して上着とネクタイを取り敢えず椅子に掛けると、花崎が飲み始めるようになってから部屋に設置した小型冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して再び花崎の元へ戻る。
「水飲んどけ」
蓋を緩めて差し出せば、しかし花崎は受け取らない。
「のませてー」
目を閉じたまま、まったく身動きせずにそんなことを言う花崎。
つまり口移しで飲ませろということだ。
最初こそ戸惑っていたが、小林も今では完全に慣れている。
所詮これもスキンシップの一環なのだ。
深く考えるだけ無駄だ。
一口だけ含むと、そのまま花崎に口づけた。
口移しで渡される水を素直に飲み干すと、花崎は苦笑する。
「こばやしのくちぬるい」
水自体はよく冷えていたので、たとえ小林を介したとしてもそう簡単には温くならないが、触れ合った小林の唇自体は人肌の体温だ。
特に冷やしたわけでもなし、冷たい筈が無い。
「文句があるなら自分で飲め」
大体花崎は一度口移しをしてやれば満足するので、今度こそ小林はペットボトルを花崎に差し出す。
「ちぇー」
詰まらなさそうに呟きながらも、確かに花崎は受け取ろうとして、しかし手に力が入っていないのか取り落としそうになる。
少し酒に慣れたのか、前回までより少し多めに飲んでいた所為かもしれない。
「ったく…」
それを見て小林は渡すのを諦めて花崎の上半身を抱き起こしてやる。
「ほら、飲め」
口元に飲み口を当ててやり傾けてやれば、流れ込むそれを花崎は少しずつ飲み込んでいく。
「つめてー」
冷え切った水がよって火照った体に心地よいのだろう。
気持ちよさそうに表情を緩める。
その割には、体温を持っている小林には自分から密着してくるのだから世話が無い。
「こばやし、もっと」
頭を摺り寄せて水を強請る花崎に、お前、確信犯じゃねえだろうな? と小林は叫びたくなった。
が、確信犯の方がまだ可愛いものだ。
確信犯だったら小林は自制する必要などないのだから。
そうでないから質が悪い。
小林はこの、前後不覚になるまで酔った花崎に不安しかない。
もともと花崎は他人に甘える、というか振り回す人間だが、それは相手と距離感を確認した上での無意識且つ確信的行動だ。
だが、酔った花崎のこれは違う。
本当に甘えるのだ。
しかもスキンシップ過剰に。
これが仮に、小林にだけ甘えるならば構わない。もっと酔わせたいと思ってしまうかもしれない。
だが残念なことに、先日うっかり小林が離れた隙に赤石にべったりと抱き着いて褒めて褒めてとすり寄っていた。
その次は検証する為だと意図的に小林が締め出された結果、晴彦にこちらもしっかりと抱き着いて撫でてと懇願していた。
撫でられると幸せそうに笑うものだから引き離しにくく、花崎が満足するまで行われたそれに小林が拗ねた程だ。
偶然かも知れないからもう一度検証しよう、という雄一郎の意図の見え透いた提案は却下して、以降小林は花崎が限界量を飲むときは二人だけで飲むか、一番近くにいる事にしている。
雇い主だろうと小林に容赦はない。
しかし、早くある程度酒に慣れさせなければとも思う。
こんな姿を外では絶対に見せられない。
どうすれば愛されるのか知っていて、無意識にそれを実行しているのかもしれないが、酔って全力で愛を求める花崎は危険すぎる。
「僕がこんなにやってんのに何が不満なんだよ」
正直、小林は自分の想いが重いことを自覚している。
それでもまだ足りないとはどれほど飢えているのだと思う。
違う。
どれほど与えたいと思っても花崎が受け取らないのだ。
欲しがるくせに受け取らない。
受け取らないから、ずっと足りないまま。
小林の重さにも気づかないまま。
自分に受け取る資格が無いとか、受け取って無くしてしまうのが怖いとかどうせそんな下らないことを考えているのだろうと、小林は溜息を吐く。
すると溜息を吐かれたことにムッとしたように花崎が顔を逸らした。
「おい、まだあんまり飲んでないだろ。もう少し飲め」
