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20 May

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10 September

吸血契約 2

小林が吸血鬼の話2。
基本を本編に寄せているので吸血鬼である意味はあるのかとか思わないでもないのですが、
やっぱり花崎の首筋に噛みつく小林と、ちょっとエロい感じになってる花崎が見たいんです!
完全に趣味の産物です! いえ、二次創作自体が趣味の産物ですが!!









口の中に広がるのは、充足感。
喉が渇いたときに果汁をたっぷりと含んだ果実に噛みついたように体中に染みわたるような感覚。
初めて口にするまでは、口をつけると考えただけで抵抗があり、そんなものを飲み込むなど想像するだけで不快感しか湧かなかった。
しかし、不可抗力とはいえ一度口にしてしまえば、恐ろしい程あっさりと体に馴染んでしまった。
今は当然のように他人の肌に口をつけ歯を立てることが出来る。
それが恐ろしいとは思う。
抵抗感がないということは、意志をもって止めなければ必要以上であっても求めてしまう可能性がある。
伝承、と言う程でもないが物語の悪として伝わっている同類の存在は、恐らくこの恐怖を持たなかったのだろう。
人の形をしておきながら、人間であることを辞めた、或いは諦めた。
きっと彼らは〝人間〟ではなく、正しく〝化け物〟だったのだろう。
自分が誘惑に負けて、〝それ〟になってしまうのは特別人間が好きという訳でもないのに、何故か酷く恐ろしい。
「こば……や……し……」
上手く呂律の回らない花崎に、か細い声で名を呼ばれる。
抵抗、という訳ではないのだが、終わりだと訴えるように軽く袖を引かれる。
行為の所為で体に力が入らない中での精一杯の主張だ。
毎度惜しい気もするのだが、これ以上は花崎の回復に時間がかかる。
仕方ないと諦めて、小林は口を離した。
最後に一度傷跡を舐める。
そうすると、傷は塞がり残るのは鬱血したような痕だけだ。
これだけ見ると吸血鬼の唾液…というか体液は中々に便利なものである。
この特性があるので小林自身簡単に死ぬことも出来ないと考えれば、こうして血液を提供してくれる花崎がいなければ判断に悩むところだが。
「うーん……ちからは…入んねー…けど、これくらいなら、そんなに、意識、持ってかれねー……んだよな」
一息で言い切るにはまだ体が落ち着いていないので、ゆっくりと呟きながら花崎は意識の靄を振り払うように軽く頭を振る。
ある一定の量までなら小林の〝食事〟が終わってそれ程間を置かずとも、まともに言葉を発することが可能な程度には意識の混濁は小さい。
それが分かってからは、花崎はその段階の一歩手前で小林を止めるようにしている。
小林もそれに素直に従っている。
貴重な餌だ。大事にしたい。
少し落ち着いたらしい花崎がそのまま倒れるように横になる。
「もう寝んのか?」
「うん。普通にもう寝る時間だし……」
うとうととしながら花崎は緩慢に言葉を紡ぐが、思い出したようにはっと目を見開いた。
「そうだ、小林! 明日は一緒に事務所行こうぜ!!」
起き上がる気力はないのか、横になったままだが先程とは大違いの元気のある声で楽し気に告げる。
「事務所?」
「力貸してって言ったじゃん! 小林が俺の血だけで大丈夫なのもここ暫くで分かったし、皆に紹介すっから!」
「前にお前が言ってた取引内容のやつか?」
「そうそれ!」
「わかった」
既に幾度も血を提供されている小林は、自身も約束を守る必要があると判断したので素直に頷いた。








「せんせー! 俺、吸血鬼拾ったー!!」
事務所に入ると同時に花崎は大きな声でそう告げた。
「うちでは飼えないから元の場所に返してきなさい」
慣れたように即座に所長の明智からそんな答えが返ってきた。
「大丈夫! うちで飼ってるから!!」
