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19 May

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01 November

小林がアパート暮らしする話2(パラレル)

アパート暮らしをしている小林の話その2
なれそめ的なあれそれとか。








花崎と出会ったのは小林が引き取られた施設だった。
幼い子供は共同生活を学ばせるためか、2名以上で一部屋だった。
その相部屋だった相手が花崎だ。
花崎が割とすぐに花崎家に引き取られたので、施設で一緒に過ごした時間はそれほど多くない。
ただ、小林にとって花崎は特別だった。
施設に引き取られたとき、小林は既に〝ギフト〟と呼ばれる特殊能力を有していた。
ごく稀にだが全くないとは言われない確率で特殊能力に目覚める子供たちがいる。
小林もその一人だったが、その能力と強さが異常だった。
能力の発現は感情によるものが基本だ。
両親を亡くしたばかりで、しかも施設に引き取られるという環境も大きく変わってしまった小林はギフトを制御できなかった。
故に最初は一人部屋を与えられて、施設職員すら遠巻きにしていた。
大人が恐れて遠巻きにする得体の知れない子供、というだけで子供もそれを気味悪がるようになる。
大人の対応を見ていた子供達も『お化け』や『怪物』『化け物』と言った言葉を小林に向けた。
能力に加え、アルビノという特性まで持っていた小林は異質過ぎたのだ。
そんな折、現れたのが花崎だった。
試験期間として引き取られていったものの、理由は子供には明かされないので不明だが、そのまま引き取られることはなく出戻ってきたのだ。
そして『お化けが入った』という子供たちの話を聞いて目を輝かせた。
「僕お化けってみたことない!」
そう言って小林に近づいて、見た目只の少年であることに落胆していた。
空き部屋に一人の存在というから、花崎は新人が来たのではなく本当にお化けが住み着いたのだと期待したのだ。
それがただの差別と苛めであれば、落胆も仕方のないことだろう。
「なんだ、お化けじゃないじゃん」
その言葉は他の子供達ではなく、小林に衝撃を与えた。
それ以上に続いた花崎の行動に驚きを隠せなかった。
「こんにちは! 僕は健介。新しい友達だよね? 名前は?」
自己紹介と同時に、名を尋ねられた。
名を尋ねるということは相手の個を認識するということだ。
「僕が怖くないの?」
「なんで?」
「僕に近づくと怪我するかもしれないんだ」
「痛いのはヤダな」
小林の言葉に、花崎は素直にそう言った。
「だったら……」
「でも怪我しないかも知れないんでしょ?」
「え?」
「それなら、道具と一緒だ。鋏とかだって危ないし怪我することもあるし」
子供の発想だった。
けれど子供過ぎない考えだった。
そして、自分は化け物だと思い込んでいた小林にとってそれは救いだった。
両親を失って完全に閉じた自分の世界に手を伸ばして、固く閉じられた扉を開いてくれた。
人と言葉と心を通わせる。
つまり、人間に戻れたのだ。
心が開けると同時に小林の力も開けた。
人間ならば、同じ人間に差し出された手を取っても許されると思えたのだ。
「小林…芳雄……」
名乗れば、本当に手を差し出された。
「よろしく」
元々感情に起因する力だ。
小林の心持で姿を変える。
小林はその手を握り返した。
その後、力がやや安定した小林は、施設の運動が出来たため子供達からも一目置かれていた花崎に遊びに誘われることで、少しずつ施設に馴染んでいった。
打ち解けたというよりは除外されなくなった程度の馴染みだが、それでも存在ごと否定されないだけで小林には十分だった。
小林の力が安定するならと、戻ってきたばかりで部屋の決まっていなかった花崎が小林と相部屋になった。
花崎といられたのは残念ながら半年もなかった。
花崎が花崎家に引き取られていったからだ。
けれどその数か月で、否、出会いの時から、花崎は小林にとって信仰にも近い絶対的な存在になった。

数年後、花崎が突然小林の前に姿を見せた。
少年探偵団をやるから小林も入れと誘いに来たのだ。
花崎が小林のことを覚えていたのに驚きはしたものの、花崎から伸ばされた手を小林が拒むはずもない。
頷いて、その手を取った。

その少年探偵団で収入を得始めたので、高校入学と同時に施設を出て今のアパートに移り住んだ。
探偵事務所の慰安旅行で温泉に行った際に和室に喜んでいた。
花崎家にも和館はあるのだが、生活空間としては認識されていないので珍しい気持ちがあったらしい。
それを思い出した小林は、畳のあるアパートにした。
効果は抜群で、花崎がやたらと小林の家を訪問するようになった。






両親が他界し、児童福祉施設で引き取られることとなった小林だが、幸いにしてその施設は花崎家という巨大な企業が出資している施設だった。
おかげで、小林は両親の死後の処理もその遺産相続に関してもきちんと対応してもらえた。
父は母の自宅療養の為に多額をつぎ込んでいたが、その治療に金がかかることも分かっていたのか、母の病気を研究する中で判明した様々な研究結果や治療薬で特許をとる等、少なくとも母が先も生き続けても治療を続けられるだけの財産を用意していた。
なので、小林には普通の子供が受け取るとは思えない金額と、父の持ち家が残された。
とはいえ、施設に入った小林が家を維持管理する方が大変である。
残念なのか幸いなのか、小林はさほど家に思い入れはなかったので両親の遺骨だけ引き取って家は処分してもらった。
その売金も勿論小林に相続されている。
流石に金額が金額なので後見人が付き、成人までは管理してもらっていた。
その財産はすべて小林のもとに戻っているが、流石に安アパートにおいておけるはずもなく、金庫に預けてある。
小林が望めば、もっといいマンションや一軒家を購入することも可能な額だが、現状の生活に特に不満はないので大学の学費以外は遺産には手を付けていない。
将来、花崎に何があるか分からない。
小林は今更だと思うのだが、花崎が探している兄が戻ってきて花崎が家を出たいと言い出すかもしれない。
その〝もしも〟の為に取っておくつもりだ。
花崎が悲しむだろうからそんな日は来ないで欲しいような、花崎と二人で暮らしていけるなら来て欲しいようなジレンマと小林は葛藤しつつ、どうせその日にならないと分からないのだから無意味だと、ただ準備をしておけばいいとだけ考え直して気合を入れ直した。






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