04 October 唇が荒れた話 放映開始2周年おめでとうございます!! 下記の文章は小林(触れる)と花崎が無駄にイチャイチャする(多分)話です。 でも、多分この二人付き合ってないです。 いや、付き合っててもいいんですけどあのふたりなら無自覚でもいちゃつけると思ってます!! 剥がれそうな気がする。 そう思って何とは無しに指を伸ばして剥がしてみた。 「痛てっ…!」 瞬間、上手く剥がせなかったのか痛みが走る。 大した痛みではなかったが、予想外だったのでつい声に出してしまった。 それを耳聡く聞きとった小林が、声の発信源である花崎に視線を向ける。 「どうした?」 「や、なんか唇の皮剥くのに失敗した」 「はあ!?」 苦笑する花崎に、小林は驚きに目を見開く。 皮を剥く、とは野菜や果物ならまだしも人間に使う言葉ではない、と小林は思っている。 想像するだけでも正直グロテスクだ。 唇、と言っていたから小林は花崎のそれに視線を向ければ、予想していたような状態にはなっていなかったので少しは安心したが、傷が出来たように僅かに血がにじんでいた。 それを花崎は親指で拭って舐める。 血の味に、僅かに顔を顰めた。 「最近荒れてんだよなー? 何でだろ?」 理由が思い当たらず、首を傾げる花崎。 ストレスだろう、と花崎と小林を除く面々は思った。 もうすぐ、ル・ワッカの事件が起きた時期が再び巡ってくる。 花崎は表ではストレスなどないかのように笑いながら、その実内側に自分を溜め込んでいく。 既にル・ワッカは修繕を終え、新しく警備システムも導入して再始動している。 二十面相が姿を見せなくなって一年以上。 事件を起こす故に世間に恐れられてはいたものの、怪人、という現実離れした存在に幻想を抱いていた層も一定数おり、終了してしまった新東京万博を措いて目立った存在、しかも二十面相が一度…それも偽物疑惑があったとはいえ捕らえられた場所ということもあって話題性に事欠かず、当初の見込みよりも多くの賑わいを見せている。 だからと言って、花崎のしでかしてしまった事が消える訳ではない。 誰よりも、当人の中で。 気にしない素振りを見せていても、本当に気にしないではいられないのだろう。 それも無自覚に。 そのまま教えてしまえば自覚してしまうので、どうやってストレスであることをあの事件とは絡ませずに伝えられるか、と考えている井上達の横で、小林は目の前の事態に対応しようと動く。 花崎の肩を掴むと、再び血が滲み始めた傷を舐めた。 「うえっ?」 驚く花崎の声は無視して、美味しいとは思えない味を舌先に感じながらも不快には思わず血が滲み続けるそれをひたすら舐める。 「こばっ……こば……やし!」 唇が舐められている為うまく口を開けず言葉を詰まらせながらも、花崎も小林の肩を掴んで押し返し距離を取る。 「なんだよ」 「も、もう平気だから!!」 そう告げる花崎の唇には、しかし再び血が滲んでいる。 「まだ血が出てるぞ」 平気ではないだろう、と言外に問われる。 「ずっと舐めてたら逆に治んねーって」 血は、傷を塞ぐ効果もあるのだ。 完全に舐めとってしまったらその効果が見込めない。 「でも怪我したら『舐めときゃ治る』んだろ?」 だから小林は舐めたのだ。 早く治そうと思って。 「それで全部が治る訳ねーだろ! それに唇舐めすぎると逆に荒れるらしいし」 舐めれば治るというのも全くの嘘ではないが、逆に雑菌が入る危険性もあると言われている。 現代医学で言うなら危険性の方が高い。 さらに唇で言うなら余計に荒れる可能性も高い。 「そうなのか?」 「そうなの!」 きっぱりと言い切られて、小林は渋々引き下がった。 翌日、再び小林は花崎の唇を舐めた。 「って、今日は血とか出てねーよ?」 驚いて小林の顔を押さえる花崎。 「なんかうまそうな匂いがした」 押さえられた手から顔を離しながら小林はそんなことを言う。 「あー…リップクリームだな。はちみつ入ってる量が多いから蜂蜜の匂いすんだよ。でも舐めても別に美味くねえだろ?」 一応すべて食用品で作られているリップクリームらしいが、だからと言って美味しい味などしたら小林ではないが舐めてしまう人間も増えてしまう。 世の中には実際美味しいと感じてしまうリップクリームもあるらしいが。 「そうだったか?」 一瞬のことだったので思い出せずに首を傾げる小林の前で、花崎は剥がされたクリームを塗り直そうと取り出す。 蓋を開けた瞬間に、それだけで甘い気がする匂いがした。 「そりゃちょっと甘い気はすっけど」 実際僅かに甘い気もするが、入っている蜂蜜の匂いか成分の所為だろう。 