明智の言葉に花崎は胸を張った。
「おい」
飼っている、という表現に小林が声をあげるが、花崎は聞こえていないのか気にしていないのか全くスルーして明智に話し続ける。
「でさでさ、こいつ面白いし割と無敵っぽいから少年探偵団に入れていい?」
「何を考えているんだお前は!!」
問われた明智ではなく、別のところから声が上がった。
「なんだよ井上、別に変なことは考えてねーけど?」
突然の井上の叫びに、花崎は本気で首を傾げる。
「じゃない! 吸血鬼なんて得体が知れない上に人に害がないと言い切れない存在をおいそれと加入させようとするな!」
「え、井上、小林が吸血鬼って信じてくれんの?」
井上の叫びに、花崎は別の意味で目を瞬かせた。
「お前がそう言ったんだろう! お前の話は嘘であって欲しいと思うものもあるが、残念ながら基本的に嘘がない上に、誤魔化しが下手だ。そのお前が堂々としているということは本当なんだろう」
「誤魔化し下手で悪かったな!」
正直だと言われているようにも聞こえるが、まったく良く取れる言い回しではなかった。
「いーじゃん! 小林が血を飲むの俺だけで他の誰かの迷惑になるわけでもねーんだし」
「そんなの分からないだろう! というか本当に人間の血を吸うのか! 危険じゃないか」
「だから、俺の血飲んでんだから大丈夫だって言ってんじゃん」
「お前の血だけで足りている保証もなければ、今後お前に牙をむかないとも限らないんだぞ!」
足りている、と言いたいところだが現状小林にとっては不足はないのであって、時折もっと欲しいと思ってしまうのも確かなので小林は口を噤んだ。
顔逸らして小さく舌打ちする小林を目の端に捉え、花崎は少し考える素振りを見せてから井上に向き直る。
井上の懸念は、自分や他の仲間に対するものでもあるが、何よりも小林を近くに置いている花崎の為のものだ。
「じゃあ井上、小林のこと殺せる?」
「何?」
殺せ、と穏やかでない言葉に井上は目を見開く。
「小林は化け物になりたくないから、殺せっていうんだよ。で、俺は小林に興味があるし殺したくもねーから取引したんだけど」
花崎との力を貸す代わりに血を提供するという契約を解除してしまえば、小林は必要な血液を得る為に新たな取引相手を見つけるか、見つからなければ人を襲う必要が出てくる。
それは最初小林が花崎に言った通り、本人の意思に反して無差別に行われてしまう危険性がある。
そうなるくらいなら死にたいというのが小林の主張だ。
「それは……」
花崎の言葉に井上は言い淀む。
契約も駄目、殺すのも無理、では只の無責任である。
「もし研究機関に届けるとか言ったら流石に怒るよ?」
人の形はしているし、心根も人間だと花崎は思っている。
しかし、体は吸血鬼という独特の性質を持っている。
そんな存在を公的であれ私的であれ、研究機関などに知られてしまえば小林の扱いは人間とは思えないものになる可能性は高い。
絶対にそれはないと確証がない限り、花崎としては断固として反対である。
井上としてもそんなつもりは勿論なく、個人的願いとしては明智ではないが『元居た場所に返してこい』である。
「はい井上の負けー」
井上が言葉を紡げなくなったところで、明智の声が響いた。
「先生!」
咎める声音で井上が呼ぶが、明智は聞く耳持たずで花崎に話をふる。
「花崎、ちゃんと面倒見れるな?」
「じゃあいいの?」
「ここのルールに従うならな」
「やっりー!」
花崎が喜んだところで、ピッポを通して溜息が届けられる。
「まあアケチンの事務所だし―、アケチンが良いなら野呂ちんは止めないけど―」
「野呂まで……」
裏切られた…と言うよりは捨てられた子犬のような目で井上はピッポを見上げる。
「だーってぇー、野呂ちんだってそんな訳分かんなくて不気味ってるの正直微妙だけどー、アケチンと花崎がGO出して止められる訳ないじゃーん」
「それは……そうだが……」
野呂の言葉に、井上も諦めたように肩を落とした。