逸らされた口元にペットボトルを持っていくが、更に逸らされる。
「お前なあ…」
あとで辛い思いをするのは花崎なのだから素直に言うことを聞けと、小林が呆れたような声で言えば、やはり表情は《拗ねた》を表現したもののまま、顔を向けてくる。
視線だけは逸らしたままだが。
「だってこばやしのませてくんないもん」
「は?」
今まさに飲ませてんじゃねーか、と言いかけて、花崎を見れば拗ねている。
どういう意味かと考えて、そういえば最初に花崎が飲ませろと言っていた状態を思い出した。
「温いんだろ?」
「そうだけど……」
温くてもあの方法で飲まされたいらしいと、小林は自分に都合よく解釈することにした。
恐らく間違えてもいないだろう。
今日はいつもより甘えたい日なのかもしれない。
これも酒の量が増えた所為かも知れない。
「文句言うなよ」
小林は花崎に飲ませていたペットボトルを煽り、水を含むと花崎に口付けた。
やはり花崎は素直にそれを受け入れた。
水が無くなって口を離せば、催促するように小林のシャツが引かれる。
その度に応えてやれば、花崎はペットボトルを飲み切るまで何度でも強請った。
「無くなったな。今日はもう寝ろ」
言って、抱えた花崎の上体をベッドに戻そうとしたが、花崎の方が嫌がって離れなかった。
「こばやしもいっしょにねよーぜー」
と、小林を押し倒そうとしているのか、少し上乗りになって小林のネクタイに手をかける。
「あのなあ」
「いいからー」
小林を着替えさせようとしているのか、ネクタイを解きシャツの前を肌蹴させる。
そして小林の素肌を花崎の手が滑った。
「花崎!」
ハッとして小林は止めに入る。
今までは仕事目線で花崎を見ていたあから、口移しだろうと何だろうと平常心を保てた。
仕事着であるスーツを脱がされるのは、多寡がそれだけのことではあるが、小林の均衡に影響しかねない。
慌てて手を掴めば、花崎は手ではなく顔を素肌の晒された小林の胸に摺り寄せる。
思わず引き離そうとしたが、花崎から零れた言葉で動きを止めた。
「こばやしがいきてるおとがする」
その一言で、仕事気分も疚しい気持ちも全てが吹っ飛んでしまった。
花崎の腕を押さえていた手からも力が抜ける。
自由になった手で、花崎は小林に抱きついてより密着した姿勢で心音を確認する。
何度か確認したあと、ふわりと表情を緩めた。
「うれしい」
その一言と表情に小林の心臓が跳ねる。
小林は今、生きたいと思っている。
生きていないと花崎を守れないからだ。
それ以上でも以下でもない生への願望だったのに、花崎の一言に胸が熱くなる。
出会った時から小林の存在を認めてくれていた花崎。
否定しなかった。拒否しなかった。
その花崎が、今は、認めてくれただけではない。
喜んでくれた。
小林が生きている。ただそれだけを、花崎が喜んでくれた。
小林の存在が花崎を喜ばせることが出来た。
どうしようもない愛しさと嬉しさが込み上げてくる。
堪らず、腕の中に花崎を全部閉じ込める様に強く抱きしめた。
強く抱きしめているのに、花崎は抵抗どころか身動ぎ一つしない。
「こばやし、もっと…」
それどころか、更に強請ってくる。
力を込めろという事ではなく、小林を寄越せと言っているのだと気づいた。
だから小林は髪に口づけながら囁く。
「全部お前んだ」
次々に溢れてくる小林の想いも、小林自身も全部。
花崎が受け取れる量に限界があるなら、それでも構わない。
求める分だけで構わないから持っていけばいい。
ホールケーキを強請って、でも一度には一切れしか食べられないというなら、小林は花崎が受け取れる大きさの分だけ切り分けて渡すだけだ。
それがケーキだろうと小林自身だろうと変わらない。
無理矢理全部を食べさせれば気分を悪くして吐き出してしまう。
恐らく花崎はそれが誰かの想いなら、辛くても飲み込もうとするだろう。
吐き出すことも耐えるだろう。
確かに全部受け取ってもらえれば小林は幸せだと思えるだろう。
だがその代償に花崎に辛さを与える存在になるなんて御免だ。