そんなことを考えながら塗ったクリームを、再度小林にい舐めとられる。 「やっぱちょっと甘くねーか?」 舐めて確認するが、少なくとも不味いとは小林は思わなかった。 「いやだから舐めたら折角塗ったクリーム剥がれんじゃん!!」 「また塗ればいいだろ」 「塗るたびに剥がされてたら無駄じゃん。てか舐めるもんじゃねーし!」 「なら塗らなきゃいいだろ」 無駄だというなら塗らなければいい、と小林は思う。 「治んねーだろー!」 「僕が舐めて治してやる。すぐに治んなくても何回かやってりゃ治るだろ」 怪我だって舐めてすぐに治るわけじゃないのだから、荒れだって繰り返していればそのうち治るのではないか、と小林は考えている。 「荒れてんのは怪我じゃねーし、舐めても治んねーって! それで治るなら自分で舐めて治してるっつーの!」 唇ならば自身で舐めることも容易だ。 それで治るなら花崎だって既にやっている。 「ならどうすんだよ」 「いや、何もしなくていいし」 唇は刺激を与えすぎても荒れるのだ。 きちんとケアをしたならそれ以上は何もしないのが一番ともいえる。 「それで治んのかよ」 昨日の傷は流石に治っているが、まだ花崎の唇は荒れているのだ。 怪しむ視線を小林は花崎に向ける。 「治る治る。スッゲー治る」 普段は別に荒れたりしないのだ。 そのうち治るだろうと花崎は思っているので素直に頷いた。 「ふーん……」 花崎がそこまで言うならそうなのかもしれないと頷きつつ、顔を近づけると、また甘い匂いがした。 「ってなんでまた舐めんだよ!」 「美味そうな匂いがするのが悪い」 小林だって意図して舐めているわけではない。 蜂蜜のような匂いは、つい舐めてしまいたくなるのだ。 そして気づいたら本当に舐めている、というだけである。 「だから舐めてもうまくねーって言ってんじゃん!」 花崎はそう言うが、実際舐めた小林はそうは思わない。 「なんか美味い気がするから大丈夫だ」 「いや、俺が大丈夫じゃねーけど」 せっかくのリップは台無しにされるし、何より何度も唇を舐められる、というのは胸の方が擽ったい感覚に襲われる。 「大丈夫じゃないのか!?」 だが大げさなほど驚いて焦る小林に、そういう意味じゃねーよ、と花崎は笑う。 「なんつーか……照れ臭い」 素直に白状すれば、小林は首を傾げた。 「駄目なのか?」 必要ない、とか、舐めるものじゃない、とは言ったが、一度も駄目だとも嫌だとも花崎は口にしていない。 「駄目……じゃねーけど……」 ただ恥ずかしさが募っていくというだけで、花崎も別に嫌だとは思っていないのだ。 なので思わずそう呟いたが、直後に恥ずかしさのゲージが頂点に達したのか「やっぱダメ」と言おうとした。 が、それより先に小林に言葉が封じられてしまった。 書類を広げる井上の机にピッポが降り立つ。 「井上―、あれ止めなくていいのー?」 野呂は目の前で繰り広げられる訳でもなく、平和そうで何よりだと思わなくもないのだが、同じ空間に存在している井上の負担になっていないかと少しばかり心配している。 花崎の唇が度々舐められる理由がリップクリームの匂いだとして、つまり小林は常にその匂いに気付く程近くにいるということだ。 無駄に近すぎる距離を解消させれば、あの無駄なやり取りはあっさり終了する。 井上はちらりと二人を見て、呆れたように溜息を吐きながら視線を書類に戻す。 「好意を持つ相手とのキスとハグはストレスに良いらしいと大友に言われた」 兄弟が多い勝田に相談しようと思ったのだが、仕事で忙しい上に勝田は面倒見が良いが意外とスパルタなところがあるので、大友に科学的に何か解決策はないだろうかと相談したところ「アイツといちゃつかせておけば―?」と、そう返された。 ふざけているのか、と怒ったところ、上記のような答えが返ってきたのだ。 「なーるほどー」 つまりああしていちゃいちゃとやり取りしていれば、花崎のストレスは緩和される可能性があるのだ。 ストレスであると自覚させることなくそれを取り除くことが出来るならば、と、多少やかましかろうと、来客中でもなければ放置すると井上は決めた。 野呂も、それが井上のストレスにならないなら思う存分いちゃついて楽しめばいいと思う。 スルーする二人と違い山根だけが、目の前で繰り広げられるじゃれあいから真っ赤になって顔を逸らした。 浮気調査などはしている筈なのに、やはり目の前で直接行われるとまた随分違うものに見える。 多少の耐性は付いたものの、やはり多感な年頃だ。 男同士で、という以前に、そういった行為を目にした時どうしたら良いのか分からず困惑していた。 PR