とはいえ、花崎だって別に井上を不安にさせたい訳ではない。
仲間になった以上、小林を受け入れてもらいたいとも思う。
「そんなわけで、井上がウッセーから何か小林が安全だって証明する方法ない?」
井上を措いて、色々と証明が得意な大友に花崎は相談する。
「って言われてもねえ……」
目線の先には乗り気も何も見えない無表情な小林。
「まあとりあえず、吸血鬼って初めて見たから、できれば証明も含めて血を飲んでるところ見せてもらいたいんだけど」
「駄目だ」
花崎が答える前に拒否したのは小林だった。
「なんでー? 花崎の体調とかにも注意を払えるし、安全でいいと思うんだけど」
「飯食ってる間が一番無防備になんだぞ。他の気配があるところで飲み食いできる訳ねーだろ」
そこにいた面々には予想外の小林の回答であった。
「ここは生存競争に厳しい自然でもないから、食事中に無防備になっても襲われたりしないよ?」
大友の言葉に、しかし小林は首を振る。
「駄目なもんは駄目だ」
「何でそんなに駄目なの?」
あまりにも頑ななので、花崎も気になって問う。
「安全だと思う場所に折角とった木の実を置いておいたら他の動物に持ってかれたことがある。アレの後のお前は暫く無防備だ。放置したら横取りされるかもしれねーだろ」
小林の言葉は経験からくる主張であった。
「吸血鬼いないから流石に人間を横取りする相手もいないと思うけど?」
余程警戒しているようだが、状況というのも加味してもらいたいと大友が言うが小林は頷かない。
「とにかく駄目だ。コイツは僕んだ」
意地でも譲りそうにない小林に、大友は少し悩んで自分を親指で指した。
「なら、俺の血は? どんな感じになるのかも知りたいし」
花崎を専用の食料と決めているなら、その他なら小林も譲るのではないかと自身を提案する。
「お前はなんか怪しいから嫌だ」
しかし大友にとっては心外な理由で拒否されてしまった。
花崎という定期的に血を提供する存在がいるので選り好みする余裕はあるらしい。
「えー…純粋な好奇心なのにぃ~。じゃ~あ、山根の血はー?」
「え!? ぼ、僕ですか!?」
大友が諦めきれずに山根を示せば、山根が驚きに目を見開く。
「花崎見てる限り体に問題はなさそうだしねー。何かあったらすぐにサポートしてあ・げ・る・からあ~んしんしなさ~い」
「でも……」
「要らねー」
困惑する山根に、またしても拒否を示したのは小林だ。
これでは何も情報が得られないと大友は少しばかり考えを巡らせる。
「花崎、いつもどれくらいの頻度でこいつに食われてんの?」
必要になれば選り好みもしなくなるかもしれないと考え、大友は花崎に訊ねる。
「え、毎日夜寝る前かな。何つーか、ちょっとを毎日の方が俺が楽だから」
最初の頃は小林が飢えるまで待ってみたものだが、1週間明けた結果、翌日の体調に影響が出た。
ならばと空ける期間を5日、3日と試して、結局毎日が一番楽だという結論に至った。
「夜なのね」
だとしたら、次に血が欲しくなるのも夜なのかもしれない、と大友は悩む。
「だってそれならちょっとくらっとしても寝るだけだし」
「てことは、こいつお前んちにいんの?」
夜寝る前、と言うことはその時間に小林が花崎の家にいる必要がある。
その時間に通うのもあるが、花崎家が毎日夜に通ってくる謎の少年を許容するとは思い難い。
「家も無かったみたいだし、うち部屋余ってたしちょうどいいかなって」
「え、先輩のご家族は何も言わないんですか?」
常識的に考えて、まだ子供とは言え身元不明の人物を家に迎え入れるのはそれなりに抵抗があるものだ。
小林の外見から考えて、家出かも知れないので警察に届ける場合もあるだろう。
だというのに、部屋が余っていたから住まわせた、とあっさり言う花崎の感覚が山根には理解できない。
「ちゃんと説明したら『そうですか。では血液が増えそうな食事をご用意いたしますね』って言われた」
「それでいいんですか!?」
花崎の家人の反応に山根が驚きの声をあげる。
そんな山根に大友が肩を竦めて口を開いた。