花崎は満足するまで受け取って、幸せな気分だけ味わえばいい。
それをできる存在になりたい。
それが出来るなら辛いとも寂しいとも思わない。
「全部、お前んだから…誰かに取られる心配も、無くなる心配もない。少しずつでいいんだ…」
他人の好意を自分が受け取れる存在であるということを、受け入れていけばいい。
小林の想いも…好意をどの形で受け取るかは花崎の自由だが、信じて怖がらずに受け入れてくれる日がくればいい。
例え井上が昔例に挙げたように花崎が自分のものにならないと確定する日が来ても、小林は花崎のものでい続けるから。
「安心して、欲しいなら欲しがれ」
小林が言えば、花崎は嬉しそうに笑って小林に回す腕に力を込めた。
「もっとくっつきたい」
「わかった」
花崎の言葉に頷くと、小林は花崎を寝かせるように自分の身を倒した。









起きたら目の前に肌色があった。
「起きたか」
言われて、声のした方に視線を向ければ、小林の顔がある。
「お、おはよう……って、ごめん!」
腕枕されている状態だと気づき、花崎は慌てて離れる。
「いてっ」
が、頭痛がして動きを止めた。
「二日酔いだな」
花崎がどいたので小林も起き上がり、前が開けたシャツを正してボタンを留めながらベッドを降りる。
少々腕が痺れているが、小林は気にしない。
状況もまったく気にしない。
冷蔵庫に行き、ペットボトルと瓶を取り出し、ペットボトルのうち一本は自分で呷った。
花崎は頭を抱えながら布団にもぐり直した。
頭痛からか、別の理由からかは小林には判断付きかねる。
両方かも知れない。
新しい水を手にベッドに近づいて声をかける。
「一応言っておくが、お前が誘ったんだからな」
「……おぼえてる……から…こうなの!」
覚えているから、花崎は布団から出られないということらしい。
小林の名誉の為に言えば、小林は酔った花崎に手を出すなどという真似は指一本たりともしなかった。
指一本たりとも、だ。
花崎の、もっと、という求めに応じてずっと抱きしめ続けただけだ。
なので、望みを叶えられただけの花崎がどうしてそこまで恥ずかしがっているの分からない。
「で、どうすんだ? そのまま潜ってるなら飯はこっちに持ってくるか? まだ寝るなら取り敢えず水は飲めよ」
翌日休みだからこそ花崎は昨晩限界まで飲んだ。
勿論小林も把握している。
なので寝るというならそれを止める気もない。
小林が去るはずもなく、観念したのか花崎は布団から這い出した。
「起きてあっちで食べる…」
頭痛はあるが食欲がないほどでもない。
「そうか。取り敢えず水は飲め。一応二日酔い用のドリンクもあるぞ」
「飲んどく」
手を伸ばせば、小林が手にしたドリンク剤を渡そうとして、しかし途中で手を止めた。
「飲ませてやるか?」
意味が分かって花崎は慌てて顔を逸らした。
「……自分で飲める」
その返事に、そうか、と頷くと小林はドリンクと水を渡して部屋を出る。
「うえー」
花崎はそれを見送った後ドリンクを飲んで味に呻いて、水を舌を洗うように流し込む。
水を飲み干す頃、小林は戻ってきた。
「服はこれでいいか?」
花崎家では食事の際も寝間着で食卓に着くことはない。
寝て崩れたスラックスも勿論無しだ。
なので着替える必要があるが、花崎の部屋にはクロゼットというものはない。
別にクロゼットルームが存在しているからだ。
小林はそこから服をとってきたのだ。
「ああ」
花崎が頷けば、そのシャツを花崎の背に掛ける。
「ほら、腕通せ」
「ん」
言われた通りにすれば、袖を通したシャツの前ボタンを小林が止めていく。
「何か小林に甘やかされてる気がする…」
「秘書だから世話焼いてるだけだろ」
身なりに気を配るのも秘書の仕事だ。
仕事だし、何より小林がやりたくてやっていることだ。
こうして花崎の日常に溶け込むために、この数年花崎との時間を削ってまで学校に通ったのだから。
しかも雄一郎と晴彦から出された合格ラインを守るために勉強も手を抜かなかったので学外にいる時すら勉強に追われたこともある。