「ただでさえ謎の存在なんだから、下手に動向が掴めないより、手近に置いておいた方が対処しやすくて安全て考えたんでしょ」
何かあった時の花崎の対処にしろ小林の処分にしろ。
そして、花崎家は花崎に甘い。
花崎が興味を持って友人として招いた存在を、安易に拒絶したり危害を加えたりはしないだろう。
花崎に害がない限りは、と付くが。
血を吸われているのは害だと思うのだが、花崎が笑顔で容認しているうちは黙っていそうではある。
「成程」
「へー! そういうことかー!!」
納得したらしい山根の声にかぶせて、花崎も納得顔だ。
「お前は分かってなかったの?」
「いや、あんまりにもあっさりだから信じてないのかなーって思ってた!」
「もうちょっと考えなさい」
やれやれと溜息を吐いて大友は小林に顔を向ける。
「でもそうしたら、今晩お預けしたら小林君も山根で妥協する?」
「僕はコイツしか要らない」
大友としてはデータが欲しいのだが、やはり小林は拒否だ。
「確かに花崎は血の気は多いけど……そんなにこいつ美味しいの?」
確かに血の気が多くて健康そうではあるけど、と大友はまじまじと花崎を見る。
「知らねー」
「知らないの!?」
この小林の答えには花崎も驚く。
「血の味なんてわかる訳ねーだろ。ただ……なんかスッゲー喉乾いたときに水飲んだみたいな感じだ」
「美味しいとかじゃなくて満たされるとかなのねー。でもそれならやっぱり花崎じゃなくてもよくない?」
大友の疑問に小林は想像したのか、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「人間に噛みつくとかフツーに嫌だろ」
まさかの答えに、一同が驚く。
もはや根本的な部分の否定である。
「でも毎晩噛みついてんじゃん?」
「お前は慣れた」
そもそも、最初に無意識とはいえ噛みついて血を飲んだのだ。
小林としては今更である。
「慣れの問題なんだ?」
「ならお前はよく知りもしない奴に噛みつくとかできんのか?」
「あ、そりゃできねーな」
小林の言葉で花崎も納得した。
花崎は小林にとって安全が確認されている上に契約もしている。
態々危険を犯す必要も不快な思いをする必要もない。
「うーん、でもそれだと安全を証明するのは難しいねえ」
さてどうしたものかと大友が悩む。
「する必要ねーだろ」
「いや、あるだろ?」
小林の言葉に花崎がツッコんだ。
「あんのか?」
何をどう証明しようと、小林に花崎の血が必要なのは確かで、それ以外の人間を襲う気もないのも小林は自身で理解している。
他人にそれを証明したところで事実は何も変わらず、態々証明する必要性が小林にはさっぱり分からない。
「なかったら態々頼みに来ねーって」
しかし、花崎は必要だという。
「ならどうすんだ?」
「だからどうしようかって悩んでんだろ。小林ももうちょっと協力しろよなー」
「協力……」
少し考えて、小林は舌打ちして花崎の肩を掴んだ。
「何?」
「飲んでるとこ見せりゃいいんだろ?」
正直、絶対に嫌なのだが、花崎が協力しろというのならば仕方がない。
かといって他の人間に噛みつくなど絶対に嫌なので、小林の妥協点は不服ながらもそこになる。
「痛っ……こばやし、そういうのは……ひと、こと……」
いきなり噛みつかれて抗議の声をあげたものの、花崎は直ぐに大人しくなった。
首筋に噛みつかれながら身を預ける姿は一種のラブシーンのようで、山根は思わず赤くなって目を逸らす。
大友は、予想以上に吸血による効果が花崎に出ていることに驚きながらも、興味深そうに観察する。
それに気づいた小林は、何時もよりかなり短い時間で吸血を終わらせて花崎を隠すように抱え込む。
「もういいだろ」
「いや、花崎の状態が見たいんだけど」
もういいだろ、と言われても、分ったのは小林が花崎に噛みついた事実とそれによって花崎が大人しくなったという事だけである。
「駄目だ」
大人しくなったとして、どういう状態なのかをきちんと把握しておきたい大友だったが、小林はきっぱり否定して花崎を隠してしまう。
「あのねー、お前それで花崎に悪い影響が全くないって言いきれんの? 保障ある?」
「………」
呆れるように大友が言えば、小林は言葉に詰まる。
小林の知る知識は何となく意識にあるものと、他人から聞いたものだけだ。
確証も無ければ証明のしようもない。
もしそれが間違えていて、花崎に何かあったら小林も困る。
「………見るだけだからな」
嫌そうに顔を歪めながらも、絶対に奪われないように後ろから抱きしめるように抱え込んで大友に見せる。
花崎の為と思えば不承不承とはいえ行動に移す姿に、大友は苦笑した。
この様子を見る分には、小林が危険とは大友も思わない。
できるだけ短時間で済ませてやろうと、花崎に語り掛ける。
「花崎喋れる」
「んー………まあ……」
「微妙そうだね」
「もー……ちょ、とぉ……」
だいぶ慣れたもので、どれくらいで影響が抜けるのか花崎自身にはある程度予想がついていた。
「噛み痕は……成程。こんな感じか」
痕はほとんど残っていないが、花崎の様子を見るに実は噛みつかれていないとは考えにくい。
ならば塞がったという事だろう。
「これはこれで面白いねぇ……」
吸血するしない関係なく傷を塞ぐことが出来るとしたら、大いに役立つ能力だ。
確認が必要になるが。
「花崎、ごめんねー」
謝罪しながら、花崎の手を取って、その甲に傷をつけた。
「っ……」
「おい!」
慌てて大友から花崎を引き離し、その傷を舐める。
直ぐにその傷は塞がった。
花崎の手には仄かに赤い線が残るだけだ。
それを見て大友は目を輝かせる。
「わーお。これはこれは。井上を黙らせるには格好の材料じゃないのー」
「何がだよ」
花崎にけがを負わせておいて喜ぶ大友を睨みながら、一応意味があった行動だと理解して小林は問う。
「お前が舐めると怪我が治るっていうの、かなり重要よ?」
「そんなことの何が重要なんだ?」
怪我なんて放っておいても治る。
ただそれが少し早くなるだけだ。
確かに痛い時間は短くなるだろうが、それだけだ。
何も分かっていない小林に大友は肩を竦める。
「あのねー。井上は訳が分からない上に危険かもしれないから嫌がってーるーのー。ところが怪我をさせるどころか治せるとなれば話が変わってくるっては、な、し」
「それ教えたら、井上、小林受け入れてくれる?」
「性格の相性もあるだろうけど、安易に否定はしなくなると思うよ」
「よかったー」
大友の答えを聞いて花崎は安心したように力を抜いて小林に寄りかかった。
それを見て、おや、と大友は思う。
花崎は親しい相手には簡単に抱き着きはするが、抱きしめられる認識はないのか、力を抜いて背中を預けたりはしない。
しかし、まるで絶対に支えてもらえると認識しているかのように力を抜いた。
まあ抱きしめられていたのだから支えてもらえない心配はないのも確かだが。
それでも、まだ出会って数週間程度らしい相手にしては随分と気を許しているのだと思ったのだ。
契約とやらが縛っているからなのかもしれないが、距離感はそれだけで形成されるものではない。
大友の小林に対する評価は随分と上がる。
簡単に人に頼るくせに断られても気にしない……口先程心の内では人に寄りかからない花崎が信頼している、というのはそれだけで大友にとってはステータスだ。
これは何としても、花崎の傍にいることを井上に認めさせてやろうと大友は少しだけやる気になった。
「ということで、これに唾液頂戴」
とりあえず調べるべきは唾液だろうと、シャーレを取り出して小林に差し出せば、小林は花崎ごと身を引く。
花崎を傷つけたり唾液をよこせと言ったり、大友の認識の上方修正に対して反比例する認識を持ったのだ。
嫌そうにしながらも花崎に言われて渋々従うあたりで、飼い主が大好きな犬のようだと大友は別に不快にはならなかった。





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