『花崎』の名の大きさから考えれば、短大出の実務経験無しの人間を未来のトップに付けるだけの理由として必須だったことも理解しているので、それに不満はない。
4年制の大学に通ってもそこは大きくは変わらなかっただろうし、何より先に花崎が社会人になってしまう。
小林はボディガードも兼任できる、という点も加味されたから許可が下りたことも分かっている。
何よりも、花崎家の面々の、花崎に気心の知れた相手を宛がってやろうという甘さが一番大きいだろうけれど。
それでも、我慢と努力を重ねてやっと手に入れた立ち位置だ。
花崎の世話を焼くのは、ここ数年頑張った自分へのご褒美と言ってもいい。
どうやら自分は花崎の面倒を見るのが好きらしいと気づいたのは、小林がこの立場になってからだが。
花崎の行動を把握できて、花崎が自分に頼るという状況が嬉しいのだ。
だからこれは花崎を甘やかしているわけではない。
甘やかすというのは昨晩のようなことを言うのだ。
昨晩のあれは、小林が意図的に受け取り方を間違えて手を出すのも可能だった。
それでも小林はそれをせず、花崎の求めるものだけを与えた。
だが、甘やかすのもまた、小林の望みだ。
だから指摘してやるつもりもない。
甘やかされているなどと思わずに、そういうものだと好きなだけ小林に甘えればいい。
シャツを着せ終えるとスラックスを渡した。
流石に下は穿かせられたくないだろう。
渡されたスラックスを穿きながら、花崎は首を傾げる。
「秘書ってこんなに世話やくもんだっけ?」
「護衛も兼任だからじぇねえか?」
普通の秘書とは少し違うのだから、秘書として以外の仕事があってもおかしくはない。
まずないとは思うが、服に危険物を仕込まれている可能性だってあるのだ。
そういう意味では服を確認して着替えさせるのも立派な仕事だ。
こじつけと感じなくもないが。
「いや、ボディガードも世話はそうやかねーと思うけど」
「駄目なのか?」
「駄目って言うか…」
疑問を返され、花崎は困惑する。
実際のところ花崎は秘書の仕事がどういうものか分かっていない。
確かに赤石に着替えの準備などをしてもらったこともある。
一番近くで見てきた秘書に近い人物と言えば赤石だが、彼はいうなれば家令だ。
秘書ではない。
後で秘書の仕事についてちゃんと調べようと花崎は心に決めつつも、今どう言えばいいのか分からず、困惑したままである。
「僕は僕のやりたいようにやってるからな。駄目なら言え。ちゃんと考える」
あまりに花崎が口を閉ざしたままだから、小林が先に口を開いてそう告げる。
「小林がやりたようにやってるんなら特に駄目じゃないけど…」
正直二日酔いでだるいので、やってもらえるのは有難くもある。
それが小林のやりたいことだというなら止める気もない。
秘書の仕事かどうかはやはり分からないが。
「着替えまでしてもらうとか、何か昔の貴族みてー」
「何なら風呂で体洗ってやろうか?」
「いや、それはねえだろ」
不埒な意味ではなく、どこまでも世話を焼くという意味で割と小林は本気だったが、花崎は完全に冗談だと受け取ったらしく大笑いして、頭痛を再発させていた。
「馬鹿笑いするからだ」
小林は呆れながらも、少しでも痛くなくなればと花崎の頭を撫でてやった。
花崎は驚くも、振り払う気は起きず暫くそうされていた。








酒の量が多い程、花崎のスキンシップが過剰になる。
と、小林は昨晩の経験から学んだ。
外では絶対に花崎に必要以上に酒を飲ませないで済むよう上手く立ち回らなければならない。
誰にでもあんなことをされては堪らない。
赤石からうまく酒を飲ませない方法を学ぼうと心に決める。
そんな小林は、残念なことに『ある事実』にはまだ気づいていない。
全体的にスキンシップ過剰であるのは確かだが、『甘え方が人によって違う』という事実に。

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